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跳ねろ 犬捜査線(第4話🈡)

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オレ一代に狸一匹

【犬一代に狸一匹(いぬいちだいにたぬきいっぴき)】
絶えず獲物を探し回っている犬であっても、狸のような大きな獲物をとるのは一生にたった一度だという意味で、人間もよいチャンスにはめったに出合うことはないということのたとえ。

「JLogos 45辞書一括検索」より

「ワン、ワン、ワン(オレもオレもオレも)」

オレとママの、いつもの散歩中。
モモと三上さんがモモの家の玄関から出てきたところにばったり出くわした。ふたりがプライベートでおでかけだと話す声が聞こえ、オレは必死で叫んだ。

モモが振り返ってオレを見る。
(今日は誰か一緒のほうが心強いかもね。たとえあなたのような犬でも)
ちょっと生意気な言い方だが。まあ、いいだろう。
モモがツンと澄ましてオレの隣に駆け寄り、ピッタリはりついたのでオレは思わず彼女のニオイを嗅ぐ。ええにおいだぁぁ。

「キャン!」
「え?」
三上さんが、モモの意外な行動に驚いた。
オレも慌てて正面に向き直って吠える。
「ワン!」
「は?」
ママも当然、びっくりしてる。三上さんとママが顔を見合わせた。

「一緒に出掛けたいのかしら。無理よ、大福」
「今日は訓練ではなく、私の祖父の家にモモが行きたがっていて。車でちょっとのところですが」
「そうですか。いってらっしゃい。じゃあね、モモちゃん」

「ワン!(やだ)」
「キャン!(やだ)」

オレは譲らないぞ。だってドライブデートの大チャンスじゃないか。
ラッキーだったのは、三上さんがモモの気持ちをよく分かってくれていることと、今日からナオキは出張だということ。ママは急いで散歩から帰る必要がないはずだ。ピザ屋のホームページを覗いていたことを知っているぞ。

さらに、ママは三上さんのお祖父ちゃんが昔、警察犬係だったことを聞いてちょっと興味が湧いたようだった。
「じゃあ、よかったら……乗りますか?」
最初に三上さんがオレたちの熱意を受け入れてくれた。
「まあ、うちと同じ方向だし。いいですか?」
ママは申し訳なさそうに三上さんに頭をさげ、オレに向かって言った。
「でも大福。何か美味しいものを食べに行く訳じゃないのよ? いい?」
(ママ……)
オレの鼻がブヒッと鳴った。

オレはがっかりだよ。なんて発想をするんだ。そんな事オレだって期待してないぞ。ママは一体オレのことを……

(さすがあなたのママ。何でもお見通しね)
「ブヒッ……ワン!(早く、行くぞ!)」

オレの合図で車の荷台が開いた。モモより先に飛び乗ってやろうと、大ジャンプをかましたが思ったほどは飛べてなかったみたいだ。
「クゥン、クゥン……」
前足で必死に荷台にぶら下がる。でもどうにもこうにも後ろ足が上がらない。重い体を三上さんにそっと持ち上げてもらってやっと荷台に乗る。
(笑うなよ)
振り返ったが笑っていたのはママだけだ。ひょいと抱えられて荷台に乗ったモモの視線が冷たい。
いや、ドライブデートだと浮かれていたのはオレだけだ。
三上さんやモモからは少し緊張した雰囲気が感じ取れた。お祖父さんの家で何をするつもりなんだ?

だが車が走り出すと、オレはそんなことをまた忘れてしまった。
ママたちの座っている席からは目の届かない荷台で二犬ふたりきりのドライブデートだ。
よし。ここから名誉挽回。三上さん、ムーディーなカーラジオを流してくれ。頼むぜ。

三上さんは運転しながらママとお犬談義に花を咲かせている。オレが洒落た話でもないかと考えていると、先にモモが今日の目的をポツリポツリと話し始めた。

前回、三上さんのお祖父ちゃんの家の不穏なニオイがどうしても気になったという。今までの捜査でも嗅いだことがある、山で迷子になった子を探した時に偶然見つけた、あるもののニオイと似ていると。

