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自己免疫疾患をざっと1日で理解する。【問題演習あり】【解説付き】



1. 自己免疫疾患の概要

自己免疫疾患とは、免疫系が自己の体内組織を異物と認識し、攻撃する疾患群である。正常な免疫系は外部の病原体に対して反応し、体を守る役割を果たしているが、自己免疫疾患では免疫系が誤って自己の組織を攻撃する。この異常な免疫反応が自己免疫疾患の根底にある。

2.免疫系の基本構造と機能

1. 免疫系の概観

免疫系は、体内の異物や病原体から身を守るために進化してきた複雑なネットワークである。免疫系の主要な機能は、病原体や異物を認識し、排除することである。これには先天性免疫(非特異的免疫)と適応免疫(特異的免疫)の二つの主要な要素が含まれる。免疫系の正常な機能は、体の健康を維持するために不可欠である。

2. 先天性免疫系(Innate Immunity)

2.1 先天性免疫の概要

先天性免疫系は、生まれつき備わっている免疫防御機構であり、迅速に反応する。非特異的な反応であり、特定の病原体に対して特異的な記憶を持たない。主な構成要素としては、物理的バリア、化学的バリア、細胞性免疫反応、そして炎症反応がある。

2.2 物理的および化学的バリア

  • 皮膚: 皮膚は最初の防御線として機能し、物理的に病原体の侵入を防ぐ。皮膚の表面は角質層で覆われており、強固なバリアを提供する。

  • 粘膜: 粘膜は呼吸器、消化器、泌尿器などの内臓表面を覆い、病原体の侵入を防ぐ。粘液や分泌物は病原体を捕える役割を果たす。

  • 化学物質: 皮膚や粘膜から分泌される化学物質(例:皮脂、酸性の汗)は、病原体の成長を抑制する。

2.3 細胞性免疫反応

  • マクロファージ: 大きな食細胞であり、病原体を貪食し、分解する。さらに、貪食した病原体の情報をT細胞に提示することで、適応免疫反応を誘導する。

  • 好中球: 白血球の一種で、感染部位に迅速に移動し、病原体を殺菌する。炎症反応の初期段階で重要な役割を果たす。

  • 自然免疫系(NK細胞): ウイルス感染細胞や異常な細胞(例:腫瘍細胞)を直接攻撃する。抗原の特異性を持たず、広範囲な攻撃を行う。

2.4 炎症反応

炎症反応は、免疫系が感染や損傷に対して反応する過程である。炎症は、感染部位への血液供給の増加、白血球の動員、病原体の除去を目的とする。炎症には、局所的な(例:発赤、腫れ、熱、痛み)および全身的な反応(例:発熱、全身倦怠感)がある。

3. 適応免疫系(Adaptive Immunity)

3.1 適応免疫の概要

適応免疫系は、特定の病原体に対して特異的に反応し、記憶を形成する。適応免疫には、主にT細胞とB細胞が関与しており、二次感染に対する迅速かつ強力な反応が特徴である。適応免疫は、初回の感染時に遅延があるが、再感染時には迅速に反応する。

3.2 T細胞(Tリンパ球)

  • T細胞の分類: T細胞は、CD4+ T細胞(ヘルパーT細胞)とCD8+ T細胞(細胞傷害性T細胞)に分類される。ヘルパーT細胞は、B細胞や他の免疫細胞を助ける役割を果たし、細胞傷害性T細胞は感染細胞を直接攻撃する。

  • T細胞の発達: T細胞は、骨髄で生成され、胸腺で成熟する。胸腺での選別過程により、自己反応性のT細胞が除去される。

  • 抗原提示: T細胞は、抗原提示細胞(APC)から抗原を受け取り、免疫応答を開始する。APCには、マクロファージ、樹状細胞、B細胞が含まれる。

3.3 B細胞(Bリンパ球)

  • B細胞の機能: B細胞は、抗体(免疫グロブリン)を産生し、体内の病原体を中和する。抗体は特異的な病原体に結合し、病原体の排除を助ける。

  • B細胞の発達: B細胞は、骨髄で生成され、末梢リンパ組織(例:リンパ節、脾臓)で成熟する。成熟したB細胞は、特定の抗原に応答する抗体を産生する。

  • 抗体の種類: 主な抗体クラスには、IgG、IgA、IgM、IgE、IgDがあり、それぞれ異なる機能を持つ。例えば、IgGは血液中に豊富で、長期的な免疫記憶を形成する。

