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「ろりーたふぁんたじー」 第7話:石が一番強いもん!

「今日はあっち向いてホイをしたいと思います!」

 教室に生徒6人全員が集まり、挨拶と点呼をとった後、先生はいきなりそう言った。

「あっちむいてほい?」

 私は聞きなれない言葉に首をかしげる。

「サティちゃんあっち向いてホイ知らないの?」

 隣に座るヒイラが不思議そうにこちらを見ている。

「人類にとっては有名なものなの?」
「うん、みんな知ってるし、やったことのある遊びだよ」
「遊びなんだ」
「そう、お遊びです!」

 先生は笑顔で言う。

「……先生、学校は勉強する場所なんじゃ」
「お遊びをしながらお勉強をするんです」
「なるほど」

 顎に手をやる。

 たしかに幼い子たちにとって遊びを混ぜることによって勉強に意欲を増すという作戦はいいかもしれない。

 いやでも、私たちもそこまで幼くないんだけどな……。

「で、どうやってやんだ!」

 カエンが楽しそうに立ち上がり言う。

「まずはじゃんけんから始めます」
「じゃんけん?」

 再び私は首をかしげる。

「ええ。魔界では聞きなれない言葉ですよね。じゃんけんというのは、手を石、ハサミ、紙に見立てて勝負するゲームです。石はハサミに強い。ハサミは紙に強い。紙は石に強いという風にそれぞれ強い弱いがあります」
「先生」

 私は手を上げる。

「なんですかサティさん?」

「石が一番強いと思います」

 石をハサミで切れない。だから石はハサミに強い。これはわかる。

 でもどうして紙が石より強いのだろうか。紙なんてもの、石が貫いてしまうではないか。

「紙は石を包むことができます」
「はい」
「だから紙は石に強いんです」
「はあ」
「そういうわけなんです」
「そういうわけなんですか」

 よくわからないけど、そういうことらしい。そういうことなら仕方がない。
 そこからじゃんけんの説明を先生がしてくれた。
 石をグー、ハサミをチョキ、紙をパーというらしい。
 そしてグーは拳、チョキは人差し指と中指を立てる、パーは手のひらを表し、それらを相手と同時に出し、ランダムで勝敗を決めるという遊びだそうだ。

「確率の勉強ですね」
「よくわかりましたねサティさん。では、相手に勝つ確率はどれくらいでしょうか? 勝てるでしょうか~、負けるでしょうか~?」

 先生は両手をグーチョキパーの形をさせ、体を横に揺らす。

「絶対に勝つ!」

 カエンが立ち上がる。

「あなたバカじゃないの?」

 フウラがカエンの言葉を聞いて言う。

「なんだと! 間違ってるってのか!?」
「勝つのは当たり前よ。言うまでもない」
「たしかに!」

 おそらくふたりとも的を射たことを言っていない。

「じゃんけんぽん」
「ぽん」

 サンネとリンコは実際にじゃんけんをして確かめているみたいだ。
 私は隣に座るヒイラを見る。

「ヒイラはわかる?」
「かくりつ? わかんない!」
「人類では当たり前の遊びなんじゃないの……?」
「うーんでも、どれが一番強いかってわかんないんだよね」

「うん。一番強いものはないよ」

「え!? サティちゃんどうしてわかるの!」
「どれも同じ強さなんだよ。私としては一番、石が強いと思うけどそうじゃないみたい。だとしたら確率は3分の1。約33%」
「うん? つまりどういうこと?」

「つまり、3回やって1回ぐらいしか勝てないんだよ」

「そんなに勝てないものなの!?」
「サンネ、リンコ、実際にやってみてどう?」

 私はじゃんけんをしているふたりに問いかける。

「勝ったり負けたり一緒だったりするけど、だいたいそれぐらいかなぁ」
 サンネは首をかしげて言う。

「へぇ、じゃんけんってそんなに勝つの難しいものなんだ」

 隣でヒイラが感心している。

「意外とそうなんです。そしてさらにそこから追加したゲームがあっち向いてホイです」

 先生はあっち向いてホイの説明をする。じゃんけんで勝った人が指を上下左右に動かす。
 そして負けた方は顔を上下左右に動かす。そうして顔が向いた方に指を指せれば勝利というものらしい。

「確率の計算が難しくなりますね」
「ええ」
「サティちゃん、あっち向いてホイのかくりつ? はどれくらいなの?」

「じゃんけんよりも勝率が低いよ。4分の1。つまり25%。4回に1回勝てるかどうかだよ。しかもじゃんけんと合わせると12分の1。約8%。すごい低い確率だよ。10回やって1回勝てるかどうかってぐらいだ」
「そんなに!? なんか一瞬で勝ったり負けたりするイメージがあるけど……」
「あっち向いてホイ」
「ほい」

