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#416 相続の話:引出金は頻繁にモメる-4(引出金と遺言)

【 自己紹介 】

※いつも読んでくださっている方は【今日のトピック】まで読み飛ばしてください。

弁護士古田博大の個人ブログ(毎日ブログ)へようこそ。

このブログでは,2017年1月に弁護士に登録し,現在弁護士5年目を迎えている私古田が,弁護士業界で生き残っていくために必要不可欠な経験と実績を,より密度高く蓄積するため,日々の業務で学んだこと・勉強したこと・考えたこと・感じたこと,を毎日文章化して振り返って(復習して)います。

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後戻りの必要なく,スラスラと読み進められるようにも心がけていますので,肩の力を抜いて,気軽な気持ちでご覧くださるとと大変嬉しいです。

【 今日のトピック:相続(引出金) 】

さて,昨日に引き続き引出金の話です。

今日で4日目ですが,辛抱強くお付き合いくださると僕はめちゃくちゃに嬉しいです。

さっそく始めます。

昨日のブログでは,「相続させる」旨の遺言についてお話ししました。

かなり難しい内容だったと思いますが,少しだけ復習します。

「相続させる」旨の遺言とは,その名の通り,「相続させる」と書かれている遺言なんですが,大切なのは,「相続させる」相手が,自分の相続人だということです。

自分の妻(または夫),子どもなど,自分の相続人に対して「相続させる」と書かれている遺言が,「相続させる」旨の遺言なのです。

そして,「相続させる」旨の遺言の法的な性質についてもお話ししました。

「相続させる」旨の遺言の法的性質は,「遺産分割方法の指定」でしたね。

「遺産分割方法の指定」なんて書くとめちゃくちゃに難しく見えますが,分解して考えれば結構わかりやすいです。

「遺産分割」の「方法」,つまり,「どの遺産を誰にどれくらい分配するか」を,「指定」する,つまり,「あらかじめ決めておく」ということです。

「遺産分割方法の指定」というのは,被相続人(亡くなったご本人)が,まだご存命の間に,自分の財産の分配について,あらかじめ決めておく,ということです。

じゃあ,自分の財産の分配方法をあらかじめ決めておいて,実際に被相続人が亡くなった場合,あらかじめ分配が決められた財産はどうなるのかというと,被相続人が亡くなった瞬間に,「相続させる」相手である相続人が取得します。

仮に遺言がない場合,相続人が1人なら,その相続人が全財産を取得しますが,相続人が2人以上存在する場合,遺産は相続人の「共有」となり,「共有」の状態を解消するために「遺産分割」が必要になります。

しかし,「遺産分割」の方法があらかじめ指定されていると,↑の「遺産分割」をすっ飛ばして,亡くなった瞬間に,「相続させる」の対象となった財産は,遺産分割が完了したことになります。

本来であれば,被相続人の財産は,相続人の「共有」となり,遺産分割が必要になるけれども,「相続させる」旨の遺言があれば,遺言に書かれた財産については,遺産分割不要なんです。

「不要」というか,亡くなった瞬間に遺産分割が完了したことになる,という感じです。

さて,こういった「遺産分割方法の指定」という性質を踏まえると,引出金との関係で疑問が生じてきます。

どんな疑問かというと,引出金を「相続させる」旨の遺言の対象にできるか,ということです。

被相続人の死後に,生前の引出金を誰かが着服したという理由で返還を求める場合,その根拠は,「被相続人の権利を相続した」ということです。

昨日までの3日間のブログで何度も書いてきましたが,

被相続人の死後に,その子どもや配偶者が,生前の引出金を着服したから返せ!と請求する場合,それはあくまで,被相続人の権利を行使しているだけなんですね。

被相続人が,権利を行使しないまま(無断で引き出された現金を返してもらえないまま)亡くなったから,その権利を相続した相続人たちが,「返せ!」と請求しているわけです。