モモは遠い目をして教えてくれた。運転席の三上さんの様子をうかがいながら。探したいモノの正体が、あまりいいニオイではないのだということだけは確かだった。浮かれていたオレも、すっかりおとなしくなってモモの話を全部聞くと、ただ車が到着するのを静かに待った。

お祖父さんはオレたちを笑顔で出迎えた。ママは少し居心地悪そうだったが、お祖父ちゃんがオレのことを「かわいい、かわいい。お利口だ」と本気で言って撫でてくるので、ちょっといい気分になったようだ。
オレもいい気分だ。この人はいいひとだ。

モモは鼻をスンスン言わせて、家の中に入りたがる。
「お祖父ちゃん、申し訳ないけどモモを中に入れてもいいかしら。すぐに帰るから」
三上さんは、ウェットティッシュでモモの肉球を拭きながら言った。すでに入るつもりのようだ。
「ああ。いいとも。犬は大好きだ。ジョンは元気か」
「ジョンを知ってるの? もうかなりの老犬だけど元気よ」
お祖父ちゃんはにこやかにオレたちを中に招き入れた。

小さな家だった。畳の部屋には、卓袱台やテレビ程度の物しかない。殺風景な部屋だ。
「お祖父ちゃん、今日はこんなものを参考に見てほしくて」
三上さんは、紙袋から老人専用マンションのパンフレットを取り出す。
「3か月前、うちの家で同居する話が進んでたんだって? なんで急に断ってしまったの」
「覚えておらん」
「嘘言わないでよ……」
三上さんは寂しそうに呟いた。
「同居が嫌なら、ここでもいいからって。お父さんから預かってきたのよ。とにかく見て。看護師さんが常駐していて安心なの」

三上さんが話をしている間も、モモは部屋中のにおいを丁寧に嗅いでいる。
「さあや。この優秀な警察犬は、何かを探しているのかい?」
お祖父さんが、急に鋭い眼光で尋ねると、三上さんは顔を少し引き攣らせた。
「さあ。私にも分からないわ」
三上さんはモモの目的をきちんと理解しているのかもしれない。何年も一緒の時間を過ごした相棒なのだから。犬同士のオレたちのようにスムーズに会話ができなかったとしても、何か気づいているに違いない。

モモは、ひとつひとつ確認するように、台所やお風呂場のニオイを丁寧に嗅いで回る。
「お祖父ちゃん。この家は、山本さんが以前住んでいたのよね」
「そうだが」
「リフォームもしないのはどうして」
「そんな金ないさ。古いが、一人なら充分快適だ」

スンスン嗅いでいるモモはまるで、鼻を啜って泣いている人間みたいだ。なんて悲しそうな眼をしているんだ。
押入れの前に立って襖を見上げるモモに、お祖父ちゃんが言った。
「そこには、何もないよ」
モモは振り返り、にこやかだったお祖父ちゃんをじっと見つめたかと思うと、グッと口を引き締めてから小さく吠えた。
「キャン」
喉の奥からひねり出すような鳴き声だった。そして押入れの手前で伏せをした。

何かの合図か。

三上さんが伏せたままのモモを撫でた。
「お祖父ちゃん、押入れを開けてもいい?」
お祖父ちゃんは眉を少し上げたが、ゆっくり頷いた。
「ああ。いいとも。何も、ない」
三上さんはそっと押入れの襖を横に開けた。
押入れの上の段には布団が丁寧に畳まれている。普段使っているものだろう。下の段には、古ぼけた新聞紙が敷かれているだけで、何も置かれていない。
三上さんが、震える指でゆっくり黄ばんだ新聞紙を剥ぐ。そして床板をすうっと撫でる。隙間に指を一本入れ、床板を動かそうとする。

