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「ろりーたふぁんたじー」 第2話:風林火山

 翌日、私は指定された場所へと足を運んだ。

 そこは平和の地と言って、魔族と人類がともに生活をしている場で、学校『ピースフルスクール』もそこに作られた。

 白を基調とした建物が並び立ち、灰色のレンガ造りの道を歩く。道の横には魔族の者や、人間が市場を開いている。どちらも緊張感なんて感じられないくらい平和に買い物をしている。

「噂では聞いていたけれど、本当に共存しているんだ」

 私は生まれてから魔の地にしかいなかった。魔の地は広大でその中でも町々がある。

 そういう所に足を運んだことはあれど、人間はほとんど見たことがなかった。

 それほど私は魔王城にずっといたのだ。

「へい、らっしゃい! 今日のはとれたての新鮮魚だよ」

 妖鳥の男が人間に話しかける。

「うーん、それじゃあ、3つ貰おうか。値段は?」

 人間が顎に手をやり、買い物をしている。

「おー」

 つい見入ってしまう。魔族と人間が普通に話している。よくもまあ、まったく警戒もせずに接することができるなと感心する。

 私は緊張していた。魔の地から出ることがなかったこともあり、人間をほとんど見たことがない。

 人間がいつ襲ってくるかわからない。

 そんな不安と同時に、好奇心もあった。平和な世界が繰り広げられている平和の地も前から気にはなっていた。

 心配が心を揺らす。

 もしかしたら学校には人間もいるかもしれない。いや、平和の象徴のためだ。確実にいる。

 そんな人間と上手くやっていけるだろうか。

 常に警戒心を緩ませず、そして平和の象徴同士で上手くやってゆく。それは政治活動における重要な仕事だった。

 それに、風林火山の後継者たちがどんな者かも私は知らなかった。もし、昨日のように非力で無力な者たちだったらどうしよう……。

 そんな心配をしているうちに、学校に着いた。

 学校はオレンジのレンガ造りで作られた一軒家のようなもので、3階建てだった。

「今日からここで勉強するんだ」

 私は改めて自分の役割の重大さを確認し、強く頷く。

 そして、学校の扉を開く。扉を開いた先にはエントランスになっており、左側には階段があり、右側には扉がふたつある。

 教室という場所は2階にあるため、階段を登り、1階と同じような作りになっている2階へと上がる。階段を登りきると、再びふたつの扉があり、手前の扉が教室だ。

 教室に入る。すると――

「よっしゃあ! 燃やすぜえ!」
「熱いわね。やめてもらえるかしら」
「おー、すごい炎だねぇ」
「ひいぃ、炎、怖いです!」

 地獄絵図だった。

 小さなドラゴンの尻尾を生やした活発な女の子が火を吹き、クールな女の子がそれを風でいなし、教室中に炎が舞っている。その様子を見て、関心している子もいれば、怖がり机の下に縮こまっていたりしている子もいる。

