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拠点型学習支援の限界とアウトリーチの展開

これまでの動き

世の中の動き 
 Kacotamが活動し始めた当初(2012年)は、ひとり親世帯の子どもを対象とした学習支援や、生活保護世帯の子どもを対象とした学習支援が試験的に行われ、少しずつ行政からの委託を受けて、NPOが学習支援を展開してきた。その後、生活困窮者自立支援法が施行され、生活困窮世帯の子ども(主に中学生)を対象とした学習支援がNPOや民間企業に委託され、全国的に行われるようになった。
 一方で子どもが無料あるいは低価格で食事をすることができる子ども食堂が約7,000ヶ所(NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえのWEBより)と急激に増加した。
 それぞれの目的があるにせよ、拠点型の活動が広まり、それを入り口として、様々な困難を抱える子どもとつながりやすくなった。そのように子どもを取り巻く環境が10年前に比べて大きく変化している。また、最近ではサポステ(https://saposute-net.mhlw.go.jp/)以外の子ども・若者をサポートするセンターがNPOで設置され始めている。

Kacotamを通して行ってきたこと
 
Kacotamもこれまで地域に拠点をつくり、各拠点の協力団体とともに学習支援を行ってきた。残念ながら行政からの業務委託を受けることができなかったが、Kacotamサポーターの協力を得て、子どもたちに学びの機会を提供している。各拠点では、私たちメンバー、利用する子どもが集まり、そのなかで1対1の個別形式で学習をしてきた。1対1の関わりは団体設立当初から大事にしてきたことで、①子どもが他の子どものことを気にすることなく、自分のペースで学習ができるようにすること、②子どもが話をしたいときに話せる環境にすることがその理由だ。また、個別的な空間を大事にしてきたことによって、子どものニーズを拾い、お仕事カコタムや子どもの「やりたい」をカタチにするプロジェクトを実施したり、団体で企画した体験カコタムに誘ったりして、5教科の学習以外の学習機会につなげることができた。

拠点型の限界

 そのように拠点内で個別的な関わりをしてきたが、拠点型学習支援の限界も感じている。これまで活動してきた中で、①初めて参加する難しさ、②家庭状況が変わることによる難しさによって、拠点型の学習支援を利用できなくなってしまう家庭が少なくなかった。

①初めて参加する難しさ 
 拠点型の学習支援では、同じ世代の子どもが同じ空間に数名いる。1対1のため、ボランティアメンバーは子どもの人数+α名いることになる。過去の学校等におけるトラウマ的な経験や感覚過敏(特定のにおいや音に敏感になったり、複数の匂いや音が重なることに対してしんどさを感じたりなど)によって、同世代の子ども、複数人がいる空間にしんどさを感じる子がいる。それ以外にも下記のようなことが挙げられる

  • 上記のような背景から公共交通機関を利用できず、通うことが難しい

  • 不登校で外出することが少ない子どもにとっては、拠点まで来る体力がない

  • 発達障がいの特性から、本人が想定している学習空間や学習の仕方とのギャップがあり、なかなか受け入れることができない

  • 親が遅くまで働いているため、子ども(特に小学生)の送迎することが難しい

  • 自宅が公共交通機関と離れた場所にあるため、距離の遠さや交通費負担が厳しい

 このような背景から、拠点型の学習支援の利用につながらないケースがあった。学習支援をしている場が増えることで解消されることもあるが、すべての家庭にとって近い学びの場をつくるためには、かなりの数が必要とされる。

②状況が変わることによる難しさ
 小学生の場合は保護者が送迎することが多い。保護者の職場の異動や転職によって学習時間と合わなくなってしまい、送迎ができないということが起こる。また、冬場は自転車を使うことができないため、雪が無い季節では子ども一人で来ることができていたとしても、冬になると来れなくなってしまう子もいる。
 さらに、保護者が精神疾患であることによって、その体調次第で来れる・来れないが決まることもある。そのように子ども自身が学習の場に来ることを望んでいても、あきらめざるを得ない状況が生まれてしまう。

