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【短編小説】仮)アデリア王国物語#03

執事はただちにリアーナを抱え込み、近くのトイレに駆け込む。

口内にある異物を漱げと言われ、リアーナは苦味が消えるまで蛇口の水道で漱ぎ、吐き出した。

すると、執事の代わりに勤務年数の長いメイドが病院に連絡してキルケー家のお抱え、主治医が来た。

リアーナは苦くて激痛が走ったと言うと主治医は紅茶を調べて納得した。

「これは・・・青酸カリですね。飲まなかったのが幸いで体内に接種するとガスが発生し、15分で死亡します。」

リアーナは信じられないと震えた。生汗を掻いて手も強張り、スカートを握り締めた。

******

キルケーの家主は護衛隊に連れられ、通りから少し離れた区画にある警察が管理する取調室に座らされた。

老躯の太った体には窮屈な椅子で、一層、背の小ささと年季の入った二重あごが何故か貧相に見えた。

バンッとテーブルを叩く音がする。

「お前がやったんだろ!?」

狭い室内で高圧的に警察が睨み付ける。

「ひぃっ。」

嗄れた声が喉を締め付けられ、情けない声に変わる。

「わ、私は何もしてません。遠征で帰ってきたばかりのバイレード様にそんなっ毒を盛るなんて有り得ません。」

キルケーはおどおどして半泣き状態である。

「今、屋敷に居る警察に毒薬を用いたラットの実験を地下室でしなかったか調べてやるからな!!」

キルケー家には中庭があるコの字型の屋敷で、間取り図を見ても無駄がなく設計され、隠し部屋や地下室もなかった。調度品も海外製は多いものの、同盟国ではない敵国の輸入品等、一切、排した家造りだった。本棚にはアデリア王室の歴史の文献や、客間で座ってたバイレードのソファの後ろに飾られた大皿もアデリア王国御用達のブランド皿である事から謀反など起こす要素が全くなく見える。

警察がキルケー家のドアを叩く。後ろには軍関係者も居た。執事のアルフレッドの眉間にシワが現れる。

「バイレード大佐の件で事情を聞きたいのですが。」

緊張した面持ちで案内する。妻のマリアンは精神的に落ち着かず、メイドの勧めで自室に籠もる。

客間には飲みかけの来客用の陶器のティーカップ。毒を飲んだとされるメイドのリアーナ。キルケー家の妻であるマリアン、屋敷に呼ばれた主治医が居た。

警察は被害者から事の発端を聞くと訝しげになり、何か引っ掛かったみたいだ。

「リアーナ・ロネ・ドゥオモ・・・テレサワインのドゥオモ家の令嬢ですか?確か10歳の時に初めてパーティーに参加した。いやはや大きくなりましたな。覚えてらっしゃらないかも知れませんが、私はフェルマー刑事です。」

胸を張って誇らしげにお喋りする刑事にリアーナは首を傾げた。

「フェルマー刑事?」

見に覚えがない人物にリアーナは不思議がる。フェルマーはある事件がきっかけで記事に載った事がある。それはドゥオモ家のワイン事業主にとっては一大事の事件だった。

「リアーナ嬢、キルケー家がバイレード大佐に文句を言ったり、またリアーナ嬢自身に何か嫌がらせがあったり、何か不審に思った点はございませんか?」

リアーナの身が危ないと思った事は一度もないし、バイレードの悪口を聞いた事もない。

メイドの虐めみたいなのは度々あったがそれで毒を盛られるとは考えきれない。

「もしかすると・・・。」

執事のアルフレッドは考え込んだ。キルケー家のサルトルが使用人のメイドと夜遊びしてる事を。

「息子のサルトルとの関係で要らぬ噂があったとリアーナに聞いた事があります。当の二人が話したのは各国のワインの話だけだと・・・それに不満を持っていたメイドが居ましたが・・・。」

過去の内輪揉めの問題がここに来て怪しむ。メイドと関係があるのかも知れないと。

「そのサルトルという人物はいらっしゃいますか?」

警察は客間に居ない者を執事に聞く。執事は一呼吸置いてから返答をする。

「今は不在で一人で海外旅行へ行ってます。」

顔を曇らせ執事は焦りを感じていた。その表情を警察は見逃さない。

「昨日から旅行ですか?」

警察が問い詰めると執事はしどろもどろになりながらも素直に受け答えた。

「いえ、先程・・・出掛けたので。」

執事はこの事態を重く見ていた。警察は苛立ちを覚えた。

「この様な騒動があったのに?父親であるバクトラ・キルケーは今、警察署に居ますよ?」

警察は責め立てる。執事の行動にフェルマー刑事は怪しむ。

「私はサルトルを止めましたが、予約したのに今更、キャンセルできないと言い、私にはその権限がなかったもので。」

引き止めはしたが、聞いてくれなかったと濁す。警察は溜息を吐いた。

父親が連行されるという緊急事態なのに、富豪の息子がはした金をキャンセルできない訳がない。

「・・・父親と確執があるのでは?」

一つの憶測、生育過程に問題がある可能性がないか聞く。

「・・・実は、彼は養子なんです。」

執事は考えあぐねながらも息子の背景を言った。

「ふむ、養子ですか・・・。」

警察は少し意外そうに驚いていた。リアーナも知らなかった。サルトルからそこまでの深い話を聞いた事がないからだ。

すると、メイドが慌てて客間の人達を呼ぶ。

「火事です!!」

既に開けられたサルトルの部屋の扉を見ると部屋が火事になっていた。廊下まで煙が充満してる。

まるで事件の証拠隠滅を謀った様に。

警察はサルトルを重要参考人として警察は捜査を開始した。

【続く】

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