見出し画像

一人芝居脚本「SONZAIRON」

初めに

自由バンドの健康です。
こちらの脚本は2023年4月22,23日に自由バンド旗揚げワンマンライブ「EmeraldEmerald」で上演したものです。
今年で十代最後の僕のワガママのような、夢のような、希望のような、憧れのような、そんな想いを詰めた作品です。
より多くの人に知って欲しく、この度noteにて無料で公開いたしました。
感想や拡散をしていただければ嬉しいです。
どうぞ最後までお楽しみください。
(自由バンドTwitter@ziyuband)



SONZAIRON


(存在論)
作:健康(自由バンド/劇団ひなたぼっこ)
演者:健康
音楽:TAIYO∞


この物語は一人芝居
一人の役者と、一人のギタリストが舞台に立っている。
ギタリストの演奏はで表している。



キャラクター


春原晴生(ハルバルハルオ )19 歳。大学2年生。
大ちゃん(ダイチャン )フトン屋の息子。
寺崎(テラサキ )大ちゃんの友達。
リサ(リサ )赤い髪の女の子。
ギタリスト(ギタ)駅前でギターを演奏する男。

メインキャラクターは春原。

⓪春の終わり

舞台後ろに紙でできた幕。
幕は葉桜がテーマに描かれている。
舞台上に椅子が一つ。
舞台に春原。目の前にリサさん。

ギタリスト、半そでを着ている。
♪:スピッツ「春の歌」

春原「リサさん!俺。あっ、いや、何でも。… 暑いね」

暗転。

①A四月一日

明転。

春原「冬がもうすぐ終わるから。若人どもが春うらら、ダウンを脱いでつぼみが花開くように、桃色の吹雪に煽られぽかぽかボカボカ浮かれあっているこの春というものが、どうも俺の目にしみる。花粉ではない。春がどうも目に染みるのだ」

春原「…19 年、何があった。真っ白いキャンパスという言葉は希望に使うべきではない。これは、俺にあったはずの無限の光を、全て掴むことができなかったが故の、純白なのだ」

春原、電車の車掌に肩を叩かれる。
終点の駅についていたことに気付く。
目を合わせず、そそくさと電車を降りる。
駅の階段を降りながら。

春原「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1。10、9、8、7、6、5、4、3、 2、1。10、9、8、7、6、5、4、サンッイチ!! 」

階段を踏み外してこける。
すぐに立ち上がろうとする。
♪:尾崎豊「15の夜」

春原「初めて観た弾き語りに、何が起こったのか、体は言わずもがな、ついに頭すら動かなくなってしまった。このまま四月一日にずーっと囚われるのではないか。それでも良いような気がした。「世界よ、どうかこのままあれ」と願ったところで、太い声が俺の耳に響く」

大ちゃん「おいお前。俺とバンドしねえ?」

春原「これが脂でギトギトした大男、通称大ちゃんとの出会いである。大ちゃんは、地元の私立大学に通う俺の一つ先輩で、軽音サークルに所属している。が、持ち前の脂とニンニク臭から元居たバンドを脱退させられ、自分でバンドメンバーを集めていた。俺は「バンドをしたいならそこのギターを弾いている彼に声をかけるべきだ」と言うと、もう既に強く断られたらしい。勧めておいてなんだが、ナイスと思った。あなたのように素晴らしいギターを弾く人は、ぜひとも脂のない生活を送ってくれ」

春原「だが、俺はどうだろうか。一歩踏み出すなら今なのではないか。しかし!・・・」

春原、足を前に出せずにいる。

春原「音楽経験は問わないからとにかく一緒にバンドをしようと大ちゃんが手を出した。経験は問わない。ただそれだけの言葉だのに、俺の手は震えながら大ちゃんの手に向かっていた。19 年「はねる」の技しか覚えなかった、この俺がこのような行動を取ったのは何故か」

春原「春の匂いがした、四月一日だった」

大ちゃん「ありがどうっ! 」

大ちゃん、春原の手を上から握る。
脂でギトギトしている。

春原「… 手だけ洗ってもいいだろうか 」

①B大ちゃんのバンド

春原「駅前の商店街アーケードをくぐって二つ目の角右手に見える布団屋が大ちゃんの実家、その上二階に大ちゃんの部屋があり、ここでバンドの稽古をする。布団屋のおばさんは 「賑やかでいいわね」と言った」