3.4 免疫記憶

適応免疫系は、初回の感染時に特異的な免疫応答を形成し、記憶を残す。これにより、再感染時にはより迅速かつ強力な反応が可能になる。免疫記憶は、主にメモリーT細胞とメモリーB細胞によって維持される。

  • メモリーT細胞: 初回の感染後に残存し、再感染時に迅速に反応する。

  • メモリーB細胞: 初回の感染で生成された抗体を記憶し、再感染時に迅速な抗体産生を行う。

4. 免疫系の調節

免疫系の調節は、過剰な免疫応答や自己免疫を防ぐために重要である。調節には、免疫寛容や抑制機構が含まれる。

4.1 免疫寛容

免疫寛容は、自己組織に対する免疫応答を抑制するメカニズムであり、自己免疫疾患の予防に重要である。

  • 中枢免疫寛容: 骨髄や胸腺で、自己反応性のT細胞やB細胞が除去される。

  • 末梢免疫寛容: 中枢での寛容が完全でない場合、末梢での免疫応答が調節される。制御性T細胞(Treg)が自己反応性の細胞を抑制する。

4.2 制御性T細胞(Treg)

制御性T細胞は、自己反応性のT細胞や過剰な免疫応答を抑制する役割を持つ。Tregは、サイトカイン(例:IL-10、TGF-β)を分泌し、免疫応答の調節を行う。

4.3 抗炎症反応

抗炎症反応は、免疫応答が過剰になることを防ぐメカニズムである。抗炎症サイトカイン(例:IL-10、TGF-β)が免疫反応を抑制し、組織の損傷を防ぐ。

5. 免疫系の異常

免疫系の異常は、免疫疾患の発症につながる。以下に主要な異常の例を示す。

5.1 アレルギー

アレルギーは、過剰な免疫応答によって引き起こされる疾患である。IgE抗体が関与し、アレルゲンに対する過剰な反応が特徴である。

5.2 自己免疫疾患

自己免疫疾患は、自己組織に対する免疫応答が異常になる疾患である。自己反応性のT細胞や自己抗体が関与し、自己組織が攻撃される。

5.3 免疫不全

免疫不全は、免疫系の機能が低下する状態である。先天性免疫不全や後天性免疫不全(例:HIV感染)が含まれる。免疫不全により、感染症や腫瘍が増加する。

3. 自己免疫疾患の発症メカニズム

自己免疫疾患は、免疫系が自己の正常な組織を異物として認識し攻撃する病態である。この発症メカニズムには、遺伝的要因、環境的要因、ホルモンの影響、そして免疫系の異常が関与している。以下に、これらの要因について詳細に説明する。

3.1 遺伝的要因

自己免疫疾患の発症には遺伝的要因が深く関与しており、特定の遺伝子が疾患リスクを増加させることが多くの研究で示されている。

HLA遺伝子

HLA(Human Leukocyte Antigen)遺伝子群は、免疫系における抗原提示を担う主要な遺伝子であり、自己免疫疾患のリスクに強く関連している。HLA遺伝子は、体内の細胞が外部の抗原を免疫系に提示する役割を果たしている。特定のHLA型が自己免疫疾患の発症リスクを高めることが知られている。

  • HLA-B27: 強皮症、関節リウマチ、強直性脊椎炎(AS)などの疾患と関連している。HLA-B27は、免疫系が自己組織を異物として認識しやすくするメカニズムに関与している。

  • HLA-DR4: リウマチ性関節炎(RA)と関連している。HLA-DR4は、自己免疫反応を引き起こす自己抗原の提示に影響を与える。

これらのHLA遺伝子型は、疾患の感受性を高めるだけでなく、疾患の進行や重症度にも影響を与える。

PTPN22遺伝子

PTPN22(Protein Tyrosine Phosphatase, Non-Receptor Type 22)遺伝子は、T細胞の機能に重要な役割を果たしている。PTPN22遺伝子の変異は、自己免疫疾患のリスクを増加させることが多くの研究で示されている。

