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【小説】生かされているということvol.9

6月9日午前7時半 ECU前待合室。


先ほど妻の顔を見てきた。

顔色がよくなってきている?と思ったが、実は、低温治療に入っているので、血色は悪いはず。


どうして、顔色がよく見えたのか?



おそらく、希望的観測からくるものだろう。


また、気分も、昨日から比べると落ち着いてきたからだろう。


昨日は、

もう少し早く発見してあげれば……

もう少し心肺蘇生を早く開始できていれば……

もう少し……



など後悔がとめどなく押し寄せてきたが、今日は、不思議と落ち着いていた。


「命だけでもあればうれしい」

「生かされている状況になっていも支えていくんだ!」


と気持ちを切り替え、覚悟ができたからかもしれない。


時刻は、午前8時をまわっていた。


コロナ禍だったが、少し状況が落ちついた時期でもあったので、病院の待合室までは、家族や親族・友人が入ることができた。それが救いだった。


一人だと永遠にも感じる時間が、家族や親族・友人と話し、過ごす時間のおかげで多少早く感じることができた。

そして、なによりも、娘の存在だ。娘がいるからしっかりしなくては!と思えた。


娘は気丈に振る舞っていた。おばあちゃんがいてくれることがうれしいのもあるが、きっと我慢しているに違いない。


……

というのも、娘が生まれて、半年くらいたったころに、私の弟の結婚式が東京であった。

東京までは日帰りで行ける場所に住んでいるが、結婚式のために朝6時には家を出て、帰ってくるのは夜9時というスケジュールだった。


娘は初めて長時間両親、特に母親と離れて過ごす経験をした。


日中の様子はLINEでお義母さんから聞いていた。

おばあちゃんが大好きなので、楽しでいるようで安心していた。


しかし、夜9時に帰宅し、娘と目があった瞬間、それまで笑顔だったのに、これまでにないくらいに激しく泣いていた。嗚咽をするくらいに。


なんとそこから、これまた初めて夜泣きをした。それも2日も。


……

3歳4か月の娘は、今回も、おそらく我慢しているに違いない。


目が覚めたら、どうにか頼んで会わせてあげてやりたい。また、それまでは、全力で正面から向き合っていこうと誓った。これまで妻がしてきたことをしてあげるんだと。



午後1時、午後6時にも妻の顔を見に行ったが、なにも変わってなかった。



時刻は6月9日午後6時半、私は、重い足取りで自宅へと帰宅した。












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