「なに……これ」
「お! 新入りだな!」

 火を吹いている女の子が火を吹くのを止め、私に目を向ける。私はその女の子を観察する。

 短めの赤い髪に、切れ長の赤い瞳。短パンの後ろには小さなドラゴンの尻尾がある。

 無造作に着られた灰色のTシャツは炎に少し焼かれ、焦げている。口をかちかち鳴らす度に火が口から出る。八重歯が特徴的だ。

「ごきげんよう」

 私は頭を下げる。

「よろしくな! オレの名前はカエン! 火の地から来たんだ!」

 火の地。主にドラゴン族が住む地だ。

 なるほど、この子が火の地の後継者か。年齢も私と自分と同じぐらいだ。たしかみな私の一歳年下と聞いた。

 私は10歳だからみんなは9歳か。

「私は魔の地から来たサティと申します。みなさん、よろしくお願いします」
「あら、あなたが大魔王サタンの娘、サティね」

 自分のことを知っている子がいるのか。

 私の名を呼んだのはさきほど、教室で風を吹かせていた少女だ。

 煌めく川の流れのように綺麗な長い水色の髪に、碧眼。肩出しの白いドレスを着ている。

 その肩には天使のような白い両翼がある。話し方からクールな印象がある。

「あなたは」
「私はフウラ。風の地から来たわ」

 風の地。主に妖鳥が住む地だ。

 この子は少しまともそうな子だなという印象を持ったが、さきほど教室で暴れまわっていたカエンに便乗していたことから問題児のひとりなのかもしれないと呆れる。

「サンネの名前はねぇ、サンネっていうんだよー。山の地から来たんだぁ、よろしくねー」

 さきほどの地獄絵図をぼーっと眺め、関心していた子だ。

 山の地。主に獣人が住む地だ。

 サンネは肩ほど伸びた茶髪の上にぴょんとはねた耳がある。

 垂れ目がちな目は綺麗なブラウンをしており、常に笑顔を振るまいており、ふわっとした印象がある。

 白いワンピースの上に茶色の毛が付いたフードのパーカーを着ている。

「わ、わた、わたしは、リンコっていいます……、林の地から来ました。よ、よろしく、おねがいします」

 机の下から出てきたのは輝く長い金髪をしており、緑の目をしている。

 耳が長くとがっていることからエルフだと思われる。

 体の発達がよく胸が大きい。サティに自己紹介している間も目を泳がせ怯えている。おどおどとした印象がある。緑で花の装飾が施されたドレスを着ている。

 この4人の少女たちが風林火山の後継者だ。

 私が言うのもなんだが皆幼い印象だった。魔族を筆頭する風林火山の守護者である威厳を一切、感じさせない。

 ただの子どもだ。たしかにこれは教育が必要だ。

「みなさん、よろしく。魔王族配下、風林火山の守護者後継者として精進して下さい」

私はみなを見据えて言う。

「しゅごしゃ? こーけいしゃ?」

 カエンが首を傾げる。

「そのような面倒なことはするつもりはないわ」
「えーなにそれ、おもしろそー」
「こ、こここ、後継者。わ、わたしには、そ、そんなの無理ですぅ」

 四者四様の反応を示す。守護者後継者としての自覚がないようだ。

 私はため息をつく。
 ため息をついていると、教室に人間が入ってきた。

「おはようございます。みなさんおそろいですか?」

 人間だ。

 長く黒い髪で、尻尾も翼も特徴的な耳もない。魔族が放つ特有のオーラもない。こんな普通の人間が今日から自分たちを教育する者なのか。

「今日からみなさんの先生になりますミランと言います。人間です。みなさん席に座ってください。えっと、サティさん、フウラさん、リンコさん、カエンさん、サンネさん。えっと……まだひとり来ていませんね」

 ミラン、先生は言う。席は6つある。私を含め、風林火山の後継者、そしてもうひとつ席が空いている。

「あー! ちこく、ちこくー!」

 廊下の方から大きな声が聞こえる。そしてそのまま教室の扉から勢いよく入ってくる。

 そして、扉の小さな段差で躓き、盛大に転ぶ。

「ぐへぇ、あ、パンが!」

 オレンジの髪をした少女がパンを加えていたのだが、転んだ拍子にジャムの塗られたパンが教室に落ちる。

「あ」
「いったたー」

 私はその少女に見覚えがあった。昨日、魔王城に攻め込んできた勇者の娘、ヒイラだった。背中には勇者の剣(ゴム製)を背負っている。

 ヒイラは立ち上がり、パンを拾い、透明の袋に入れる。

「ヒイラさんですね」

 先生が言う。

「はい! 勇者の地から来ました! ヒイラです! 9歳です! よろしくお願いします!」

 ヒイラは先生に言い、みんなに頭を下げる。

「あ! 昨日の魔王の娘!」

 ヒイラが顔を上げると、私に指をさし大きな声を出す。

「あら、お知り合いなんですか?」

 先生が笑顔で言う。

 私は目を細める。

「知り合いというかなんというか、敵というか……」

 呆れがちに言う。

「ここではみんな仲間です。仲良くしていきましょう」
「仲間なんですね! よろしくね! 名前なんだっけ?」

 ヒイラは敵対心を一瞬で捨て、私に笑顔を振りまく。

「……サティ。よろしく」

 ヒイラも席に着く。

 席の並びは長方形の形となっており、右上から私、その左隣がヒイラ、フウラ、左下からリンコ、右隣にカエン、サンネの形で席に着いている。

 みんなが席に着いたところで先生が口を開く。

「今日からこの6人で一緒に勉強をしていきます。そして、みんな仲良く卒業してもらいます」

 仲良くか。

 私としては仲の良い友だちを作るためにこの学校に来たわけじゃない。

 配下の風林火山の後継者の育成、そして、ついでに平和の象徴として勇者の娘にもある程度成長してもらわないとならない。そんな簡単にはいかないだろうな。

 先生は笑顔を振りまき、学校の説明をする。その後、改めてみんなで自己紹介をした。


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