にゃーさんとスーツ

彼のスーツはクタクタだ。
ポケットのところは擦れて穴が空いてるし、肘のところは薄く白けている。
就活の時に買った10年物らしい。
私は2年ほど前から買い直せ買い直せとうるさく言ってきた。
そしてやっと彼の重たい腰が動いたのだ。
娘の卒園、入学と彼の兄弟の結婚式がこの1ヶ月に重なったから。

彼はとてもケチで私が使う分には構わないらしいが、自分の欲しいものは1円単位でもより安いものを探す。
そしてスーツの予算を聞くと、2.3万とのこと。さてどうなるか。

スーツを試着した彼はとても素敵だった。
なんせ彼はスタイルがいい。
足が長いし、全体のバランスが良い。
ここ1年自転車通勤になったため、体重が5kg落ちた影響もある。
思わぬ眼福。私も例に漏れず、スーツ姿の男性に弱い。
しかもそれは愛しのにゃーさん。良い。

あれこれと6着ほどスーツを店員さんとともに見繕って着せたが、結局本人が最初に着て気に入っていたものになった。
私が褒めちぎったので、本人は気をよくして追加でシャツとネクタイまで購入した。
7万円のお会計。いつもの彼なら絶対に使わないであろう金額。
横顔をちらりとみると、ほくほくと新しいおもちゃを買ってもらった子どものような顔をしている。よかった。また無理強いしてしまったかなと一瞬考えたが、そんなことなさそう。
嬉しそう。
彼の気に入ったものを買うことができてよかった。

店から出た時には空は暗くなっていた。
子供3人連れてスーツを買いに来たのはとても疲れたが、来て良かった。
春のひんやりした夜空は空気がすんでいて、気持ちが良くて、なんだか幸せだった。

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