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香りが運ぶ懐かしさ

先日、地元の釜炒り茶を
飲み比べするワークショップに参加してきた。
釜炒り茶、烏龍茶、紅茶
同じ茶葉から作られるお茶を
葉の香りを感じ、試飲する… 
そんな中でも一際私の嗅覚と胸にしまってあった
遠い記憶が蘇った香りがあった。それは、
お茶を入れた後の急須に残るゆっくりと開き切った茶葉の香りのそれ。
中山間地域の山あいの村で育ったこともあり、
畑にはいろんな野菜、畑の傍には茶畑があり
お茶も自給自足だったので、お茶摘みから始まり
蒸して手揉み、釜炒りまでの全ての作業が
家族みんなの季節の仕事としてあったのです。
蒸された茶葉が、筵の上に広げられ、
次の工程としては広げられた茶葉を
丁寧に手揉みするのだけど、
その時に立ち上る湯気と蒸された茶葉の香り、
おそらくそこには
筵(むしろ)の香りも混ざっていたはず。
あぁ、思い出しただけで
鼻の奥にツンと込み上げてくる何かがある。
懐かしい、懐かしい
愛おしい記憶。
お茶摘みをしていると、5月ではあるけれど
ジリジリと暑い日もある。
せめて、風が吹いてくれたらなぁ、
川から上がってくる谷からの風も
林を抜けてくる風も
心地の良い季節なのになぁ、、、
そんなことを思う幼い私に
祖母が教えてくれたのは
風を呼ぶ口笛。
祖母が独特の節で口笛を吹くと
不思議と風が吹いてきた事を昨日のように
鮮明に思い出した。
それは丁寧に人の手で作られた
温かなお茶の葉の香りが、
私の嗅覚を刺激してくれたおかげだった。
ちなみに
その口笛を私は今も庭で草取りをしたりしながら
風が吹いて欲しい時に
無意識に吹いている。
何その音楽ともなんともいえない口笛?なぁに?
と子供から尋ねられたことがある。
その時に話してあげたこの話を、我が子は覚えているかな?
あの5月の青々とした山並みの続く
景色の中でツヤツヤに光るお茶の新芽を
祖母や母たちと摘みながら感じた風と
街の中の風では全く違うからなぁ。


季節は夏から秋へ移ろう今、私が胸いっぱいに
吸い込むのは、こうべを垂れたたわわに稔る
稲穂の香りだ。
稲穂の香りの思い出はつぎのお話しで…



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