春原「ここで、いかれたメンバーを紹介しよう。ドラム、アンドなぜかボーカル、大ちゃん!なぜかこの男は歌も歌う。なぜだ、なぜ歌うんだ。決して美声とは言えないが、まあ、うん、声が大きくていい」

春原「次にベース、寺崎。彼は大学で大ちゃんの唯一の味方だったらしい。いかにもな好青年で、俺と違って人望もあって、昔の俺ならきっと毛嫌いしていた。しかし今の俺は人間である。青と春のレールに乗り込んだのだ。人であるならば人とのコミュニケーショ ンは当然であろう。それに、寺崎は楽器を持たない俺にギターを貸してくれた。優しい男だ。 そう、最後に、ギターがこの俺。春原晴生」

春原、ニヤニヤする。

春原「はあーっ!食事・睡眠・桃色視聴♡しか予定のなかった俺が、変わった!自分が特別みたいだ、いや特別だ!はあーっ!!5月の初ライブに向けて、学校が終わると帰宅部 で鍛えられた走力で大ちゃんの家へ。ギターを弾き、ギターを弾き、ギターを弾き、目の前のラーメン屋へ。大ちゃんの影響で、三週間毎晩ラーメンという実績を解除し、体重が5キロも増えるというトロフィーを得た。誰かと食うラーメンが、何かをした後のラーメンが、こんなにも美味しいなんて。どうして俺は知らなかったんだろう」

大ちゃん「ほうれん草ましまし!」

春原「俺たちのバンド名「ほうれん草ましまし」はラーメン屋で決まった。その勢いでラーメン屋のおじさんに頼んで、俺たちの出るライブイベントのポスターと、汚い字のサインを飾らせてもらった。おじさんは「賑やかでいいな」と言った」

大ちゃん「いくぜー!ほうれん草マシマシ!わん、つ、わん、つ、すり」

首を大きく振る。
稽古終わり。酒で酔った大ちゃん。

春原「もう大ちゃん。流石に飲み過ぎ」

大ちゃん「うっ。あっはっは。ついにライブができるんだ。これでモテモテのモテだ俺は!」

春原「寺崎、水買ってきてだって。お願いしていい?」

大ちゃん「おい。お前彼女いねえの」

春原「いるわけないだろ」

大ちゃん「んあ。だよなあ。じゃあ好きなタイプ聞かせろよ」

春原「そそそ、そんなの、わかんないよ。大ちゃんは?」

大ちゃん「俺かぁ?俺あ… 俺のことが好きな人、だな」

春原「… なんだよそれ。バンドマンかよ」

①C赤い髪の彼女

春原「お気づきだろうか。今、俺は嘘をついた。少し戻そう」

回想。

大ちゃん「おい。お前彼女いねえの」

春原「いるわけないだろ」

大ちゃん「んあ。だよなあ。じゃあ好きなタイプ聞かせろよ」

春原「そそそ、そんなの…「リサさん」です」

堂々と。

春原「好きなタイプは「リサさん」です。俺は「リサさん」が好きです。「リサさん」のことを紹介しよう。出会いは先日。この日は大ちゃんと寺崎が二人で島に行く?とかでライブの練習がなかった。俺を置いて旅行か?と突っ込むことはできなかったが、俺は時間が空いたので駅の反対にある楽器屋に行った。するとそこで、ギターを見て、やけにニヤニヤしている人を見つけた。赤い髪をした女性である。その透明感や黒の瞳の美しさは何とも形容しかねた。こんな人もいるのか。彼女が言った」

リサさん「すみません。このギター、初号機に見えません?笑」

春原「やばい人だと思った。だが、こんなにも綺麗な人に話しかけてもらえたことが純粋に嬉しかった」

春原「ギター演奏されるんですか」

リサさん「昔はね。今は始めた慈善活動が忙しくて。あと漫画とアニメで」

春原「ジョジョ9部。熱くないですか?」

リサさん「熱いです!」

春原「なんと奇跡なことに話も盛り上がり、人生で初めて女性とLINE を交換した。…LINE?これは恋ではないか!桃色の吹雪が舞い上がり、俺の鼓動を煽っていった。次第に距離も近まり「人とお付き合いするのってバンドを組むようなもんですよね~」なんて、恋の核心に触れるかどうか瀬戸際の会話までした。 触れることはなかった。だがリサさんをライブに招待することに成功した!ライブが成功したら、俺は勇気を出して想いを伝えよう。いざ、この手でリサさんを抱きしめるのだ。そして、そして!ライブ当日の朝。俺は、二度とギターを持つことはなかった」