  • PTPN22の変異: 特に、R620Wという変異が多くの自己免疫疾患(例:1型糖尿病、関節リウマチ)で関連性が示されている。この変異は、T細胞の活性化を抑制する機能を持つが、異常な活性化が自己免疫反応を引き起こすと考えられている。

遺伝子の変異は、自己免疫疾患の感受性を高めるメカニズムとして重要であり、これにより免疫系の異常な反応が誘発される。

3.2 環境的要因

環境因子は、自己免疫疾患の発症に影響を与える多くの要因があり、これらが免疫系の異常を引き起こすことがある。

感染

感染は、自己免疫疾患の発症に重要な役割を果たすことがある。特定のウイルスや細菌が免疫系の異常を引き起こし、自己免疫疾患のリスクを増加させることが示されている。

  • EBウイルス: Epstein-Barrウイルス(EBV)は、多発性硬化症(MS)、自己免疫性甲状腺疾患などと関連している。EBV感染が自己免疫疾患の発症を引き起こすメカニズムとして、分子模倣(molecular mimicry)や免疫活性化の過剰が考えられている。

  • 細菌感染: 一部の細菌感染も自己免疫疾患の発症と関連している。例えば、Corynebacterium diphtheriaeの感染が関節リウマチの発症に寄与することが示唆されている。

薬剤

特定の薬剤が自己免疫反応を引き起こすことがある。これらの薬剤によって誘発される自己免疫疾患は、薬剤誘発性自己免疫疾患と呼ばれる。

  • 抗てんかん薬: 一部の抗てんかん薬(例:フェニトイン)が薬剤誘発性ループスを引き起こすことがある。

  • 抗生物質: 例えば、プロカインアミドは、自己免疫疾患を誘発することが報告されている。

薬剤による自己免疫疾患は、薬剤の使用を中止することで症状が改善することが多いが、治療には注意が必要である。

環境汚染

環境中の化学物質や重金属が自己免疫疾患のリスクを高める可能性がある。これらの環境因子が免疫系に影響を与え、自己免疫反応を引き起こすことが考えられている。

  • 化学物質: 例えば、鉛や水銀などの重金属は自己免疫疾患のリスク因子とされている。これらの物質が免疫系の機能を障害し、自己免疫反応を引き起こす可能性がある。

  • 環境汚染物質: 空気や水中の汚染物質(例:ダイオキシン、PCB)が自己免疫疾患の発症と関連していることが示されている。

3.3 ホルモンの影響

性ホルモンは自己免疫疾患の発症に影響を与えることが多い。多くの自己免疫疾患は女性に多く見られるが、ホルモンが免疫系の機能に影響を与え、疾患のリスクを増加させると考えられている。

エストロゲン

エストロゲンは、免疫系の機能に広範な影響を与えるホルモンであり、自己免疫疾患の発症と関連している。

  • エストロゲンの役割: エストロゲンは、免疫系の細胞(例:T細胞、B細胞)の活性化や抗体産生に影響を与える。エストロゲンの増加が免疫系の活性を高め、自己免疫反応を引き起こす可能性がある。

