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【ゲド戦記の再来】アニメ映画『鹿の王 ユナと約束の旅』をレビュー!

皆さんこんにちは、リモコンRです。

今回レビューする映画は、2022年に公開されたアニメ映画『鹿の王 ユナと約束の旅』です。

こちらの作品は、2015年度の本屋大賞を受賞したベストセラー小説「鹿の王」を原作とした作品で、著者・上橋菜穂子さんは大学で民俗学の教鞭もとる研究者です。その知識を存分に生かした世界観の構築が最大の魅力であり、全4巻でまとめられた本作「鹿の王」でもリアリティかつオリジナリティあふれる壮大なファンタジー世界で巻き起こるストーリーが人気を博しました。

鑑賞のきっかけは、映画製作の監督が安藤雅司さんと宮地昌幸さんだと知ったことです。二人はともにスタジオジブリで数々の作品の制作に携わっており、今作で初監督としてベールを脱ぎました。特に動物の作画においては日本トップクラスであるため、動物が多く登場するという共通点から「もののけ姫」のようなイメージを期待してワクワクしていました。

そうして劇場に足を運び鑑賞、その後原作を読み始め、サブスクライブ解禁後に再びすり合わせのため鑑賞というステップを踏んだ私が今作を映画としてレビューしたいと思います。

ネタバレを含みますのでご注意ください。




あらすじ

大雑把にですがあらすじを説明すると、
-民族間の争いがあった時代。ヴァンは独角のリーダーとして戦いながら敗北し、相手国東乎瑠(ツオル)が占領する炭鉱で働かされていた。そこを不治の病である黒狼熱(ミッチァル)をもたらす狼の群れが襲撃し、生き残ったのはヴァンと幼い少女ユナの二人だけ。そこで生き残るためにユナを連れて旅立つヴァンだったが、なぜかその狼の群れに追われることとなる。一方、黒狼熱の解明に挑もうとするオタワル国の医師ホッサルは、唯一生き残った二人が病気の治療の鍵であると考え、二人の行方を追い始める…。
といった感じです。

黒狼熱という正体不明の病気を軸に、様々な人物や国家の思惑が複雑に絡み合うストーリーとなっています。この映画では原作小説全3巻分(文庫版は全4巻)を1本の映画にまとめてあり、与えられる情報量がかなり多いため逐一頭の中で整理しながら出ないと置いてけぼりを食らってしまう内容となっています。


既読前提の情報量

あらすじの段階ですでに聞き慣れない単語が複数登場しています。
「独角」「黒狼熱(ミッチァル」などの単語に加え、国の名前も「ツオル」のほかに「アカファ」「オタワル」といった国の名前も登場します。
こういった馴染みのない言葉を交えた作品の舞台設定がなかなか頭に入ってこない、というのが今作の難点だと思います。特に冒頭の文字での説明はその後なかなか映像と結びつかなかったため、頭の中で一生懸命整理をしながらストーリーも追って…とかなり忙しいです。

この難点は原作小説も同様で、例にあげた以外にも慣れないオリジナルの言葉が登場しますが、おそらく作者自身もそれを考慮しているのでしょう。巻頭に人物名国名や地理関係がまとめられていました。よって、小説を読む際はわからなくなり次第冒頭に戻ることで逐一整理することができました。ただ今回は劇場で上映されている映画なので、いったん立ち止まるということができません。よってこれらは慣れるまで我慢です。映像を見ているうちになんとなくわかってくるので時間が解決すると思います。

そしてそもそもカバー本2巻分を一つの映画にまとめているため、カットも多く雰囲気としては総集編のようなスピード感で進みます。よく言えばテンポがいいともいえますが、先述した通り頭に入れなければならない設定が多いためもっとじっくりと話を進めた方が良かったのではないかと思います。
宮崎駿監督のようなテンポよく映像を踏まえて観客にすんなり理解してもらう技術があれば別ですが、初監督作品として扱うにはかなり難易度の高い作品であったと思います。

結果としてかなり見ている側が頑張らなければならない映画となってしまっていますが、ストーリー自体は原作にかなり忠実であるため、映画を楽しみたいのであれば先に原作小説を読んでおくことを推奨します。


作画に波がある

監督の一人である安藤さんは動物の描写に定評があり、『もののけ姫』がその代表例と言えます。動物を骨格から理解することから、似ている動物のフォルムから走り方までを描き分ける技術は日本一ともいわれます。本作には狼(キンマの犬)や鹿のような飛鹿(ピュイカ)といったオリジナルの動物はもちろん、猪や兎など実在の動物まで様々な動物が登場するため、監督のこだわりが随所に見られる作品となっていていてそこはかなり楽しめました。また背景もさすがのクオリティであり、細部にわたる描き込みは大スクリーンでも素晴らしい迫力でした。

ただ、主に複数のキャラクターが動き始めるシーンで途端にのっぺりとした作画になるのが目立ちました。特にピュイカに乗ったヴァンを狼たちが追いかけるシーンは、飛び跳ねるように走るピュイカや動き回る足場などが登場するものの躍動感というものがまるで感じられませんでした。なまじほかのシーンでいい作画が目立つだけになおさらその落差が際立っていました。時間が足らなかったのでしょうか?