①D消失する春

春原「…わからないんだ。どうして、大ちゃんが消えてしまったのか。あの日、ライブの日の朝、駅前の商店街アーケードをくぐって二つ目の角右手に見える布団屋は看板が無くなっていて、シャッターが閉まって、売れてない布団は全部そのままで。新聞紙がぐちゃぐちゃになってて。その上二階に大ちゃんの部屋はあったのかもしれないけど、大ちゃんはいなかった。静けさがどうしようもなく怖かった」

春原「ライブまであと5分。4分。3分。2分。ああ、ライブが始まったよ大ちゃん。本当は今頃、あっちで歌ってたんじゃないの。どこに行ったんだよ」

寺崎が戻ってくる。

春原「寺崎、どうだった。は、夜逃げ?見た人がいたんだ。そっか。夜逃げ。バイクも夜のうちになくなって… おい!お前っ、二十歳だろぉぉおぉ!!?十五の夜じゃねぇんだよ!!! ああ…リサさんになんて言えばいいんだ。俺の春は、どこに行くんだよ」

春原「どこで選択を間違えた。いつからいけなかった。そうだあの日。四月一日。駅前で大ちゃんに声をかけられなければ、こんなことにはならなかった。俺には、もっと、もっと、もっと、良い春があった!!!」

♪:ベル(&時が戻る音) 

②A四月一日'

春原「冬がもうすぐ終わるから。若人どもが春うらら、ダウンを脱いでつぼみが花開くように、桃色の吹雪に煽られぽかぽかボカボカ浮かれあっているこの春というものが、どうも俺の目にしみる。花粉ではない。春がどうも目に染みるのだ」

春原「…19 年、何があった。平和で不変というのは人間が得た最上級の幸せと言うが、俺が欲しいのは、濁った空が晴れるような、目一杯の愛情なのだ」

春原、電車の車掌に肩を叩かれる。
終点の駅についていたことに気付く。
目を合わせず、そそくさと電車を降りる。
駅の階段を降りながら。

春原「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1。10、9、8、7、6、5、4、3、 2、1。10、9、8、7、6、5、4、サンッイチ!! 」

階段を踏み外してこける。
すぐに立ち上がろうとする。
♪:スピッツ「楓」

春原「初めて観た弾き語りに、何が起こったのか、体は言わずもがな、ついに頭すら動かなくなってしまった。このまま四月一日にずーっと囚われるのではないか。それでも良いような気がした。「世界よ、どうかこのままあれ」と願ったところで、温もりのある声が俺の耳を包む」

寺崎「君、僕の家族にならない? 」

春原「これが、寺崎さんとの出会いである。「家族になる」なんて何て怪しい誘いだと思ったが、どうやら寺崎さんは事故で親を亡くしているらしく、その境遇から孤独な人達が幸せになれるよう支援をしているらしい。確かになんとも痛ましい経歴だが、俺の心のウォールマリアはそう簡単には崩れない。寺崎さんは言った」

寺崎「君、寝れない夜はないかい」

春原「ありますけど」

寺崎「君、世界で自分一人だと感じたことは?」

春原「… ある」

寺崎「君、寝れずに羊を数えていると、ただ飛ぶことしかできない羊が妙に哀れに思えて涙をこぼしたことは?」

春原「…?ある気がする!なんで」

春原「寺崎さんがもっと話を聞かせてくれないかと手を出した。俺の手はゆっくりと、寺崎さんの手に向かっていた。19 年、「からにこもる」の技しか覚えなかった、この俺が、このような行動を取ったのは何故か」

春原「春の匂いがした、四月一日だった」

寺崎「ありがとう。さあ、お茶でもしよう」

寺崎、春原の手を上からコネコネ握る。

春原「あ、あったけえ」

②B寺崎さんの家族

春原「駅前の商店街アーケードをくぐってコーヒー店に入る。店の中にはいかにもな洋楽 が流れていて、ブレンドコーヒーが届くと寺崎さんが幼少期の話をしてくれた、その無惨な人生経験に心を打たれたところで、俺も、どうして俺は恵まれない、何者かになりたい、友達が欲しい、人肌に触れたい、愛とはなんだと、その溢れる悩みは数万トンに及んだところで、寺崎さんの頬に涙が伝った。理解できなかった、寺崎さんは理解してくれたんだ。寺崎さんは言った」

