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新宿駅の地図

 2019年10月、私は初めて一人新宿駅に降り立った。

 バスタ新宿で降車し、いつものポケモンの札が付いたキャリーケースの取手を握る。すると間もなく、金属を加工している最中のようなにおいがする。 

 東京だ、そう体が実感した。 

 降車後はすぐ近くのエスカレーターに乗り一階の改札前まで下るのだが、初めてで当然右も左もわからない。まずは地図を探した。

 田舎者特有の「田舎者だと思われたくない」精神、当然私にも備わっていたのだが、なぜか地図を見るという行為は、その発動条件に含まれてはいなかった。

 東京に訪れた際、殊にターミナル駅など大きな施設ではあちこちに貼られてある地図や看板を見るということが如何に重要なことであるか、身にしみて感じている。

 逆にもし私が、地図を見ないことを美徳としていたのなら、確実に大勢の人間の前でおどおどし、あたふたし、一人迷子という恥を抱えながら、なぞの場所に辿り着き、しまいにはもと来た道を引き返しながら、芥川龍之介の『トロッコ』に出てくる良平のように泣きべそをかくことになる。

 畢竟迷子に陥ることはなく、無事構内の地図を見つけ、改札前に辿り着いた。すると切符売り場の頭上に3、4メートルほどの大きな路線図が貼られてあった。

 新宿駅はトロッコに乗ってどこまでも行けそうだった。

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