![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/106019338/rectangle_large_type_2_af9f76d5b81438a212ee61075a480d90.png?width=800)
「ろりーたふぁんたじー」 第17話:山の地
今日は山の地。サンネの家に遊びに来ていた。しかし――
「う~」
ヒイラがうめき声を上げる。
「ヒイラ、頑張って」
そう。サンネの家は山の奥なのだ。だから必然、山登りをする必要がある。
学校が始まる前、毎日のように特訓しているヒイラとはいえ、まだ山登りをするほどの体力はなかった。
「疲れた~」
そう言いながらいつも通り、背中には剣を背負っていた。
「その剣が重いんじゃないの?」
「でも! 剣を持ってるのがかっこいいの!」
理由がもう単純になっていた。前に言っていたときは勇者の務めみたいなことを言っていた気がするが、今は疲れてそれどころじゃないのだろう。
「かー! いい運動になるなー!」
「そうね。これはけっこうしんどいわね」
「た、大変ですね」
カエン、フウラ、リンコもさすがに疲れてきている。
なぜかリンコは背中にかごを背負っていた。それがずっと気になっていたのだが、他にも気になっていたことがあった。
「ねえ、フウラ」
私はフウラに話しかける。
「なによ」
「フウラは飛べるからわざわざ登る必要ないんじゃないの?」
「ふっ、浅はかね」
「え、なにが?」
フウラは額に汗をかきながら笑みを浮かべる。
「私が迷子にならないとでも思っているのかしら」
「……堂々と言うことじゃないよ」
そっか。迷子にならないために付いてきてるんだね。
「へへーん! フウラはおバカだから仕方がないな!」
カエンが得意げに笑みを浮かべて言う。
「なんですって? わかったわ。私、飛ぶわ」
「え、フウラ、やめときなって。本当に迷子になっちゃうよ?」
私はフウラの肩を掴み、フウラを止める。
「いえ、行くわ。このままバカにされるのは癪だから」
「えぇ……本当に大丈夫?」
フウラはすぐに挑発に乗る。特にカエン相手だとそうだ。
「先に行ってるわ! せいぜい苦労しながら登ることね!」
フウラは翼を羽ばたかせ、空に飛んでゆく。
「おー、アイツほんとに行きやがったよ」
私を含め、みんなが空を見上げる。周りは木々に覆われているためすぐに見失った。
少しの間、みんなは空を見上げている。
すると、周りの木々が風に揺れた。
「ふぅ」
フウラが降りてきて、一息ついた。
「あ? フウラ先に行ったんじゃなかったのか?」
「先に行ってもよかったのだけれど、みんなが迷子にならないか心配だったのよ。感謝しなさい」
「フウラお前いいやつだな!」
「当たり前のことよ。さあ、行くわよ」
フウラは髪をなびかせ、私の後ろにつく。
「う、うん」
絶対、迷子になると思って帰ってきたよね……?
ただ、それをフウラに言及したら今度こそ飛んで行って迷子になりそうなので言わないでおくことにした。
「うぅ~、ちょっと休憩」
ついにヒイラの体力が尽きた。ヒイラは岩の上に座り、額の汗を拭っている。
「大丈夫ですかヒイラさん」
リンコがヒイラに近づき、かごを横に置く。
「リンコ、気になっていたんだけど、そのかご何?」
私は気になっていたことを尋ねる。
「サンネさんが、道中欲しい山菜があったら採っていいと言ってくださったんで、それを集めるために持ってきていたんです。ほら、見てください」
リンコはかごから花を出し、笑顔で私に見せてくる。
「きれいだね」
「はい! あ、えっと、疲労回復の山菜もあったので、みなさん、どうぞ」
「お! マジか!? 気が利くなリンコ!」
「助かるわ」
「はい、あ、でも……」
「どうしたのリンコ?」
「疲労回復の山菜は、これ、なんです……」
リンコはそう言って、かごからキノコを取りだす。
「う、キノコ……。それ、生で食べられるの?」
私は鼻を押さえ、リンコに聞く。
「はい。これはそのまま食べられます。でも、サティさんは食べられないんですよね。すみません……」
リンコはしゅんと落ち込んでしまう。
「気にしないで。私は大丈夫だから。ほらみんな、リンコがくれるってさ」
私は鼻を押さえながら、みんなに言い、みんなはリンコからキノコを受け取る。
「サンキュなリンコ! いただきまーす!」
「美味しいわね」
「う~ん! たしかにちょっと元気出てきたかも!」
カエン、フウラ、ヒイラがキノコを口にし、楽しそうに食べている。
「よかったです」
そう言ってリンコもキノコを食べている。
「…………」
私は楽しそうなみんなを見つめる。
……私だけ、ひとりぼっち。
どうしてか自然と頬が膨らんだ。
「リンコ」
「はい? どうしました?」
「私も食べる」
「え、でも……」
リンコは不安げな表情で私を見つめる。
「大丈夫。鼻を押さえてれば食べられる」
「無理しないでいいんですよ?」
「大丈夫だもん! もらうね! ふぅ……」
私はリンコからキノコを受け取り、鼻を押さえながら手に持っているキノコを見つめる。
大丈夫。大丈夫だもん! 私だけ食べられないなんてことないもん!
意を決してキノコを口に入れる。
「……ど、どうですか?」
リンコが私に尋ねる。
うん、なるほどね。鼻を押さていれば――
「おっ、うっ」
ダメだった。私はキノコを吐き出してしまった。
「サティさん!? 大丈夫ですか!?」
「ああっ」
ダメだ。頭がくらくらする。
私は岩の上に倒れこむ。
「サティちゃん!?」
「サティのやつ、またやってやがるよ」
「はあ、本当に仕方がないわね」
こうして、一番体力があったはずの私がみんなに運んでもらうことになった。
せっかくの山頂の景色も、気持ち悪くてまともに見ることができなかった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?