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5. どちらから誘いましたか?



何気なく見ていたテレビで、
男性を落とす方法みたいなのをやっていた。
心理学者や脳科学者とかが出てるやつ。

男性は頼みごとに弱いって言ってた。
頼りにされると嬉しいらしい。
なるほど。

私は、早速、実行することにした。

『れん君日記』で、彼がオークションをしてるのは知ってた。
電話でもその事について話したことがある。
これだ!

私は、あるアーティストのCD、DVDをコンプリートしていて、中にはプレミアがついているものもあった。
もちろん、大ファンだったからであって、全く売る気なんかなかった。
でも今は、その人より、蓮が好き。
だから、その人に犠牲になってもらうことにした。

「これって売れるかなぁ?」

蓮に相談をもちかけた。

『え、その種類全部持ってるん?凄いやん!』

蓮が、掘り出し物やプレミアがついてるCDには目がないことはリサーチ済み。
案の定、飛び付いてきた。

「もう熱が冷めちゃったから処分しようと思ってたけど、そんな値段で売れるんなら、捨てるのはもったいないよねぇ。
でも、私は、小さい子がいるから忙しくてムリだなぁ…」

『よかったら、僕がしますよ!』

作戦成功。

可哀想に身売りされることになったCD達は、結構な量。配送の時にそれらを預けるのは、あまりに目立ちすぎる。
だから、仕事が終わってから、うちに寄ってくれることになった。

作戦大成功。

ついに、配送以外で彼と逢うきっかけが出来た。

また、ひとつ、近づける。

嬉しくて嬉しくて嬉しくて。

その頃の私は、
どうしたら私を好きになってくれるかな。
どうにかして、好きになってもらえないかな。
そんなことばかり考えていた気がする。

私には夫がいて、彼には奥さんがいて、、
という部分は、すっぽり抜け落ちていた。
それほどまでに、浮かれていたのだろう。

それまでの電話でのやりとりの中で、
「うちは、もう、何年もレスだから。」
と言ったことがある。

口にしてすぐに後悔した。
なんか、下心みえみえで、誘ってる気がしたから。

オークションで売ってもらうCDを渡す時もそうだった。
約束した時間は夜の9時頃。
家の前まで来てくれるので、部屋着のままで逢うことにした。
ただ、そのセットアップは、胸元も大きくあいてるし、スカートの丈もとても短い。
分かってて、それを着ていった。

案の定、蓮は、
『ドキドキする。目のやり場に困る。』
って言ってた。

思惑どおり。

でも、私は私で、初めて見る蓮の私服姿にへこんだ。
なぜなら、制服ではない彼は、やっぱり若かかったから。
改めて年齢差に落ち込んだ。

あり得ないな…。

同時に、自分が、若い男の子を必死で誘惑しているのではないかと、とても恥ずかしくなった。








『どちらから、誘いましたか?』
「私からです。」

夫の弁護士さんから聞かれた時、そう即答したのは、この時の事をよく覚えていたから。

『蓮さんは、自分からひつこく誘ったと言ってましたが』
「いえ、私です。」

否定しながら、蓮が、私を庇ってくれたことが分かって嬉しかった。

その『どちらから』で慰謝料の額が少し変わるとか変わらないとか…。
夫としては、気弱な私が断り切れなかった…と思いたかったのだろう。

確かに、はっきりと告白してくれたのは蓮だ。
でも、告白させるように仕向けたのは間違いなく私。

分かりやすい「思わせぶり」を、必死で重ねていた。
「好き」と言葉に変えていないだけで、身体のすべてから「好き」を出していた。

何度聞き方を変えても、「私が先に好きになった」と言いはる私を見てた夫。

怒りに満ちていたその目が、悲しみに変わったことをはっきり覚えている。

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