邪魔ではないゲスト声優

本作のメインキャラクターたち3人にはゲスト声優が抜擢されています。
主人公ヴァンには堤真一、医師のホッサルには竹内涼真、ヴァン追跡のミッションをこなすサエには杏といったそうそうたるメンバーです。初めはなんとなく話題作り第一のキャスティングのように思っていました。
ただ以外にも、もちろんプロではないので上手いわけではなかったのですが、それぞれ声のイメージがあっていて悪くなかったと思います。
堤真一のぼそぼそ声は少し聞き取りにくい感じもありましたが、ヴァン自体そういうキャラですしハキハキ喋られるよりよほどイメージに合った演技のように思いました。

そもそもメインキャラクターが皆不愛想な性格で淡々と会話していくので、多少棒読みでもそれほど問題にならないところを話題性あるゲストで固めたという感じに見えます。


キャラクターの掘り下げが浅い

ここはのちに原作を読んで思ったところなのですが、ストーリーをカットした結果ヴァンとユナ以外のキャラクターに対するエピソードが薄くなってしまっています。尺が限られてしまっている事情ゆえにタイトルに『ユナと約束の旅』と付け加えることで二人のみをメインに据えた方針にしたのでしょう。

原作ではホッサルをもう一人の主人公として描いています。これは黒狼熱に対するスタンスの違いが反映されていて、ヴァンとは違いホッサルは黒狼熱の治療に重きを注いでいます。正体がわからない謎の病、お祈りによる治療法が主流な世界で、科学的見地から病気に向き合うホッサルの苦悩の過程が見どころの一つでした。ただ映画内ではそこらの話がかなりカットされ、ほぼモブキャラのような扱いです。またホッサルの助手であるミラルというキャラクターたちが病解決へ向け総力を結集する過程も省かれていました。

またサエというキャラクターに至ってはもっと薄くなっています。。
里で「後追い」という仕事を請け負ったことで、仕事に人生をささげていくなかで、結婚し家族をつくるという憧れを捨てた、という設定でした。そういった過去があったためヴァンとユナの関係性に情が湧いていく…というものだったのですが、映画内ではそこの説明もいまいちで想像で補うしかなくなっているのが惜しいところです。

そして今回黒幕として描かれているシカンですが実は単独犯ではなく、ホッサルの祖父らが糸を引いているということが原作では明らかになっています。彼の犯行は政治的なしがらみが生んだ憎しみに起因するもので、上橋作品の多くはこの複雑に絡み合った外交や人間らの関係性も面白さのひとつなのですが、ここも省かれたことにより犯行の動機も弱く小物感ある悪役と化してしまっているのが残念でした。

総じて脚本構成により、魅力の一つであった各キャラクターの背景や関係値があまり発揮されていない映画となってしまいました。
魅力が発揮されていないことにより、特段印象的な場面もなく思い入れのあるキャラクターというのもなかなか見つけられません。
冒頭複雑な設定を頭に叩き込んでまで見せられたのが、見せ場があまりなく魅力が発揮されないキャラクターたちが織りなすカットを多用したことで複雑ながらテンポが速すぎるストーリー、これでは見ていて退屈でしょう。


『ゲド戦記』の再来か

初めての監督が、長編ファンタジーを1本の映画にまとめようとした結果内容が薄くよくわからない映画になってしまった…。
この流れって『ゲド戦記』で観たことあるな、と思いました。
あっちはストーリーをさらにつまみ食いした感じなのでまだこちらの方が見やすいかなとは思いますが、失敗の仕方は同じです。

そもそも1本の映画にまとめようとすること自体に無理があるのに、それをさらに初監督が担当するのは厳しいものがあると思わざるを得ません。どうしてもジブリと比べてしまいますが、原作を1本の映画にまとめたという代表例として『ハウルの動く城』があります。ただあれはそもそも1巻のみを選別し、さらに映画内にうまく収まるような改変を施せる宮崎駿が天才すぎるゆえに成り立つ作風であって、その影を追いかけようと真似しても無理です。

『獣の奏者エリン』のようなまとまった尺を確保できる連続アニメシリーズでならあるいは成り立ったかもしれません。なんにせよ原作は面白かっただけにもったいないと思わざるを得ませんでした。


まとめ

尺が足りない。
これが根本的な原因かなと思いました。映画でもやもやした部分が原作を読んだことで理解出来たり魅力を認識できたりといった映画外の時間のほうが面白かったといった印象です。
ネット上のレビューではおおむね好評価は得られていないようですが、ストーリー面の指摘がほとんどではないかと思います。
余裕があればぜひ小説を読んでみてほしいな、と思いました。
映画はNetflixで観れるようです。おすすめはしませんが見返したいという方がいらっしゃればどうぞ。

レビューは以上になります。皆さんにはどのように見えましたか?
ぜひご感想お待ちしております>



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