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天才であろうとする

わたしに、俳優になりなさい
それで生きていきなさい
そして、東京に行きなさい
というなかなか飛んでるアドバイスを
くれた恩人がいる。

高校を出て、舞台の世界に飛び込んだ私を
何故かとても気にかけてくれた
その人は、劇団の制作者だった。
制作とはいわゆるプロデューサーである。
興行を打つことに関わる
あらゆる仕事をする人である。

その人はわたしが東京に出てくる少し前に
急死した。
それはとても孤独な亡くなり方だったのだ。
演劇に全てを捧げた人生だった。
素敵な、本当に優しい人だった。

その人がいなくなった時
本当に東京に出てみようか、と
はじめて思った。
わたしはその人の生き方が好きだった。
心から尊敬していた。

「君には才能の欠片がある。
でもそれは大切なことじゃない。
才能があるかどうか、天才かどうかなんて
大切なことじゃない。

問題は、天才であろうとすることなんだ。」
そんな風に話した。

「天才は、無敵なんだよ。
そして、不死身なんだ。」

「でもそれは、生まれるものではない。
その状態を自分が創り出せるように
天才であると信じて、生きていくんだ。」

わたしはその後10年間
舞台に立ち続けたけれど
いつも客席にいるはずの
その人と会話していた。

「信じなさい。」
そんな声がいつも
汗をかきながら舞台でもがいている
わたしの耳に聴こえていた。

天才であろうとする。
その驕りも愚かさも引き受けて
それでも、天才であろうとする。

笑われることを厭わなくなった時
はじめて神は微笑む。

もう一度やってみようか。
信じてみようか。
彼がそうやって生きたように
生き直してみようか。

天才であったら、どのように生きるか。
それはわたしにとっては
あなたなら、どう生きたか。
それをなぞることでした。

その道筋を超えて
わたしもまた
己の不出来さを棚に上げて
信じてみようと思います。

天才であろうとする。
皆がそう思える世界ならいい。
そんな世界はきっと
とても美しい。

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