  • 疾患との関連: 例えば、全身性エリテマトーデス(SLE)や多発性硬化症(MS)は、女性に多く見られ、エストロゲンの影響が示唆されている。

ホルモンの変動は、自己免疫疾患のリスクを変化させることがあり、疾患の発症や進行に関与している。

3.4 免疫系の異常

免疫系の異常が自己免疫疾患の発症に関与している。自己免疫疾患は、正常な免疫系の調節が破綻し、自己組織が攻撃されることで発症する。

自己反応性T細胞

T細胞は、通常は自己組織を攻撃しないが、自己反応性T細胞が活性化し、自己組織を攻撃することが自己免疫疾患の原因となる。

  • 自己反応性T細胞の活性化: 通常、自己反応性T細胞は免疫寛容によって抑制されるが、この抑制が破綻すると、自己反応性T細胞が活性化し、自己組織を攻撃する。

  • 自己免疫疾患の例: 例えば、1型糖尿病や多発性硬化症では、自己反応性T細胞が特定の組織(例:膵β細胞、神経組織)を攻撃する。

自己抗体の生成

B細胞は、自己抗原に対する抗体を生成し、自己組織に対する攻撃を行う。自己抗体の生成は、自己免疫疾患の発症に関与する重要な要素である。

  • 抗核抗体(ANA): 全身性エリテマトーデス(SLE)などで見られる自己抗体であり、核成分に対する抗体である。

  • リウマトイド因子(RF): リウマチ性関節炎(RA)などで見られる自己抗体であり、自己免疫反応のマーカーとされる。

自己抗体は、免疫系の異常な反応を反映し、自己免疫疾患の診断や評価に用いられる。

4. 具体的な自己免疫疾患の発症メカニズム

自己免疫疾患の発症メカニズムは多岐にわたる。各疾患は独自の病態生理を持ち、特定の免疫系の異常や自己免疫反応に基づいて進行する。以下に、主要な自己免疫疾患について、それぞれの発症メカニズムを詳細に解説する。

4.1 関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis)

関節リウマチ(RA) は慢性的な関節の炎症を特徴とする疾患であり、以下のメカニズムが関与している。

  • 自己反応性T細胞: RAの発症において、CD4+ T細胞が重要な役割を果たす。これらのT細胞は関節の滑膜に浸潤し、滑膜の線維芽細胞やマクロファージを活性化する。これにより、関節の炎症が引き起こされ、滑膜が肥厚し、関節破壊が進行する。自己反応性T細胞は、特に抗原提示細胞からのシグナルに反応し、サイトカイン(例:TNF-α、IL-1、IL-6)を分泌する。

  • リウマトイド因子(RF): RFは主にIgMクラスの抗体で、自己のIgG抗体に対する反応を示す。RFが関節内に沈着すると、これが免疫複合体を形成し、炎症反応を引き起こす。RFはRAの診断に用いられるが、その発症メカニズムには個体差があり、RFの存在は必ずしも疾患の重症度や進行度と直接的に関連するわけではない。

  • サイトカインの関与: 炎症反応を促進するサイトカイン(例:TNF-α、IL-1、IL-6)は、関節の破壊を助長する。これらのサイトカインは、関節滑膜の肥厚を促進し、骨や軟骨の破壊を進行させる。特にTNF-αは、関節の破壊に関与する重要なサイトカインであり、抗TNF-α療法がRAの治療に用いられることが多い。

4.2 全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus)

全身性エリテマトーデス(SLE) は、多臓器にわたる炎症を特徴とする自己免疫疾患であり、以下のメカニズムが関与している。

  • 抗核抗体(ANA): ANAは、細胞核内の成分(例:DNA、ヒストン)に対する自己抗体である。SLE患者では、これらの抗体が生成され、自己組織に対する攻撃が引き起こされる。ANAの存在は、SLEの診断に用いられるが、すべてのSLE患者に必ずしも陽性反応が見られるわけではない。

  • 免疫複合体の沈着: SLEにおいては、血中の自己抗体と抗原が複合体を形成し、臓器(例:腎臓、皮膚、関節)に沈着する。これにより局所的な炎症反応が引き起こされ、特に腎臓においては糸球体腎炎を引き起こす。

  • 細胞性免疫の異常: SLEでは、自己反応性T細胞が活性化し、自己組織に対する攻撃が引き起こされる。特にCD4+ T細胞の過剰な活性化が、自己免疫反応の持続と増強に寄与する。

4.3 多発性硬化症(Multiple Sclerosis)

多発性硬化症(MS) は、中枢神経系の脱髄疾患であり、以下のメカニズムが関与している。

  • 自己反応性T細胞: MSでは、髄鞘に対する免疫反応が起こり、脱髄を引き起こす。特にCD4+ T細胞が中枢神経系に浸潤し、髄鞘の破壊を進行させる。これにより神経伝達の障害が生じ、運動機能や感覚の障害が引き起こされる。

  • サイトカインの関与: インターロイキン-17(IL-17)などのサイトカインが、炎症を促進し、脱髄を助長する。IL-17は、自己反応性T細胞によって分泌され、髄鞘の破壊を加速させる。