で,この「無断で引き出された現金を返せ!」という請求権は,被相続人の死亡によって,自動的に分割されます。

相続人の「法定相続分」に従って,自動的に分けられるので,「共有」にはなりません。

「法定相続分」とは,例えば,相続人が子ども3人だけの場合は,1人あたり「3分の1」です。

法律に計算式が書いてあって,その計算式を当てはめて自動的に出てくる数字が「法定相続分」です。

相続人が妻と子ども2人の場合は,妻の法定相続分が2分の1で,子どもはそれぞれ4分の1ずつです。

この,「法定相続分に従って自動的に分割される」「共有にならない」が,何を意味するかというと,遺産分割の対象にならない,ということです。

「共有」になるからこそ,「遺産分割」が必要となるので,「共有」とならないのであれば,遺産分割は必要ない。

ここだけ読むと,めちゃくちゃに当たり前の話です。

じゃあ,「相続させる」旨の遺言の対象にはなるのでしょうか?

「相続させる」旨の遺言の性質は,「遺産分割方法の指定」でした。

本来ならば,「共有」となり,「遺産分割」が必要なるところを,「遺産分割」をすっ飛ばして,「遺産分割を済ませたことにしちゃう」のが,「相続させる」旨の遺言でした。

だとすると,ハナから遺産分割が必要ない権利,↑に書いたような,着服した現金を返せ!と請求できる権利は,「遺産分割をすっ飛ばす」どころか,最初から遺産分割が不要なので,「相続させる」旨の遺言の対象にならないように思えます。

というか,遺産分割の対象に「できない」のです。被相続人の死亡に伴い,「自動的に」分割されちゃうので,遺産分割しようとしても,「共有」状態が発生していないから,遺産分割のやりようがない。

このまま話を進めていくと,どうなるでしょうか。

例えば,「全財産を長男に相続させる」という遺言が残された場合,弟である二男は,長男が被相続人の預金口座から生前に引き出した現金を着服したとして,その返還を求める場合を考えてみましょう。

引出金を返せ!という権利(被相続人が持っていた権利)は,↑の「全財産」には含まれません。なぜなら,「返せ!」という権利は,遺産分割の対象とならず,したがって,「遺産分割方法の指定」である「相続させる」旨の遺言の対象にもならないからです。

とすると,「全財産を長男に相続させる」という遺言とは関係なく,二男は,自分の法定相続分の割合に応じて相続した,「返せ!」という権利を,長男に対して行使できそうです。

相続人が長男と二男の2人だけであれば,二男の法定相続分は2分の1ですから,長男が着服した金額の2分の1を返してもらうことができそうです。

でも,残念ながら,そうはなっていないんですね。

ここから先が,昨日のブログで僕が「発見した」と言った部分です。

キーワードは,「相続分の指定」です。順を追って説明します。

もう何度も繰り返していますが,「相続させる」旨の遺言は,「遺産分割方法の指定」という性質を持っています。

でも実は,それだけじゃないのです。最高裁が平成21年に明言しました。

「相続させる」旨の遺言は,「遺産分割方法の指定」のみならず,「相続分の指定」としての性質もある。

それを,最高裁が平成21年3月24日に明言しました。

この「相続分の指定」って,どういう意味でしょうか。

「相続分」という用語は,「法定相続分」にも含まれていますよね。

この「相続分」って,何かというと,遺産分割の基準となる割合(金額)のことです。

「法定相続分」とは,法律に従って自動的に算出される割合のことでした。

相続人が子ども3人だけなら,各自の法定相続分は3分の1,相続人が妻と子ども2人なら,妻の法定相続分は2分の1,子どもの法定相続分は4分の1ずつ。

こんな風に,「法定相続分」は,相続人の頭数及び地位(妻なのか子どもなのか)によって,自動的に決まります。

この法定相続分を基準に,次は「具体的相続分」なるものを決めていきます。

例えば,相続人が子ども3人,残っている遺産が3000万円の預金だけとしましょう。

この事案だと,子ども1人ずつに1000万円を分配してそれで終わり,とも思えます。

でも,例えば,子どものうち1人が,生前に被相続人から600万円を贈与されていた場合,これを考慮することなく,全員に1000万円を分配するのは不平等です。

そこで,生前贈与の600万円を,残っている遺産の3000万円に加え,遺産の合計を3600万円とみなします(この3600万円を「みなし遺産」と呼んだりします)