「沙綾」

お祖父ちゃんが初めてピリっとした声を発した。
「何も……ないと言ったぞ」
三上さんが振り返って動きを止めた。

「キャン!」
伏せていたモモが急に立ち上がり、掃き出し窓に駆け寄って吠えた。
(本当にそこに何もないのなら、こっちだわ)
そう言っているのが分かった。

(山本さんを見つけたあの夜、ワタシが最初に合図をした時お祖父ちゃんは言った。ワタシのこと優秀な犬だって。だけど、お祖父さんはそこにおばあさんが居たことを知らなかったわ。じゃあ、なぜワタシを優秀だと思ったの。庭にあるんだわ。今まで誰も見つけなかったものが)

三上さんも立ち上がり「窓を開けてもいい?」と、返事も待たずに窓の鍵に手をかけた。
三上さんは随分強引だ。人の家なのに。
お祖父ちゃんに気を使うより、モモの気持ちを優先しているのか。血の繋がった家族より、モモに絶対の信頼を寄せているのか。

開けられた窓からモモが飛び出し、庭中を駆け回る。
ママが呑気に「大福も一緒に庭で遊ぶ?」と言ってくる。

違う。ママ、違うよ。あれは遊んでいるのではない。
モモは、探しているんだ。
かつて、あの押入れの床下にあった、そこから移動されたニオイの正体を。
ママの隣でお座りしていたオレもゆっくり窓から庭に降りた。
モモの、ピンと立ったアンテナのような耳、ジャイブのような跳ねる足。
モモは、きっと見つける。誰も幸せにならないモノかもしれないけれど。嘱託警察犬である彼女の正義感が、きっとそれを見つける。
オレは彼女から目を離せなかった。

「キャン!」

庭の一番奥、ブロック塀のすぐ内側で、モモは大きくひとつ叫び、そして伏せをした。
合図だ。
三上さんは沓脱に置かれていたサンダルを履いて庭に降りる。

どうした、モモ。探していたものを見つけたんだろう。なのに何故、そんなに泣いているんだ。

「沙綾」

お祖父ちゃんは卓袱台の前にあぐらをかいたまま言った。三上さんが振り返る。

「本当に、お前の犬は、優秀だ」

お祖父ちゃんは微笑んでいた。
孫を見る目が愛おしそうに潤んでいる。

「俺は、お前を誇りに思うよ」
お祖父ちゃんのしわがれた声が、僅かに震えた。

お祖父さんが、なぜ泣いているのだ。
モモ。
きみの声が泣いていたのは、三上さんの心が、泣いているからなのか?

煩悩の犬は追えども去らず

【煩悩の犬は追えども去らず】
煩悩は人につきまとって、飼い犬がまといつくように離れない。

「デジタル大辞泉」より

「庭に埋められていた人骨は、産まれたばかりの赤ん坊らしくて。でもなんせ40~50年くらい前のものだろうからよく分からないって」

土曜の朝、ママはしんみりとナオキに話をし始めた。三日間の出張からやっと帰ったナオキは、寝ぐせのまま神妙な面持ちで聞いている。いつものつまらないギャグで済ませようとはしない。

「三上さんはお庭を掘り始めてすぐ手を止めて。私と大福は、よく状況が分からないまま先に帰らされたわ。そしたら夜8時からのローカルニュースであの家の映像がうつってて。びっくりした。散歩中の犬が偶然発見したって言ってたけど。本当はモモちゃんのことだと思う」

赤ん坊と思われる人骨。
ニュースを聞いたときはママも暫くテレビにくぎ付けになって。
真っ青になってスマホにくぎ付けになって。
だけど、大した情報は見つからなかったみたいで。

モモの家は散歩で通るだけの仲だし、三上さんの勤め先は知っているけど個人的な連絡先も知らないし。
ナオキは大事な仕事だと分かっていたからママは連絡したいのをずっと堪えていた。ナオキからの電話に「こっちはいつも通りだよ」と明るく返事を返し、動画配信サイトで、アタリという少年とスポッツという犬がでてくる、何かあるといつも見たがる映画を見続けた。オレをひたすら撫でながら。