  • 血液脳関門の破壊: MSにおいては、自己反応性T細胞が血液脳関門を通過し、中枢神経系に浸潤する。これにより、髄鞘の破壊が進行し、神経の機能が障害される。血液脳関門の破壊は、免疫系の異常が中枢神経系に直接的な影響を与えるメカニズムである。

4.4 1型糖尿病(Type 1 Diabetes Mellitus)

1型糖尿病 は、膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンの不足を引き起こす疾患であり、以下のメカニズムが関与している。

  • 自己反応性T細胞: 1型糖尿病では、膵臓のβ細胞が自己反応性T細胞によって攻撃され、インスリンの分泌が障害される。特にCD4+ T細胞が関与し、β細胞を破壊することでインスリンの生成が減少する。これにより血糖値のコントロールが困難になる。

  • 抗β細胞抗体: β細胞に対する自己抗体が生成され、細胞の破壊を助長する。これにより、β細胞の機能が失われ、インスリンの分泌がさらに低下する。抗β細胞抗体の存在は、1型糖尿病の診断や病態評価に用いられる。

  • 炎症反応: 膵臓内での炎症がβ細胞の破壊を促進し、インスリン分泌が減少する。炎症反応によって、膵臓の組織が損傷し、血糖調節の機能が障害される。

4.5 シェーグレン症候群(Sjögren's Syndrome)

シェーグレン症候群 は、唾液腺や涙腺に対する自己免疫反応によって乾燥症状が現れる疾患であり、以下のメカニズムが関与している。

  • 自己反応性T細胞: シェーグレン症候群では、自己反応性T細胞が唾液腺や涙腺に浸潤し、炎症を引き起こす。T細胞の活性化が腺組織の破壊を助長し、腺の機能障害を引き起こす。

  • 抗SS-A(Ro)抗体: 自己抗体の一種で、唾液腺や涙腺の抗原に結合し、免疫反応を引き起こす。抗SS-A(Ro)抗体は、シェーグレン症候群の診断や病態評価に用いられる。

  • 腺の破壊: 自己免疫反応により、唾液腺や涙腺の組織が破壊され、乾燥症状(例:口腔乾燥、眼乾燥)が現れる。腺の機能低下が症状を引き起こす。

4.6 強皮症(Scleroderma)

強皮症 は、皮膚や内部臓器の線維化が進行する疾患であり、以下のメカニズムが関与している。

  • 自己反応性T細胞: 強皮症においては、自己反応性T細胞が炎症を引き起こし、線維芽細胞の過剰な活性化を促進する。T細胞は線維芽細胞に対して免疫反応を起こし、コラーゲンの過剰産生を引き起こす。この過程で、線維化が進行し、皮膚や内臓の硬化が見られる。

  • コラーゲンの過剰産生: 線維芽細胞がコラーゲンを過剰に産生し、組織の硬化が進む。強皮症では、コラーゲンの過剰な沈着が皮膚や内臓に線維化を引き起こし、機能障害を引き起こす。特に皮膚における線維化は、皮膚の硬化や引きつりを伴う。

  • 血管障害: 血管の硬化や狭窄が進行し、臓器の機能が障害される。血管内皮細胞の機能不全が関与し、血流が阻害されることで、臓器の酸素供給や栄養供給が障害される。これにより臓器機能が低下し、臓器障害が進行する。

4.7 自己免疫性貧血(Autoimmune Hemolytic Anemia)

自己免疫性貧血 は、赤血球の破壊を伴う疾患であり、以下のメカニズムが関与している。

  • 自己抗体の生成: 自己免疫性貧血では、赤血球に対する自己抗体が生成され、赤血球の破壊が進行する。IgGやIgMクラスの抗体が関与し、これらの抗体が赤血球の表面に結合し、赤血球の破壊を促進する。

  • 脾臓での破壊: 自己抗体が脾臓で赤血球を破壊し、貧血が進行する。脾臓は赤血球の老廃物を処理する役割を持っているが、自己抗体によって赤血球が破壊されると、脾臓での赤血球の破壊が加速し、貧血が悪化する。

  • 免疫複合体の形成: 血中の自己抗体と赤血球の複合体が形成され、破壊される。免疫複合体は赤血球の破壊を促進し、免疫系が自己の赤血球を攻撃する原因となる。

4.8 自己免疫性腎炎(Autoimmune Renal Disease)