寺崎「こんなにも真面目で誠実に生きている君が報われないなんておかしい」

春原「そ、その通りだ」

寺崎「僕たちでこの世界を変えよう。僕らはもう家族だ」

春原「ひゃっ。家族だなんてそんな」

寺崎「もう大丈夫。僕らがいる」

春原「僕ら ?」

寺崎「紹介するよ。家族のみんなだ」

春原「すると、家族のみなさんが待ってましたと言わんばかりに二、いや三、いや四十人 くらいゾロゾロ出てきた。カフェは家族で飽和した。流石に多すぎやしないか?だが家族は多い方がいい。こりゃあ幸せの万有引力だと言われ、納得するしかなかった。それを言ったのは赤い髪をした女性である。その透明感や黒の瞳の美しさは何とも形容しかねた。こんな人もいるのか」

春原「その日はそのまま打ち上げに連れて行ってもらえた。19 年で初めての打ち上げだった。そこでは皆が俺の話を聞いてくれた。何もしていないが、人生そのものの打ち上げのようで、俺はこれまで生きてきたことが誇らしくなった。夜0時、商店街を歩いてその日は帰った」  

看板のなくなった店に気づく。
布団屋だった場所。

春原「あれ、看板なくなってる。ここ何の店でしたっけ。何があったっけな。最近多いですよね。閉まっちゃった店。こういうの、何があったか思い出せないんですよね… 」

春原「寺崎さんは、笑顔で返してくれた」

②C 幸せのセミナー

春原「帰ってLINE を開くと、赤い髪の「リサ」というアイコンからメッセージが送られていた。「これからよろしく」 これが、俺の女性とのLINE 初体験でもあった。…LINE?これは恋ではないか!朝が来るまで奇跡なことにジョジョとエヴァの話で盛り上がった」

春原「一週間後、寺崎さんに「存在論」 というセミナーに連れていってもらえた。どうやら、俺という存在は無限大の可能性でできているらしい。俺が俺でいる限り、俺は何だってできる気がした」

春原「リサさんとだけは、その日もジョジョとエヴァの話をした」

春原「二週間後、「地球と共に生きる」。三週間後、「きみの夢の叶え方」。四週間後「夢と貯金」、四週間と一日後「絶対成功する投資」、四週間と二日後 「クリックだけで一千万稼ごう」、四週間と三日後「ヴィーガンと真のお金」、四週間と四日後「ラブANDピースANDマネー」が開催される頃には俺は運営する側になっており、そのセミナーは本州から少し離れた寺崎さんの所有する島で行われた。そこで案内されたのは、セミナーが開かれる金色メッキの建物の裏、3mはある大きな滑車である。ハムスターの家でしか見たことがなかった。古典的かつ最先端の滑車。滑車を腕で回して島に電力を与えるらしい。地下労働?違う、バッチリ屋外である。その日は大嵐だった。雨粒が弾け、雷が響き、俺が滑車を回す。これも、幸せのため、家族のため、寺崎さんのため。俺が回した電力で、島に明かりが灯る。赤青黄色のネオンが光る。ああ、働くってこんなにも幸せなのか。俺の価値が肯定される。楽しいなあ。… 時は19 時、おや、寺崎さんの声がする、寺崎さん!」

寺崎「また逃げやがったのか。これで商店街も全部終わりか。あの商店街じゃもう金取れねぇなぁ。静かになったもんだ。そうだ。もし商店街の連中を捕まえたら、滑車にでもすればいい。 … ああ。今日の客はそのまま全員家族にする。いいカモだ。ハハハハ!それで、花火は用意したか?そうだ。馬鹿は派手な明かりだけで心が動くってもんだ」

②D キラキラ

春原「寺崎さん?」

寺崎「おう!滑車野郎!」

春原「えー…。ジョブ、ネームなんだよな、名前」

春原「寺崎さんが、意味のわからないことを言うので、俺は後ろに倒れてしまい、何かの線を切ってしまった。するとどこかから火が出て、奥の施設が二、いや三、いや四十回大爆発した!熱にやられた滑車の勢いが止まらずいくつも空に飛び出し、超次元超巨大ベイブレードが始まった。火のついた聖書が何万冊と星になり、 金粉が舞い、しまいには花火が上がる。ドカーン!!!」

