#454 預金の遺産分割:遺産分割は残っている遺産しか分けられません

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【 今日のトピック:預金の遺産分割 】

今日は預金の遺産分割についてお話しようと思います。

「そもそも遺産分割とは何か?」というと,亡くなった方が残した遺産を,誰にどれくらい分配するかを決める手続きです。

人は,自分の財産すべてを使い切って死ぬことはできません。

いつ死ぬかわかからないからです。どれだけ死期が迫っていることを予期できても,明日死ぬのか,明後日死ぬのか,はたまた今日死ぬのか,いざ死ぬ瞬間までわかりません。

そうなると,生きている限り,食事や住居・洋服,医療費などを工面するために財産が必要なわけですから,必ず,亡くなった人は財産を残します。

この「残された財産」を,誰に,どれくらい分けるか決めるのが,遺産分割です。

遺言があれば,話は別です。遺言があれば,その遺言に従って,遺産の配分を決めます。

遺言の対象に含まれていない財産については,遺言では配分を決められないわけですから,別途遺産分割が必要になりますが,財産全部が遺言の対象になっていれば,遺言ですべての財産の配分が決まるので,遺産分割は不要です。

不要とはいえ,遺産分割を「してもいい」です。

「不要」なのであれば,わざわざ遺産分割する人なんて誰もいないようにも思えます。ただ,遺言によってたくさん分配を受けた人は,後に,「遺留分侵害額請求」といって,遺留分すらも貰えなかった相続人から,遺留分に足りないぶんをお金で支払うよう請求される危険性があります。

そうすると,後から「遺留分侵害額請求」されるよりは,最初から,遺言を前提に遺産分割を行い,遺留分不足が生じないように遺産を分配する,というやり方もあり得ます。

なるべく紛争を回避したいと思うのであれば,遺産分割が不要だとしても,遺産分割する意味はあるわけです。

遺言がある場合は,こうやって,遺産分割をしたりしなかったりするわけですが,遺言がない場合,財産の分配を決めるには,必ず遺産分割が必要です。

もし,めぼしい財産がなく,借金が残っているだけであれば,遺産分割せずに,相続放棄すればいいです。

しかし,プラスの財産がたくさん残っているのであれば,その遺産に手を付ける(遺産を相続人が取得する)ために,遺産分割を済ませなければなりません。

このように,遺産分割が完了する前の時点では,相続人(亡くなった人の子どもや妻など)は,遺産に手を付けてはいけません。

遺産分割もしていないのに,土地の名義を変更したり,預金を引き出したりしてはいけないのです。

というのも,亡くなった瞬間から遺産分割が完了するまで,遺産は「遺産共有状態」になるからです。

「遺産共有状態」というのは,複数の相続人が,遺産を共有していて,手を付けてはいけない状態を意味します。

遺産分割が完了する前は,この「遺産共有状態」が継続しているので,勝手に預金を引き出したり,土地の名義を変更したりしてはいけないのです。

とはいえ,実際問題,亡くなった後,預金からお金が引き出されることは,しょっちゅうあります。

葬儀費用が必要だったり,未払いの治療費があったりして,こういった費用を,亡くなった人の預金からお金を下ろして払う必要があるからです。

(ちなみに,葬儀費用は喪主が負担しなければならず,亡くなった人の預金から引き出したお金で支払うことはできない,という判例が一応あります。とはいえ,実際には,葬儀費用を遺産から支払うことに相続人の間で特に異論がなければ,遺産から支払ったことを前提に遺産分割することも多いです。僕としても,「葬儀費用は喪主が負担するべき」というのは,疑問を抱いていて,遺産から払ってもいいのかなあと思っています)

先ほど説明したように,遺産というのは,亡くなった瞬間に「遺産共有状態」に突入し,手を付けてはいけなくなります。

しかし,銀行も,毎日毎日,どの預金者が亡くなったかどうか確かめているわけではないので,預金者が亡くなった後であっても,キャッシュカードで預金が引き出せる状態のままです。

銀行が,預金者が亡くなった瞬間に,亡くなったことを察知して口座をブロックできれば,↑の「遺産共有状態」を厳密に維持できるのですが,そんなことは,全国民の一挙手一投足を監視しているような監視国家でもなければ不可能です。

だから,本来,引き出してはいけないにもかかわらず,葬儀費用や医療費に充てるために,預金は引き出されてしまいます。

じゃあ,この「引き出された預金」は,遺産分割では,どのように扱うのでしょうか。

ここで,大切なのは,遺産分割の対象となる遺産は,「今現在残っている遺産だけ」ということです。

先ほど,監視国家でもない限り,銀行が預金者の死亡を瞬時に察知することは不可能と書きました。だからこそ,亡くなった後も,キャッシュカードでお金を引き出そうとすれば,引き出されてしまうのです。