そうすると,1人あたり1200万円となりますが,生前贈与を受けた子どもは,600万円を先に受け取っているので,この600万円を差し引いた600万円を,残っている3000万円から貰い,残りの2400万円を,残りの2人で1200万円ずつ分け合う,ということになります。

この場合の,「600万円」・「1200万円」・「1200万円」を,「具体的相続分」と呼びます。

少しは「相続分」という用語に親しみを持っていただけたと願いながら,先に進みます。

「相続分の指定」の話ですが,「相続分の指定」というのは,↑に書いたような「相続分」を「指定する」ということです。

本来であれば,法定相続分を基準に,生前贈与などを加味して「具体的相続分」を算出するんですが,遺言で「相続分」が「指定」されると,こういう算出方法をすっ飛ばして,残った遺産の「具体的相続分」が決められちゃいます。

つまり,遺言に書かれた「相続分」のぶんしか遺産を取得できなくなります。それが「相続分の指定」です。

このような「相続分の指定」としての性質が,「相続させる」旨の遺言にはある。そう,最高裁は明言しました。

この「相続分の指定」が,先ほどの「自動的に分割される」に関わってきます。

着服したお金を「返せ!」という権利は,「法定相続分」に従って「自動的に分割される」ということでした。

だから,「遺産分割」の対象にならず,そのため,「遺産分割方法の指定」としての「相続させる」旨の遺言の対象にもならない。

その結果,「全財産を長男に相続させる」という遺言があっても,「返せ!」という権利は,「全財産」に含まれず,法定相続分に従って自動的に分割されたぶんを請求できる

先ほどそう書きました。

でも,「相続させる」旨の遺言が,「相続分の指定」でもあるなら,話は変わってきます。

「法定相続分」に従って「自動的に分割」じゃなくなるからです。

例えば,「全財産を長男に相続させる」という遺言は,「相続分を100%長男に与える」という意味にもなります。

この「相続分を100%長男に与える」という意味は,法定相続分を「歪める」,ということです。

本来なら,50%ずつの法定相続分があったのに,「長男100%,二男0%」に歪める。それが,「相続分を100%長男に与える」という「相続分の指定」です。

だから,結局,「全財産を長男に相続させる」という遺言は,「遺産分割方法の指定」としての側面だけ見れば,「返せ!」という請求権は,別途,法定相続分に従って自動的に分割されるようにも見えるけれど,その側面だけでなく,「相続分の指定」としての性質もあるから,この性質を踏まえると,相続分が「長男100%」と指定されているので,返せ!という請求権を50%相続した,という二男の主張は通らなくなる,ということになります。

じゃあ二男には何ができるかというと,「返せ!」という請求権も含めた遺産の総額を割り出し,その遺産全体について,「遺留分侵害額請求」するしかありません。

仮に,残された遺産(不動産や預金)の合計が2000万円,長男が着服した金額が400万円だとすると,「返せ!」という請求権も含めた遺産の総額は2400万円となり,二男の遺留分は法定相続分(2分の1)の半分=4分の1なので,2400万円の4分の1=600万円を,二男は長男に請求(遺留分侵害額請求)できるにとどまります。

もし仮に,「返せ!」という請求権が「全財産」に含まれないとしたら,遺留分侵害額請求として,遺産2000万円の4分の1=500万円,「返せ!」という請求権400万円の2分の1=200万円,合計700万円を長男に請求できるので,最高裁が明言した↑の解釈は,遺言によって財産を多く取得する相続人にとっては有利となり,遺言で取得する財産が少ない相続人にとっては不利となります。

だいぶ長くなりましたが,引出金を返せという請求権が「相続させる」旨の遺言の対象になるかどうか,という疑問について,答えが出てよかったです。

「相続させる」旨の遺言が「遺産分割方法の指定」であることは有名ですが,それと同時に,「相続分の指定」としての性質も有する。

この点を学べて本当に良かったです。

明日はやっと,テーマを変えられそうです(笑)。

それではまた明日!・・・↓

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