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親権と法定代理人

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このブログでは、2019年7月にうつ病を発症し、それをきっかけに同年12月からブログを始めて、それ以降、600日以上毎日ブログ更新してきた、しがないサラリーマン弁護士である僕が、日々考えていることを綴っています。

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【 今日のトピック:親権者の同意 】

「親権者の同意が必要」というのは、よく聞くと思います。

未成年者がアパートを借りるときに、親権者の同意が求められ、未成年者本人の署名押印のほかに親権者の署名押印もさせられます。

ただ、この「親権者の同意」について正確に理解するのって、実は結構難しかったりします。

親権者の同意が「必要」ということは、親権者の同意がないと困ったことになってしまう、ということです。

この「困ったこと」を考えるのと同時に、親権者は子どもの「法定代理人」ということも考えなきゃいけなくて、今日はこの2つについてお話しようと思います。

さて、親権者の同意なく未成年者が契約を結んでしまうと、何が起きるのでしょうか。

例えば、未成年者が不動産屋に行って物件を探し、親権者の同意なく賃貸借契約を結んでしまうと、何が起きるのでしょうか。

ま、物件の賃貸借契約を結ぶ場合、署名押印に先立って、運転免許証や保険証、今だとマイナンバーカードなどで生年月日を確認され、未成年であれば、親権者の同意がないと契約させてくれないので、親権者の同意なく賃貸借契約を結んでしまうことはまずありません。

(ちなみに、「契約を結ぶ」「契約する」「署名押印する」はすべて同じ意味で使っています。「契約を結ぶ」とは「契約書に署名押印する」です。いったん結んでしまった(=契約書に署名押印してしまった)契約は、勝手に覆すことはできません。)

話が全然進みませんが、たとえ話に戻ります。

未成年者と大家さんが賃貸借契約を結んでしまったら、何が起きるのでしょうか。

(もう少し脱線ですが、賃貸借契約の当事者は、大家さんと借主で、不動産屋ではありません。不動産屋は、あくまで、仲介=マッチングしているだけなので、契約の当事者ではありません。日本には、宅建業法という法律があって、不動産の賃貸や売買のマッチングには免許が必要となっています。その免許を持っているからこそ、不動産屋は、不動産の売主・貸主と買主・借主をマッチングさせて、そのマッチングの対価として仲介手数料を受け取ることができます。この不動産マッチング業を、宅建業の免許もなしに行ってしまうと、宅建業法違反で犯罪です。)

親権者の同意もないまま、未成年者と大家さんが物件の賃貸借契約を結んでしまった場合、それ自体が犯罪にはなりません。

というか、契約として有効に成立します。

だから、未成年者は、契約に基づき、物件の家賃や敷金礼金をを支払う義務が発生し、大家さんは、契約で決めた物件を未成年者に貸す義務が発生します。

ここがポイントで、親権者の同意がないからといって、何か犯罪が成立したりとか、契約が無効だとか、そういったことは起きないのです。

しかし、親権者の同意なく契約を結んだ場合、親権者は、契約を結んだ後になって、一方的に契約を取り消すことができます。

「取り消す」の意味は、「最初からなかったことにする(=白紙に戻す)」ということです。

「取消し」というのは、取り消すまでは契約は有効なんですが、いったん取り消してしまうと、契約は白紙に戻るということです。

契約が取消可能な状態は、契約が取り消されてしまうのか、有効のままなのか不安定な状態を意味します。

親権者の同意なく契約が結ばれた場合、その契約は、親権者がいつでも取り消すことができます。そうすると、大家さんとしては、せっかく契約を結んだのに、親権者の気持ち次第でいつでも契約が白紙に戻されてしまう危険性にされてしまいます。

これって、契約した意味ないですよね?