「お祖父さんの家は、昔、ある事件の被害者だった女性の家で、それがあの迷子の高齢女性なんだっていうのは聞いてた。だから……」
「あの、歩道橋から身を投げようとしていたおばあちゃん?」
「そう」
「ということは、死のうと思ったのは、子供を殺して埋めた事への償いとかなのかな。え、被害者? 加害者?」
「うん。昔の事件の、被害者。赤ちゃんを殺して埋めたのかどうかは分からない。病気だとか死産だとか、そんなことかもしれないし。ニュースでは死因も性別も特定できないって言ってた。お婆さんも認知症だし、結局はっきりしないんじゃないかな。魚の骨くらい……の小ささだったって」
ママの言葉に、ナオキはやりきれないという顔になった。

「それで私、思い出したのよ。あの近くで大昔に、何か事件があったよなって。私、ほら、事故物件とか探すの好きだからさ」
どんな趣味なんだママは。ずっとスマホでそんなの見ているのか。
「そういうサイトがあって、あの近くでさ、45年前にレイプ事件が多発して。被害者の誰かが死んでしまって未成年の犯人が捕まったけど無罪だったとか。どこかの政治家の息子だとか、さ」
「なにそれ。ひどいな」
「犯人については単なる噂だから真相は分からないけど。でも、そんな事件は本当に何件もあったみたい。あのおばあちゃんが、その事件の被害者だとすると、もしかして……」
「あ、まさか、その事件で妊娠してしまった子供?」
「うーん。そんなところかな、と思った」
「いやあ、でも、産むかな」
「今なら、ね。でも45年も前だよ。近所の病院になんて行きにくいだろうし。誰にも相談できず、ってことはあるのかもしれない」
「うーん」
ふたりとも言葉に詰まってしまった。

「勝手な想像はよくない。やめよう。まあ、とにかく、そんな昔の骨をモモちゃんが見つけたって、それは間違いなくすごい」

「ワン!(オレは?)」

オレが吠えるとママがオレの頭を撫でながら言った。
「モモちゃんの名前を出すと、最近すぐ反応するのよね。大福は何も分からなかったね」
まぁ。たしかに。
オレは見ていただけだ。
何もにおわなかったし。何も見つけなかった。
でもオレは、必死でモモと三上さんを応援していたぞ。ほんとだぞ。

「でも大福さんがいたから、モモちゃんが頑張ったのかもしれないよ」
ナオキはオレを見ながらお尻を撫でた。
そうだ。ナオキは相変わらずいいこと言う。

「きょう一緒に散歩に行かない? モモちゃんの様子が気になるの」
「そうだな。優秀な警察犬の労をねぎらおう」
「ワン!(行こう行こう。オレの彼女を紹介するぜ)」

モモはいつも通り、大きな庭でひとり遊んでいた。
「モモちゃん」
フェンスの隙間からそっとママが声を掛けると、モモが小型犬らしい走りで駆け寄る。
「この間は、辛かったね。がんばったね」
モモは返事をしなかったが、ママの気持ちはちゃんと伝わったようだ。
ナオキは「これがモモちゃんか。思った以上にカワイイなぁ。小さいなぁ」などと感心している。
そうだぞ。オレの自慢の彼女だ。オレは鼻が高いぜ。

(あなたの鼻はぺちゃんこよ)
(そういう意味じゃない)

いつも通りの憎まれ口を叩くモモが、オレは却って愛おしかった。
(昨日、三上さんから全部聞いたの)
(全部?)
フェンスに顔をくっつけて話を聞いた。
(そう。お祖父ちゃんは、あれを隠すためにずっと住み続けた。おばあさんが一人で産み落として押入れに隠していたのを知っていたみたい。なぜそうまでしてお祖父ちゃんが隠し続けたのかワタシにも三上さんにも分からなかったのだけど)
(浮気じゃないのか)
(違ったの。三上さんが、お祖父さんに問い詰めて全部聞いた)
(どっちが警察だか分からないな)
(今はどっちも違うわよ)
(そうだった。続けてくれ)
モモはやれやれという顔で続けた。

(お祖父さんは、事件当日、あの付近にたまたま居たの。薬物の取引よ)
(麻薬の捜査か)
(違う。取引をしていたの)
(なんだと? お祖父さんが麻薬を売ってたのか?)
(ううん。買ってたの)
(なんてことだ!)
モモは寂しそうな顔をして話をつづけた。

