どんぐり姉妹
私は元気に生きていて、死んだのは君のほうなんだ。なんてことだろうね。
「ありがとう。」
涙が止まらないまま、私はそれを受け取った。
天国からのキャンディだった。
そしてそれを口に入れて、甘みを確かめた。
確かに甘い、今、確かに甘い。そう思えた。
「いいよ。」
私は言った。
その気持ちは、どこから来たのだろう。私の奥底からわいてきた。優しさでもなく、甘さでもなく、なぐさめでもなかった。私は本気だった。それしかないと思ったのだ。たったひとつしか言えることはなく、実際にそうしようと夢の中で決心して口に出した。
「先がなくてもいいよ。一分でも一秒でも、いっしょにいられるだけいっしょにいよう。しっかりと暮らそう。もしそれが積み重なって一日でも二日でも多くいっしょにいられれば、それでいい。」
絶望の中の希望が小さくうまれていた。
楽しいから生きていようとはもともと思っていない。
ただ体が、本能が生きていようというから、ひたすらに生きているだけだった。
一分でも一秒でも多く。それが一年でもニ年でもとにかく一歩一歩。
よしもとばなな 「どんぐり姉妹」より
姉妹のような二人だった。
後悔も多い、もっと出来ることがあった
あの時違う道を選ぶべきだった
そんなことを思わない日は
母が病気になってから、たった一瞬もなかった。
瞬間的に正しい判断をしなければ
母を奪われる、そういうギリギリの世界線で
あの日から生きていた。
今日、ばななさんの「どんぐり姉妹」を
読み返していて
やっと子供のように泣くことが出来た。
お母さん。
約束した通りに、わたしが死ぬとき
必ず迎えにいくから。
お母さんは、待っていればいいからね。
なんにも心配いらない。
もう苦しいことも二度とない。
わたしは大丈夫だよって言ったけど
お母さんも知っているように
本当はちっとも大丈夫じゃないよ。
少ない家族だから、ひとりっ子だから
それに姉妹のように
仲良しのお母さんだったから
明日からどうして生きればいいのか
何もわからないよ。
生きていける気がしないよ。
それがほんとのことだね。
でも、やってみる。
お母さんが頑張ったように。
わたしも少しずつ、ゆっくり
ただ息をして、ごはんを食べて
お風呂にはいって、眠って
仕事をして、ビールを呑んで
一日一日、何とか生きてみる。
きっと、良くなるよね。
すべてのことが、きっと。
どんぐり姉妹みたいだった
わたしたちに
きっと世界は
親切にしてくれるよね。
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