「契約」というのは、後から約束を覆されないようにするために結ぶのです。

にもかかわらず、未成年者と契約を結んでしまうと、後から約束を覆されてしまうリスクが残ったままとなってしまいます。

民法には、「取り消すかどうか決めてくれ!」と親権者に要求する「催告」という制度は用意されていますが、しかし、催告した結果取り消されてしまえば、結局契約は白紙に戻されてしまいます。

ま、親権者の同意がないと、必ず契約が取り消されてしまうのではなく、「追認」といって、契約が取り消されない状態に持っていく方法があります。

この追認は、いわば「後付の同意」です。契約を結んだ後、後付で親権者が同意するのが「追認」なのですが、しかし、「追認」するかどうかは親権者次第です。

こういう仕組みになっているからこそ、未成年者を契約相手にする場合(今回の例で言えば、未成年者に物件を賃貸する場合)は、契約を結ぶのに先立って、親権者から事前に同意を得ておくのです。

そして、ここから「法定代理人」の話に移っていくのですが、実は、「未成年者が結んだ契約を親権者が取り消せる」という条文は民法にはありません。

未成年者が結んだ契約は、「法定代理人」が取り消せる、と書かれているだけです。

まあ、親権者は「法定代理人」なのですが、実は、親権者以外にも未成年者の法定代理人が出現する場合があって、それは、未成年後見人です。

未成年後見人は、親権者が全員亡くなったりして親権者不在の場合に、家庭裁判所が選任します。

未成年後見人も、未成年者の「法定代理人」となるのですが、この「法定代理人」とは何なのでしょうか。

それには、まず、「代理人」について説明する必要があります。

「代理人」の説明は少し難しいのですが、また、賃貸借契約の例を出しましょう。

未成年者が大家さんから物件を借りようとしている場合、契約当事者は、未成年者と大家さんの2人です。

で、普通は、契約当事者本人(大家さんと未成年者)が、契約書に署名押印することで、契約が成立します。

しかし、「代理人」が出てくると、契約当事者以外の人物が署名押印することで、契約が成立するのです。

例えば、未成年者の親権者は、未成年者が契約当事者(借主)となっている賃貸借契約書に、自分の名前で署名押印することで、未成年者と大家さんとの間に契約を成立させることができます。

あくまで、契約当事者は未成年者と大家さんです。しかし、署名押印したのは親権者で、署名押印の名前も、親権者の名前が書かれています。

ただ、「〇〇代理人××」という形で、親権者本人が契約当事者となるのではなく、契約当事者は未成年者であり、自分は代理人として署名押印していることは契約書にきちんと示されています。

これが、「代理人」です。本人が署名押印していないのに、本人が契約当事者として契約を成立させることができるのが「代理人」です。

これは、会社の社長(代表取締役)も同じです。

会社というのは目に見えません。法務局に登記することによって会社は設立されますが、だからといって、会社という存在が目に見えるわけではありません。会社は、目に見える形で実在はしないのです。

その意味で、会社は自分で署名押印することはできないのですが、代表取締役が署名押印することによって、会社を当事者とした契約を成立させることができます。

会社自体は署名押印していないのに、会社を契約当事者とすることができて、その根拠は、署名押印した人物が、会社の代表取締役であり、自分の署名押印によって会社を契約当事者とする契約を成立させる権限を有しているから(=「代理人」だから)なのです。

この会社と代表取締役の例と同じように、親権者は、法定代理人として、未成年者を契約当事者とする契約を、未成年者に代わって(未成年者の代理人として)結ぶことができます。

この条文は民法にあります。824条です。この824条があるからこそ、親権者は、未成年者の「法定代理人」だということになります。

「法定代理人」というのは、代理人であることが法律上決められているということです。民法824条という法律によって、親権者は、未成年者の代理人であることが決められているので、親権者は未成年者の「法定代理人」となっています。

ここまできてやっと、「未成年者が契約を結ぶときに親権者の同意が必要なのはどうして?」という疑問を全部説明できます。

・親権者が未成年者の代理人となれることが民法824条に書かれているので、親権者は未成年者の「法定代理人」である

・未成年者が「法定代理人」の同意なく結んだ契約は「法定代理人」が取り消せる

・約束を後で覆されないようにするために契約は結ぶ

・親権者の同意がない契約は、契約を結んでいるのにいつでも取り消せる(白紙に戻せる)状態である

→だったら最初から親権者の同意を得ておこう

こういうことです。だから、契約を結ぶ際は、必ず相手の年齢を確認します。

年齢を確認し、未成年者(2022年4月1日以降は18歳未満)であれば、親権者の同意を求めます。

同意が得られるまでは、契約を結びません。だって、契約しても親権者が後からいつでも覆せるので、結んだ意味がないからです。

未成年者が契約を結んだ後に成人になっても、契約は取り消せます。しかし、成人になっているので、親権は消滅し、親も法定代理人ではなくなっているので、親が子ども本人に代わって取り消すことはできません。

今日はこのへんにします。

それではまた明日!・・・↓

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