見出し画像

【詩】泥濘

悪に塗れる俺達は、白蓮には成れない。
低みに生きる俺達には、救いの手は若う無い。
其れは、始めから破れて堕ちる事が理解わかり切って居る、
一筋の蜘蛛の糸に似て。

俺達は此の井戸の底しか知らない、
蛙の児が蛙で在る様に、
俺達は他に住む処を知らない。
其れは、卵が先か鶏が先かでも同じ事だ。
肥溜めだか最終処分場だか分からない、
此の泥濘は泥ですら出来て居ない。
何より此のドス黑い罪業カルマを産み出して居るのは、
他ならぬ俺達自身だ。
圧倒的な不正と悪徳、愚弄と放埓、そして見境の無い堕落、
俺達は好むと好ま然るとに関わらず、
深みへと落ちて逝く。
まるで其れ以外の行動を教えられて居ない様に、
誉れの崖BANZAI-Criff』へ飛び込む無垢な羊達の様に。

俺達は此の掃き溜めしか見えない、
屋宿ドヤ以外に住む世界を知らない人足の様に。
俺達は最う何も解らない、
糞の様に産み落とされて此の方、何も知る事が無い儘。

胡乱うろんな救済の技法は、声高に叫び立てる。
『真にして善なるを行い、美で有る事は統て正しい』。
教義ドグマであった言葉は曲解され、
一部の矢鱈と涙腺の緩い連中が御題目に、
『綺麗はキタナイdirty、汚いはキレイpure』と、
必死になってそう言い聞かせて、
在りもしない理想郷milleniumの事だけを考え、目を閉じ耳を塞ぐ。
そして今此の時を全て否定する。
忌際いまわの際で黄泉津比良坂よもつひらさかを覗く其の刻迄。

黑い歴史、何時迄も飽く事無く繰り返されて来た暴力と悪虐。
そんな墨汁インクで塗り込められた世界は見た儘に黑く、
最初に何を書かれて居たかも、何色をして居たかも若う解らない。
醜悪な感情と、吐気の様な憎悪、そして蒼空への嫉妬、
見えて居る空が『本物』で在るのかも知らず、
『本当の空』など有るか如何かも知らず、
叫びながら、『井戸』の壁に頭を叩き付ける。
流れ出した真紅あかい筈の血は、
くら過ぎて黑にしか見えない。
流す涙も朽ちた重油と同じ黑さがする。
勿論、気高さや純粋さもハナから存しない。

俺は飽いて居る。悉皆ものみな総てが黑く、邪悪な此の世界に。
当たり前だ。
俺は倦厭うんざりして居る。此の、
闇冥くらくて狭隘せまくて怖畏こわい、非道く無惨な此の世界に。
俺だってそうしたい、若し、此の世界から一時でも逃れられるのなら。
だけど仏のたなごころに咲く白蓮の花台うてなには、
俺達は居る事を許されない。俺達は、存在しては、いけない。

悪に塗れる俺達は、白蓮には成れない。
奈落を這う俺達には、憧れは若う無い。
其れは、歩けば墜ちる程に幅も無く、
身を切り刻む剃刀程の救いの路にも似て。

<了>

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?