とはいえ,銀行も,亡くなったことを察知すれば,口座をロックします。つまり,銀行も,預金者の死亡を察知したのであれば,「遺産共有状態」を守るために,引き出しを拒絶するわけです。

その結果,銀行が預金者の死亡を察知した後は,預金が引き出されて減少することはなくなります。口座がロックされているので。

銀行が預金者の死亡を察知するきっかけはいろいろで,一番多いのは,預金者の相続人から知らされるケースだと思います。

「父が亡くなったので,相続の手続きをしたい」と娘さんから銀行に知らせが入れば,銀行は預金者の死亡を察知することができます。

他にも,新聞に亡くなった方の名前が出たりするので,それを見て預金者の死亡を察知している銀行もあるでしょう。

このように,銀行が預金者の死亡を察知した後は,預金の引き出しができなくなり,預金は守られます。

その残った預金を,誰にどれくらい配分するか,遺産分割で決めるわけです。

しかし,口座がロックされる前に引き出された現金については,こうはいきません。

引き出された現金が,そのまま現金として残っていれば,その現金は遺産分割の対象となります。

例えば,口座がロックされる前に1000万円が引き出された場合,その1000万円が現金として残っているのであれば,その現金を,誰にどれくらい分配するのか,遺産分割で決めればいいです。

しかし,問題は,引き出された現金が現金として残っていない場合です。

その現金が,誰かの手に渡り,その人が使ってしまったとか,その人の預金口座に移し替えてしまった場合,「遺産分割」はできません。

だって,使ってしまったら,現金が残っていないので,遺産分割しようにも,モノがないですし,預金口座に移し替えてしまったのであれば,それは,その人の預金になってしまっているので,遺産として分割することはできません。

遺産分割は,あくまで,亡くなった人の遺産を分け方を決める手続きなので,既に別の人の預金口座に移し替えられてしまったお金に対して,効力を及ぼすことはできません。

じゃあ,預金を引き出されたら泣き寝入りかというと,そうではありません。

預金を引き出して使ってしまったり,自分の預金口座に移し替えてしまった人に対し,そのお金を返せという訴訟を提起することになります。

ただ,多くの場合,いきなり訴訟を提起するのではなく,遺産分割でまとめて解決しようとする場合がほとんどだと思います。

遺産分割も話し合いですから,「残っている遺産しか対象にしちゃダメ!」と最初から頭でっかちにならなくてもいいです。

もちろん,遺産分割の対象となるのは残っている預金だけ,というのを前提に話し合いは進めるわけですが,その話し合いの中で,引き出されたお金についても,そのうちの一部を返してもらうとか,そういった話し合いもあり得ます。

しかし,話し合いが決裂してしまうと,引き出された預金を遺産分割に含めることはできないので,訴訟で返還を求めるしかありません。

この訴訟では,相手が,「引き出していない!」とか「着服してはいない!」とか「もらっていいと生前に言われた!」とか反論することが考えられます。

「もらっていいよ」と,本当に生前に言われていたのであれば,それを返してもらうことはできません。自分のお金を誰にどれくらいあげようが,その人の勝手だからです。

とはいえ,亡くなる直前に,「あげる」と言うだけの体力があったのかどうか,本当にあげるつもりなのであれば,事前に遺言でも書いておけばいいのに,遺言という形ではなく,口頭で「あげる」と言ったのはどうしてなのか,という点がかなり激しく争われそうですが,本当に「あげる」という約束があったのであれば,貰ったものを返す必要はありません。

生前の約束だったのに,どうして死後に引き出したのか,というのも疑問ですから,「あげた(貰った)」という反論は,どれくらい通じるのか疑問です。

【 まとめ 】

今日は,亡くなった後に預金からお金が引き出されても,遺産分割の対象にできるのは,引き出れた後に残った預金だけ,ということを説明しました。

引き出されたお金は,そのお金を着服した人に対して,遺産分割とは別に訴訟を提起して返還を求める必要があります。

この訴訟では,死亡後に引き出されたお金だけでなく,生前に引き出されたお金も返せと主張することが多いです。

ただ,生前であれば,本人が生きているわけですから,生きるためにお金が必要なことは,最初に説明したとおりです。

生前の引き出しを返せと主張するためには,引き出されたお金が,生前の預金者本人の生活費として使われた残りを,相手が着服したことを立証できなければなりません。

この主張立証ができるかどうかは事案によりけりですが,引き出し当時の預金者本人の状態や,誰が金銭管理していたのか,をメインで主張立証していくことになります。

それではまた明日!・・・↓

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