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父と私と中古車と

年末年始、私は実家の茨城県に帰った。

『帰る』と言う表現がなんだか変な感じに思えるのは、山口県の六畳一間が私の帰る場所となっているからだろう。
実家の両親には「冬休みに帰るよ」と、大学の友達には「冬休み終わりに山口に帰るよ」と。私には帰る場所が2つあるのだ。

大学生になり1人旅の楽しさに目覚めた私だが、この旅好きはきっと父から来ていると思う。
父は所謂ライダーでよくバイクのツーリングに行く。たまにバイクの写真と「〇〇に行った」という一言がLINEで送られて来る。
少し前は通勤用と称して数年前に買った小さな白い軽でダムを見に行ったようだ。ちなみに父は180センチ100キロ。小さな運転席に大きな身体が折りまれている様は、母の尻に敷かれている父の哀愁を一層強く感じる。

今回の帰省で私がやらなければ行けないことは、運転の勝手を覚えることだ。
7月に運転免許を取得し、それから運転したのは夏休みに父の車を借りた時だけ。山口県では運転をしていなかった。教習所で人一倍注意された手前、人の車を運転するのは万が一を考えて断念、レンタカーもわざわざ借りるのは面倒だった。
当分車には乗らないと思っていた矢先、両親と祖母のご厚意で車を買って頂くことになった。初めての車なので中古車を、しかし普通車だ。(父でさえ小型の軽なのに)本当に頭が上がらない。

帰省中、出来るだけ車を走らせていた。助手席に父を乗せて「安全運転」を合言葉にしたドライブ。
久しぶりに乗った車は間隔をつかむのに少し苦戦した。何度か道をまちがえそうになったりしたがドライブはなかなか楽しく、なにより父と話すのが楽しかった。父と私は話の波長が近いことが分かった。
ガソリンスタンドに寄った時にレシートをドヤ顔で記念にと渡して来たのは笑ってしまった。
ノリで入った山道は中央線のガタガタに何度も突っ込んで大変だった。

隣県の栃木県にも行った。見出しの写真はその時に行った日光東照宮のもの。初めて自分の運転で県を跨いだが、行きだけで体力の半分を持って行かれた気がした。
家族旅行等で遠出をする際、決まって運転係をしている父はすごいと思った。少しだけ。

東照宮では一通りグルリと回った。それ自体は以外とコンパクトで直ぐに境内を1周できる。ただ、周囲に神社や寺がいくつかあるのであっちもこっちもとついつい見たくなる。 
その中でも薬師堂の鳴き龍に父はいたく感嘆していた。天上に龍が描かれているお堂には、ある仕掛けがある。鳴き龍の名の通り、拍子木を龍の顔の下で打った時だけ、龍が啼くのだ。
不思議なのは顔の下以外で拍子木を打っても音が響かないこと。
龍が鳴いた瞬間に感じた空気の波動、天上の龍の眼力、迫力ときたら本当に圧巻の一言に尽きる。

そんなこんなであっという間に冬休みは終わり、私は山口県に帰ってきた。
福岡空港まで飛行機で来たので、今私の元に休み中を過ごした愛車はない。
実は、今週末に父が茨城からここまで車に乗って運んで来る。そのために有給を取ってきたらしい。
本州のほぼ半分を横断する運転になるのでいくら父とはいえ、無理をしないで欲しい。

父と車が来たら私の運転で福岡のガンダムを見に行く予定だ。
それまで、とても楽しみだ。

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