自己免疫性腎炎 は、腎臓の炎症を引き起こす疾患であり、以下のメカニズムが関与している。

  • 抗糸球体基底膜抗体: 糸球体基底膜に対する抗体が生成され、腎炎を引き起こす。これらの抗体が糸球体に沈着し、局所的な炎症反応を引き起こす。抗糸球体基底膜抗体は、腎機能障害を進行させる主要な因子である。

  • 免疫複合体の沈着: 糸球体に免疫複合体が沈着し、局所的な炎症を引き起こす。免疫複合体は、腎組織を攻撃し、炎症反応を引き起こすことで腎機能が障害される。

  • 炎症反応: 中性脂肪細胞やマクロファージが関与し、腎組織が破壊される。炎症反応が腎機能を障害し、尿中に蛋白質や血液が混入することがある。

4.9 自己免疫性皮膚病(Autoimmune Skin Diseases)

自己免疫性皮膚病 は、皮膚の炎症や損傷を引き起こす疾患であり、以下のメカニズムが関与している。

  • 自己抗体の生成: 皮膚の抗原に対する自己抗体が生成され、皮膚の炎症を引き起こす。これらの抗体が皮膚の構造に結合し、免疫反応を引き起こすことで皮膚の炎症や損傷が進行する。

  • T細胞の浸潤: 皮膚に浸潤したT細胞が炎症反応を助長する。T細胞が皮膚のバリアを攻撃し、自己免疫反応を引き起こす。これにより皮膚の機能が障害され、皮膚症状が悪化する。

  • 皮膚バリアの破壊: 自己免疫反応により皮膚のバリアが破壊され、皮膚の機能が障害される。皮膚のバリア機能が失われることで、外部からの刺激に対する感受性が増し、皮膚の炎症や損傷が進行する。

4.10 自己免疫性甲状腺疾患(Autoimmune Thyroid Disease)

自己免疫性甲状腺疾患 は、甲状腺機能に影響を与える疾患であり、以下のメカニズムが関与している。

  • 抗甲状腺抗体: 甲状腺細胞に対する抗体が生成され、甲状腺機能に影響を与える。これらの抗体が甲状腺の破壊を促進し、甲状腺ホルモンの分泌が異常になる。抗甲状腺抗体の存在は、自己免疫性甲状腺疾患の診断や病態評価に用いられる。

  • 甲状腺の過形成: 自己抗体が甲状腺の過形成を促進し、ホルモン分泌の異常を引き起こす。甲状腺の過形成は、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)や甲状腺機能低下症(橋本病)を引き起こす。

  • ホルモン分泌の変化: 自己免疫反応により甲状腺ホルモンの分泌が異常になり、甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症が発症する。これにより、体内の代謝バランスが崩れ、多様な症状が現れる。

4.11 自己免疫性中耳炎(Autoimmune Middle Ear Disease)

自己免疫性中耳炎 は、中耳の炎症や損傷を引き起こす疾患であり、以下のメカニズムが関与している。

  • 自己反応性T細胞: 中耳に浸潤した自己反応性T細胞が炎症を引き起こす。これらのT細胞が中耳の組織を攻撃し、炎症反応を促進する。中耳の組織が破壊されることで聴力が障害される。

  • 自己抗体の生成: 中耳の抗原に対する自己抗体が生成され、炎症を助長する。自己抗体が中耳の構造に結合し、免疫反応を引き起こすことで、炎症が進行し、聴力に影響を与える。

  • 耳の構造の破壊: 自己免疫反応により耳の構造が破壊され、聴力に影響を与える。炎症によって中耳の組織が損傷し、音の伝達が障害されることで、聴力が低下する。

これらの疾患はそれぞれ異なる発症メカニズムを持ち、自己免疫反応が多様な臓器や組織に影響を与える。自己免疫疾患の理解は、正確な診断と効果的な治療に向けた重要な第一歩である。


問題演習


問題 1: 関節リウマチのメカニズムに関する問題

関節リウマチに関与する主な免疫細胞はどれか。

A) B細胞
B) マクロファージ
C) CD4+ T細胞
D) NK細胞
E) 樹状細胞

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