これからの動き

アウトリーチの展開
 何かをするうえで、すべてを網羅できるものはそうそうない。拠点型の活動にも同じことが言える。拠点型の活動にも限界はある。だからこそ、様々なアプローチを展開していく必要がある。
 その活動の1つに自宅訪問・小規模拠点で行う学習支援(以下アウトリーチ)を考えている。上記の生活困窮世帯の学習支援においても、市町村によっては自宅への訪問を実施しているところがある。しかし、自分が知っている限りではアウトリーチを展開している団体はそこまで多くはない。それは様々な面で難しさがあるからだと考えている。

組織からみる難しさ
組織を運営していくうえで、その組織がもっているリソースをどこに配分していくのかが重要となる。特にKacotamの資源は限られている。拠点型学習支援よりも、アウトリーチの方が交通費の負担が大きい。活動の性質上、担当者を固定し長期的に関わるため、訪問する担当メンバーの確保の難しさは格段と上がる。また、訪問する場所によっては、公共交通機関では行きづらかったり、遠かったりするため、行くことができるメンバーに限りが出てくる。これらのことはすでに児童養護施設等に訪問して行う学習支援で実感している。

メンバーの負担からみる難しさこれまで
行ってきた児童養護施設等の学習支援では、施設職員がいるため、何か起きたときの対応に安心感をもって進めることもできるし、困ったときは施設職員に相談することもできる。
 一方、自宅訪問となると、子どもの相談に加えて、保護者の相談対応も発生する場合があるため、メンバーの負担は大きくなる。事務局側で保護者の相談対応を受けとめるとしても、近くにいて関係性ができている存在の方が圧倒的に話しやすいため、担当者に相談してしまうことが想定される。
 さらに、試験的に実施していたとき、家庭の状況によっては、自宅に訪問したが、子どもがいない、連絡しても、保護者は働いているため連絡がつかない(タイムラグが生じる)などが発生していた。そのようなことが連続的に起きると、やむを得ないことと頭でわかっていても、どうしても担当メンバーのモチベーションが下がってしまう。ボランティアメンバーにとって、モチベーションという要素は、職員よりも活動を継続していくうえで大きな意味をもつ

アウトリーチでやっていきたいこと

 上記の課題をクリアにしたうえで、子どものニーズに応じて、自宅訪問あるいは小規模拠点の学習支援を札幌市内を中心に展開していきたい。

組織体制の構築
 
担当するメンバーをどのように確保していくのかが重要ではある一方で、担当メンバーが継続して活動できるような体制づくりも必要となる。担当メンバーが困ったときにすぐに相談できる仕組み、あるいは事務局側から困っているのではないかとアプローチすることができるような意識と仕組みが必要となる。また、その家庭がどのような家庭なのかをアセスメントを行い、活動していくうえでの様々リスクを最小限に抑えていく流れや担当者への事前共有が必要がある。さらに、担当者となるメンバーへの事前研修体制も欠かせないと考えている。

自宅訪問
 外に出ることが難しかったり、昼夜逆転の生活状況によって、決まった曜日・時間帯に参加することができなかったりする場合、本人のサイクルに合わせて、自宅に訪問して学習をしていく。生活空間に入ることになるため、様々な情報(本人の好きなことや生活状況など)を獲得することになる。それらの情報をもとに、新たな学び機会や必要な行政サービスなどにつなげていくようなソーシャルワークの展開も合わせてしていきたい。

小規模拠点
 自宅での学習が難しく、公共交通機関の利用も難しい。大人数のところも苦手。でも、少しでも外に出る機会をつくりたいなどの場合、近くの会館や店舗のイートインスペース等を借りて、一人の子どものための小規模な学びの場をつくっていきたい

 子どもと関係を構築し、状況が安定したときに、子どもの要望に応じて、自宅訪問から小規模拠点、小規模拠点から既存の拠点型の活動につなげるということもできるし、他の団体の居場所につなげるということもできるかもしれない。これまで拠点型の活動という入口ではつながることができなかった子どもが、自分の気持ちや状況に合わせて、学びの機会を獲得できるような環境をアウトリーチを通してつくりたいと考えている。


NPOの運営や子どもとの関わりなどを中心に記事を投稿します。サポートしていただいたお金は、認定NPO法人Kacotamに寄付をして、子どもの学びの場づくりに活用します。