34. 最悪な女。
『ごめん、やっぱ、今日は帰らなあかんわ。嫁、情緒不安定やねんて。』
なんだそれ。
さすがの私もこれにはキレた。
「なんなん?一体。何がしたいの?」
いきなり私の口調が豹変したことに驚く蓮。
「ほんなら最初からまっすぐ家帰ればよかったやん。何しに来たん?私は一体なんなん?
元カノやら嫁やら、私には一切関係ないよね?
お互いの家庭には口を挟まない約束で付き合ってるんだよね?
お互いいろいろ頑張ってるから、束の間だけでも、男と女になろうって逢ってるんだよね?
確かに、会社や奥さんに言えない愚痴を言うのは構わないし、いくらでも聞くよ。
でも、その元カノがどれだけ好きだったか聞かされたところで、私はなんて答えたらええねん。
彼女との思い出の道を、彼女との思い出の曲を聞きながら、彼女との思い出話を聞かされてる私の気持ち、ちょっとでも考えた?
そんなに嫁が嫌いやったら、別れたらええやん!
別れたら、彼女とまた付き合えるやん!」
とにかく、まくし立てた。
怒りに任せて、とことん嫌味を言った。
今まで我慢してきたこと、いらっとしたこと、嫁の悪口聞き飽きたこと、仮面夫婦が嫌いなこと、全部ぶちまけた。
普段にこにこ穏やかで、おっとりしてて、話すスピードも遅い私。
そんな私しか見せてなかったから、尚更、蓮は驚いていた。
『いや、それは…』とか『いや、でも…』としか言わない。
目に見えてオロオロしてる。
でも、運転はしないといけないし、その間も蓮の携帯が、ちょくちょく鳴る。
「出なくていいの?車停めて出たら~?」
「ほら、奥さん、怒ってるで~」
「はよ、帰らな~」
更に煽る私。
そのうち、蓮がバイクを停めている場所についた。
『あのさ、あこさん。』
車を降りずに話そうとしだしたから、私が先に助手席から降りた。
そのまま運転席にまわり、ドアを開けた。
「早く降りて。私の車返して。
早く帰らな、今度は大事な奥さんに捨てられるで。」
さすがに蓮もムカついたみたいで、何か言いだしたけど、腕を引っ張って降りるよう促した。
かわりに、運転席に乗り込んで、
「邪魔やねんけど!」
さっさとドアを閉めた。
ドアの向こうで、なんか言ってる。
知るか!
ホンマに、もう知らん。
エンジンをかけた。
窓を叩く蓮。
前を向いたまま、サイドブレーキを外し、アクセルを、踏んだ。
マジでアホやし。
バックミラーすら見なかった。
もう2度と、あいつの顔なんか見たくない!
ホントにそう思った。
勝手にすればいい。
ホントにそう思ってた。
絶対にもう逢わない。
絶対に絶対に逢わない。
ホントに本当にその夜は、そう思った。
帰ってすぐに、パソコンを開けた。
怒りに任せて、ブログ更新したものの、、自分がうった文字をみながら、考えた。
私は何を怒ってるの? 何に嫉妬してる?
奥さんや元カノがどうであろうと、私には関係ない。
蓮にとって私が、遊びだろうか逃げ場だろうが、私には関係ない。
ボーッと画面を見てたら、コメントがついた。
コメントを確認。
『なんでこんな男が好きなの?』
確かに。
なんでだろう。
いや、好きになった理由なんてない。
だって、ひとめぼれなんだもん。
ひとめ見た瞬間から、好きだった。
例えば、音楽の趣味が同じだとか、
楽しくて会話が止まらなくなるとか、
要は、あとづけで知ったことを後から理由としてあてはめてるだけで
本当は、理由なんてない。
むしろ、私が知りたい。
なんで好きで仕方ないんだろうって。
もうね、理屈じゃない。
好きな理由は『すき』だから。
頭がいいから、
お金持ちだから、
かっこいいから好き、、にはならない。
バカだろうが、
お小遣い制でお金持ってくても、
最低最悪な男でも、、
それでも蓮が好き。
だから、好き、じゃない。
だけど、好き。
最悪なのは、私の方だな…。
翌日。
私のコメントに、さらに、コメントがついていた。
『やっぱり、お花畑だね~。』
ですよね~。
この人達に、私の何が分かるんだろう。
私は、何のために、誰のために、書いてるんだろう。
もう非難されるのも嫌だし、上辺の「よかったですね♪」も、もう要らない。
誰にも言えないから始めたブログ。
結局、ブログでも、言えなくなった。
いや、もう、蓮のことを書くのをやめる。
蓮がシャワーから出てきた。
私は携帯をヘッドボードに置いた。
蓮は隣に座って、私の髪をなでた。
『あこさん、大好き』
「うん、私も」
キスをしながら、そのままふたりベッドに倒れこんだ。
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