見出し画像

ファーストラブ

愛を失った人間を支えるものは
愛しかない。

わたしは、母と共にずっと生きてきた。
愛し、愛され
おかしな話だけれど
家族でも友人でもあった。

本音で喧嘩し
互いに意見し合い
相手がどん底にある時は
ふたりで朝までお酒を呑んだ。

そんな風に色濃い
親子だったので
心だけではなく、体や
風景や、食べ物や
すべてが母と結びついている。

母が好きそうな洋服を見かけると
もう買ってあげられないんだと思う。
餃子を大量に作ったり
外国の料理なんかを盛大に作る時には
もう一緒に食べられないんだと思う。

そう思うことは仕方ないことだ。
きっとわたしは死ぬまでそう思うだろう。

確かにわたしはまだ悲しみの中にいて
だからこそ
隣にいてくれる人のことがよく見えるのだ。

わたしの夫は
わたしがもっとも深い闇の中にいた時
ずっと手を握ってくれていた。
わたしに話しかけ、抱きしめ
助けてくれた。

わたしはそのこともまた
一生忘れないと思う。

愛に変わるものは愛しかないなんて
考えたことはなかった。
わたしは実感した。
人は人によってしか生きられない。
人は人によって生かされているのだと。

初恋というものが世界にあるとしたら
わたしの初恋は
母なのかもしれない。

この世界に生まれでて
はじめて親切にしてもらった
すべてを肯定してもらった人。

そして、そこから大人になり
わたしはすべてを捨てても
この人といなければならないと
思う人と出会った。

大人になったわたしの初恋。
それが自分の人生の
ほんとうのはじまりだった。
そんな気がするのだ。

わたしには
初恋がふたつある。
それは信じられないほど稀有で
幸運なことだ。

あなたがいたから
わたしは生きてこられた。
そして、あなたがいるから
わたしは明日生きたいと思う。

生きることはこわいことだけれども
それでも生きていこう。

だって、人生はあまりにも美しいから。
だから、わたしはここからまた
物語を綴ってゆこうと思うのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?