春原「ああ、キラキラしているな。なんだこれは。これが幸せか。お祭りみたいだ。懐かしい〜」

春原「祭囃子の中に、赤い髪の女性の声が聞こえた。リサさんだ。赤髪のリサさんがまっ赤になって倒れてた。リサさん、どうしたの。聞こえないよ。え?「騙された」騙されるって何を?「また君は失敗した」失敗なんかしてないよ。ほら、 キラキラして綺麗だよ。炎のカーニバルって感じだね「ねえ、私たちもっと違う出会い方だったら良かったのにね」なんだよそれ、俺たち家族で幸せだからお金でしょ。あれ、なんだったっけ。なにがどうして俺はいつ、あっれぇ」

春原「あ、寺崎さんだ。ちょ、そんな怖い顔しないでくださいよ。家族のみんなも、そんな目で見ないでよ」

家族が春原に物を投げつける。

春原「いっ…!や、やめてください。ひっ。来ないで。逃げなきゃ、リサさ… く、はああ!!逃げなきゃ。ここから逃げなきゃ」

春原、走り出す。

春原「逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ、どうして!!?どこに逃げろってんだよ!!!」

春原、後ろを向く。
そこにリサさんはいない。

春原「…リサさん。わかった。幸せって、世界が終わるときに君の手を掴んでいることを幸せって言うんだよ。そうだろ?だってこんなにも俺は…。誰か、誰か、俺の声を聞いてよ…」

春原「どこで、選択を間違えた?いつからいけなかった。そうだあの日。四月一日。駅前で寺崎さんに声をかけられなければ、こんなことにはならなかった。俺には、もっと、もっともっともっと!!!良い春があった…はずだ」

♪:ベル(&時が戻る音)

ギタリスト、上着を羽織る。

③A四月一日''

春原、駅の階段を降りる。

春原「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1。10、9、8、7、6、5、4、3、 2、1。10、9、8、7、6、5、4、サンッイチ!!」

階段を踏み外してこける。
すぐに立ち上がろうとする。
♪:レミオロメン「粉雪」

春原「初めて見た弾き語りに、体を止めていると。視界が赤い髪で染まった。形容することのできない透明感に黒い瞳。愛すべき声が俺の耳を抱きしめる!」

リサ「ねえ。私と人生っつうバンド組まない?」

春原「春の匂いがした、四月一日だった!」

ギタリストが春原に声をかける。

ギタリスト「寒くないですか?もう今は冬、ですけど」

春原「え」

辺りを見回す。
周りは冬。


③B 存在論

春原「冬にもう入っており、若人どもは寒さを耐え忍んでいた。知らぬ間に、大ちゃんも、寺崎さんも、赤髪のリサさんとも、俺は別れをしていたらしい」

春原「家に帰ると、ゴミ山の中からぐちゃぐちゃになった新聞紙が見つかった。俺が19歳だった春の終わりの話である。そこから、俺のライブが中止になったこと、島の大爆発でリサさんの行方がわからなくなったことがわかってしまった。受け止めることのできない俺は、無限大の可能性を信じて、事故が起こらない夢を願って、駅前で一人可能性の旅をしていた。旅は全て妄想だった。桜はまた咲くと言うのに、どうして俺は大切な人と、再び春を過ごすことができないのか」

春原「人間の存在を規定するのは、可能性ではなく不可能性である。一のできるでなく、 百のできないで俺は決まる。冬の凍てつく寒さがそれを証明していた。…頼む、頼むからさ、君の声を聞かせてよ」

春原「俺はいっそのこと、ずーっと、冬に囚われたかったが、春の後には雨が降り、夏が来て秋を超えて冬となる。そうしてまた春が来るのは変えられないことであった」

春原、後ろの幕を破る。
窓が現れる。
窓の外にはJR野田駅のホーム。
そこには春の景色があり、若人どもが浮かれあっている。

春原「この春、君を探すよ。事故は起きてしまった。過去を変えることは百できない。だが阿呆な俺は、残る一に賭けることにした」

春原、駅の階段を登る。

春原「1,2,3,4,5,6,7,8,9,10。1,2,3,4,5,6,7,8,9,10。1,2,3,4,5,6,7,8,9,10!!!」

春原「何度だって言うよ。この春君を探す。赤い髪の君を探す。君の透明感はルビー、黒い瞳は黒曜石だ。 俺の真っ白いキャンパスを、君の色で染めてみせる。今度こそ君を抱きしめる」

春原「ああ、春の匂いがした、四月一日だった」

♪:イルカ「なごり雪」
春原、一歩を踏み出す。

幕。









この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?