(相棒だった警察犬が引退して、しかも事故で亡くなってしまったらしくて。その喪失感と新たな相棒ではさほど成果をあげられないという焦り、他にプレッシャーもあったのかもしれない……たまたま仕事上知り得たルートから大麻を入手しようとしたらしいわ)
(愚かなことだ)
(その取引中に女性の叫び声を聞いた。でも自分がそこに居ることがバレたらまずいから聞こえないと自分に言い聞かせた)
(それはひどいな)
(数日後、やっぱり事件が起きていたと分かって彼女が気になった。しばらく様子を見ていたら、夫が出ていった自宅で一人、出産したのを知って愕然とした。赤ん坊が産まれたのが8月7日。7日は赤ん坊の誕生日でもあり、月命日でもあったわけね)
赤ん坊の月命日に花を供えていたわけか。
(どっちの子供だったのか分からないけどね)
そんなことも考えるなんてメスじょしは怖い。オレはぶるぶると頭を振った。
(いずれにせよお祖父ちゃんは、自分が事件をとめていたらと後悔したんだな?)
(そうね。お祖父ちゃんは、弱い自分を激しく責めた。市民を守るために高い志を持って警察官になったはずなのにって)

そこでオレはふと疑問に思ったことを訊ねた。
(お祖父ちゃんや、あの家から、大麻のにおいがしたのか?)
モモは「あっ」という顔をした。
(そういえば、全然しなかったわ)
モモも木から落ちるということか。それとも、お祖父さんは使用しなかったのだろうか。少なくとも常習ではなかったのだろう。

そこまでシュンとしていたモモが、フンっと少し息を吐いて言った。
(でも、失敗したなら次の仕事で取り返せばよかったのよ。結局全てから逃げて情けないし許せないわ)

(モモ。それは違う)
(え?)

(今のお父さんとお祖父さんの関係性からしたら、全てから逃げたわけではないだろう。一時的に冷静な判断を失ってしまった人間をいつまでも責め続けることが正しいとは思わない。人間は過ちを犯す生き物だ)
(そうかもしれないけど)
(モモは訓練や捜査で失敗しても、三上さんのために次も頑張れる。でも、信頼できる核を失ってしまうと、そうはいかない。簡単に気持ちは切り替えられないものさ。人間だって、オレだって。心の傷や後悔を死ぬまで引きずることもある。トラウマというやつだ)

モモは、上目遣いでオレを見た。
(あなたにしては重い発言ね。そういえば、あなたは二年前から今のママに飼われてるって言ってたけど、その前は……)

「ブヒッ。ギュルゥ。ワン(オレは、トラでもウマでもない、犬だけどな)」
心配そうな顔をしたモモの話を遮って言った。

(全然面白くないわ)
「キュゥゥン」

「大福。もう帰ろうか」
ママとナオキが笑顔でオレを見下ろしている。
そうだな。長居することはない。またいつでも会えるのだから。

(モモ)
(なに)
(モモは、お祖父ちゃんの何が許せないって、三上さんを悲しませたことなんじゃないのか)
(そうかもしれないわね)
(大好きな三上さんを、これからも大切にするんだな)

「キャン! キャン!(あなたに言われなくとも!)」
「ワン!」

オレの気持ちをまっすぐ伝えるとモモはピョンとひとつ跳ね、建物の中へ走り去った。真っ赤な舌をペロンと出したまま。

オレは、澄みわたる大空を見上げて歩きはじめる。大切な家族と並んで。

またな。
今の返事を次の散歩のときにでも聞かせてくれな。

(了)


創作大賞の審査を終え、加筆修正しました。
また、この拙いミステリーに「秋谷りんこさん」(たしか当時はまだフォロー関係ではなかった)が感想記事を書いてくださいました。女神!!
本当に嬉しかったです。ありがとうございました。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。 サポートしていただいた分は、創作活動に励んでいらっしゃる他の方に還元します。