 サンネとリンコが実際にあっち向いてホイをしている。

「サティさんの計算の場合、すべて1回で決まる確率ですからね。あいこという引き分けを入れるともっと確率が変わってくるんです」
「なるほど……興味深いですね」

 こんな確率を計算させるなんて人類はやっぱり頭が良いんだなあ。

「それでは! 実際にやってみましょう!」

 先生は手を合わせて笑顔で言う。

「じゃあヒイラ、やってみようか」
「うん!」
「じゃんけんぽん」
「ぽん」

 私はグー。ヒイラはパー。私の負けだ。
 でもここからだ。

 ヒイラが人差し指を立てる。

「あっち向いてホイ」
「ほい」

 私は右を向く。ちらと横目で見るとヒイラの指は私が向いた方に指されていた。

「あ、私の勝ち!」

 ……私の、負け?

「ふぅ、やっぱりヒイラは強いね。さすが人間」
「? 人間とかってかくりつに関係あるの?」

 ヒイラは首をかしげている。

「やっぱり慣れてる方が強いものでしょ」
「そういうものかな?」
「そういうものなんだよ」

 じゃなきゃ8%の確率で私が負けるわけがない。
 私が負けるわけないんだ。

「よし、それじゃあカエンやろうか」

 私は席から立ち上がり、カエンに近づく。

「おう! いいぞ! 絶対勝つぞ!」

 カエンはやる気に満ち溢れ席から立ち上がる。

「じゃんけんぽん!」
「ぽん」

 私はグー。カエンはパー。

「あっち向いてホイ!」
「んっ」

 私は右を向く。カエンも右を指さす。

「よっしゃ! 勝ったぜ!」
「……おかしいな」

 確率は8パーセント。しかも今回は慣れているヒイラが相手じゃない。それなのに私が負けた。何かがおかしい。

「フウラ! サンネ! リンコ! 勝負だよ!」

 それから私は3人とあっち向いてホイをし、3人全員に負けた。

「……こんなこと、あり得ない」

 私は跪く。

「サティちゃん大丈夫?」

 跪く私のそばにヒイラが来る。

「お、おかしい! 私が負けるわけないもん!」

 もしかして魔王族は勝てない仕組みになっているのではないか。確率といいつつ、何か裏があるのではないだろうか。

 いやきっとそうだ! これだから人間は信じられない!

「それではサティさん。私と勝負をしましょう」

 先生が言う。

「……ズルはしてませんよね?」
「そんなことしませんよ」

 先生は笑顔で言う。

「そ、それじゃあ」

 私は拳を構える。

「はい。じゃんけんぽん」

 私はグー。先生はチョキだ。

「やった! 勝った!」

 今までなぜか一番強いと思っているグーを出しても勝てなかったが、やっと勝てた。

「サティさん、あっち向いてホイはここからですよ」
「あ、そうでした。あ、あっち向いてホイ!」

 私は右に指を指す。先生は右を向いている。
 私の勝ちだ。

「やった! 勝ったよ! ヒイラ!」
「よかったねサティちゃん」

 ヒイラが優しい笑みを浮かべる。

「負けちゃいました」
「ふふんっ、私が負けることがおかしかったんです。気にする必要ないですよ先生」
「ありがとうございます。サティさん、ここでアドバイスです」
「アドバイス?」

 私は首をかしげる。

 どうして負けた先生にアドバイスされなくちゃならないのだろうか。

「ええ。じゃんけんはグー以外も出さないと勝てません。あと、右ばかり向いていたら簡単にばれちゃいます」

「……なん、だって?」

 私は再び跪く。

「あっち向いてホイは戦略も必要なんです」
「これは戦略の勉強だったんだ……!」
「サティはグーと右しかないから勝つのが簡単だったよぉ」
「え、ええ。そうですね」
 サンネとリンコが言う。

「だってグーが一番強いもん!」

「サティちゃん、自分でかくりつの話してたよね?」

 ヒイラが苦笑している。

「くっ、これだから人類は信用できない」
「なにかとてつもなく的外れな怒りが湧いている気がするよ?」
「よいしょ、それではみなさん席に着いてください」

 先生の言葉をみなが聞き、各々席に座る。
 跪いている私は先生に持ち上げられ、席に座らせられる。

 その後先生は色々と話していたが、私はひたすら右手と左手でじゃんけんの練習をしていた。

 じゃんけんもあっち向いてホイも練習すれば勝てるようになるはずだ。帰ったらお母様とお父様にも教えて、練習しよう。


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