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「転生したらVの世界に」 第3話:視聴者数0人
「……おかしい」
俺はアルトをプレイしながら呟く。
画面にはバトルロワイアル1位のリザルト画面が映っている。
一方で俺のチャンネルの画面を見つめる。
視聴者数0。
「なんで!?」
俺はうめき声をあげ、何度も画面を見つめるが数字は変わらない。
もう2時間はプレイしている。それにも関わらず視聴者が0ってどういうこと!?
普通の配信者よりも巧みなプレイをしている自覚はある。かれこれ5回は1位を取った。
「ちょっとおい!」
俺は大きな声を上げる。返事はない。
「おい! 人工知能っぽいやつ出てこい!」
『レイアさん。お呼びでしょうか』
目の前にディスプレイが表示される。
「なんで視聴者数0なんだよ!」
『私にはわかりかねます』
「なんかバグとかそういうのじゃねえの?」
『エラーは発生しておりません。ちなみに――』
「ちなみに?」
『警告。あと一週間以内にフォロワー数が10人に到達しなかった場合、あなたは消滅します』
「うるさい煽んな」
俺はすぐさまディスプレイを閉じる。俺は煽りに弱いのだ。
フォロワーが10人にいかなければ俺は消滅する。きらりに会うこともできず、存在が消える。それじゃあ、俺が生まれ変わった意味がない。でも……。
視聴者が0の中、そこからさらにフォロワーを10人も増やすってどうすればいいんだよ。
何か良い方法はないか。この人工知能っぽいのは活動についてのアドバイスはしてくれないみたいだ。
こういう時、誰か頼れる人がいれば……。
「そうだ!」
俺は配信を閉じて、検索ウィンドウを開く。
検索欄には『Vライバー事務所』と入力する。
検索すると、多くの事務所が表示されている。一番上には『シャイニング』という事務所がある。
シャイニングとはVライバー事務所の頂点。そして、きらりが所属している事務所だ。
ここに入れば俺の投稿活動を支援してくれるマネージャーがつく。
さらに、名の知れた事務所に所属すれば、それだけで知名度が上がる。何よりも、きらりに近づける。
これしかない。
俺はシャイニングのホームページを散策し、『ライバー応募』のタブをクリックする。どうやら随時募集しているようだ。俺は早速応募ページに必要事項や自己PRを入力する。俺にできるのはゲームだけだ。
でも、アルトというゲームに関してはトップレベルだ。
十分に合格する可能性はある。
希望の光が見えた。
花火が、近づいた。
応募フォームをすべて埋め、送信する。
「さて、どうするか」
また配信を始めてもいいが、さすがに2時間もやって視聴者数が0だと気が滅入る。
「あれ、そうだ。おーい」
『レイアさん。お呼びでしょうか』
「ご飯とかってどこから出るんだ?」
『ご飯は必要ありません』
「え?」
『バーチャルライフの住人は人間とは異なる存在です。食事は不要です』
もとから小食だったから気づかなかったが、どうやら食事という概念がこの世界にはないようだ。
それは助かる。
食事や水分を補給すればその分、排せつをしなくてはらない。それが無いのはゲームをする上ではこの上なく助かる。
「うん? ということは待てよ?」
『はい』
「琴ノ葉きらりはトイレに行かないのか」
『仰る通りです』
「やっぱりアイドルはトイレなんて行かないのか!」
『私は活動についてアドバイスをすることができませんが、今の発言に嫌悪感を示すリスナーもいらっしゃいます。お気を付けください』
「忠告ありがとう。言ってくれなかったら配信で言ってたわ」
人工知能っぽいやつに指摘される俺、情けない……。
気落ちしたところで何をするかと言えば特にすることはない。2時間ほどのゲームでは疲労しないが、誰かが見ているかもしれないというプレッシャーの中でプレイしていたのはさすがに疲れた。
「寝るか」
パソコンの画面を見つめると時刻は24時を過ぎていた。まだまだこれからだが、今日は色々と疲れた。一旦休んで、落ち着こう。
俺はベッドで横になり、ウィーハウスを開く。
適当にスライドしていくとひとつのサムネイルが目についた。
『ふわるん』。
シャイニング所属のVライバーだ。
ピンクの髪は浮かんでいるかのように緩やかで、瞳も大きなピンク。
白いワンピースを着ており、背中には翼が生えている。天使のような風貌をしている。
この人も、俺と同じ世界の住人なのだろうか。
おれはきらり以外の動画を観ない。でも、このふわるんというライバーは見かけたことがある。時々、きらりとコラボ配信をしているのだ。
こんな夜中に配信しているのか。
ライバーは毎日決まった時間に配信していることが多い。突発的に配信を始めるライバーもいるが、定時配信をした方がいつもの視聴者が来やすいのだ。
おそらくこの24時という時間に配信をしているのには理由がある。
きらりの配信がだいたい24時に終わる。そこからふわるんの配信を始めることによってきらりの視聴者をそのまま自分の配信に流れさせようとしている。
事実、ふわるんの視聴者には俺が見たことのある視聴者のコメントがある。
今ふわるんはホラー配信をしているようだ。いつもふわふわとした口調や雰囲気があるふわるんが絶叫している姿を見て面白がっている視聴者がいる。
俺も事務所に所属できれば、こうして同じ事務所で推している視聴者を獲得できるかもしれない。
同接人数、現在の視聴者数は300人。ふわるんのフォロワー数が8万人。時間帯も考えれば妥当な数字だろう。
俺はふわるんにも、ホラー配信にも興味がないからそのままウィンドウを閉じる。
そこで目の前にディスプレイが現れた。
『レイアさん。シャイニングの事務所から返信が来ました。ご確認ください』
「はや。もう来たのか」
ここまで早いということは自動返信機能だろうか。だとしたら期待はできない。不合格でお祈りされたのだろう。
さて、シャイニングに落ちたとしたらどうするかと考えながら俺はパソコンに向かってメールを開く。
俺は目を見開いた。
メールに書かれた文章はこうだ。
『一次選考を通過致しました。二次選考の面接に進めさせていただければと思います。ご希望の日程をフォームに入力お願い致します』
「まじか!」
まさか本当に選考が通るとは思っていなかった。たしかにゲームスキルには自信があるが、フォロワー数が0の俺にトップ事務所が相手してくれるとは。
俺はメールのURLを開いて、面接の日程を確認する。
「明日の朝からもあるのか……」
それほどシャイニングは人手不足なのだろうか。それとも、俺に期待をしてくれてすぐに面接日時を設定してくれているのだろうか。鼓動が早くなり、テンションが上がる。
そこで初めて俺は自分がVライバーだという実感を覚えた。
引きこもりだった時はまさか自分が配信者になるとは思わなかった。誰かを楽しませる人間だとは思わなかった。しかしこうして、俺は配信者として活動を始めてゆく。ライバーとして認められている。そう実感した。
俺は早速、朝の10時に面接予約をしてフォームを送信した。
大きく息をつき、天井を見上げる。
配信をする上でカメラが俺を認識するよう電気を点けたが、普段、部屋の電気なんて点けないからすごく眩しく感じられる。
早まる鼓動は落ち着かない。寝られる気がしない。
俺はゲームを起動し、アルトをプレイし始めた。
俺が人気配信者になるにはもっと上手くなる他はない。
上手くなって、みんなに認められて、いつかきらりに会う。
そうしたら――
俺の心はこの天井のように明るくなるかもしれない。
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