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「ろりーたふぁんたじー」 第16話:海!
「海です!」
先生が声を張り上げる。
先生も水着だった。白い上下に分かれた水着を着ている。普段は服を着ていてわからなかったが、先生の発育も相当なものだった。
……よかった、白の水着にしなくて。
先生は海を眺める。それに合わせて私たちも海を眺める。
一面肌色の砂浜でできた地面の先には青い澄んだ景色がどこまでも広がっており、境界線は海よりも濃い青が広がる空しかない。
島ひとつさえ見えない壮大な場所だ。
「うはー! 海だぜ!」
カエンは赤い水着を着て、すでに海へと向かって走りはしゃいでいる。
「まったく、カエンはすぐにはしゃいで」
そういうフウラは青の水着を着ており、カエンの後を笑顔で追って走る。
「どこまでも広がっています!」
リンコは緑の水着を着ている。観察するとやはり胸の発育がいい。自分とは何が違うのだろうか。私は自分の胸に触れる。
そうしている間にリンコも海へと行ってしまった。
「サティちゃん! 行こっ!」
黄色の水着を着ているヒイラは私に目を輝かせて言う。
「私はしばらくここにいるよ」
「そう? それじゃあ先行ってるね!」
ヒイラはそう言って、先生とともに海へと向かっていった。
みんな楽しそうに海へと入っている。冷たいと言いながらも水をかけ合っている。
あれ、そういえば。
私は辺りを見渡す。すると私の後ろで茶色の水着を着ているサンネがぼーっとみんなを眺めていた。
「サンネは行かないの?」
「うぅん、海はちょっと苦手なんだぁ」
「そうなんだ」
山の地に住むサンネはあまり水に慣れていないのかもしれない。お風呂ぐらいだったら大丈夫みたいだったが、ここまで全面海というのはたしかに迫力があって怖いかもしれない。
「サティは行かないの?」
「私は泳げないから」
魔王城の近くに泳ぐ場所はなかった。お父様もお母様も魔術で泳ぐ必要がないし、私も魔術を使えば任意の場所にテレポーテーションできるから泳ぎの特訓をしていなかったのだ。
「されじゃあ、サンネと同じだねぇ」
「うん」
仲間がいて嬉しいのかサンネは落ち着いたような、ほっとしたように微笑む。
「ねえ、サンネ」
「……(ぐぅ)」
「もう寝てる!?」
さきほどまで私の後ろで立っていたサンネはいつの間にか横になり、寝息を立てていた。
寝ているサンネの横に座る。
私はサンネの耳に触れる。折りたたもうとすると耳がはねて面白い。
「ぴょん、ぴょん、ふふっ。うん?」
サンネの耳で遊んでいるとふとサンネの手首に目が行った。普段、服を着ていてわからなかったが、ブレスレットを付けているみたいだ。
ブレスレットは色とりどりの小さな宝石が付いており、とてもきれいでかわいらしい。
「……うぅん?」
サンネの手首に付いているブレスレットに触れているとサンネが目を覚ました。
「あ、ごめん」
「なにがぁ?」
「いや、ブレスレット勝手に触っちゃった」
「ああ、これねぇ。きれいでしょぉ?」
「うん」
サンネにブレスレットを見せられている中、私は再びサンネの耳をぴょんぴょんと触れる。
「くすぐったいよぉ」
「あ、ごめん。つい」
私はサンネの耳から手を離す。するとサンネが手に付いている砂を払い、私の頭を撫でてきた。
「おかえしぃ。どぉ? くすぐったい?」
「くすぐったいというよりは、恥ずかしいよ……」
頭を撫でられるのは嫌じゃない。むしろ好きだ。
上目遣いで撫でてくる手首を見つめる。やっぱりきれいなブレスレットだ。
「このブレスレットすごく高価そう」
「これはねぇ、タダだよぉ」
「え!? そうなの!?」
「自分で作ったんだぁ。この石たちもおうちでサンネが採ったものなんだよぉ」
「すごいね。これ全部?」
山の地は鉱石が採れることで有名だ。それにしてもこんなキラキラして色とりどりの鉱石が採れるなんて羨ましい。
「うぅん、小さい頃から集めてやっと作れたものなんだぁ」
「それじゃあ、すごく大切なものだね」
「うん! サティは何か宝物はある?」
なんだろう。部屋にあるぬいぐるみは大切だけど、宝物というのとは少し違う気がする。
「私は、みんなかな」
「みんな?」
サンネが首をかしげる。
「うん、学校のみんな。友だちのみんな」
「それはサンネの宝物と一緒だぁ。サティは、サンネの宝物ぉ」
「……ん」
ふにゃりとサンネは笑顔を見せる。自分でみんなが宝物だと言うのも少し恥ずかしいけど、サンネに宝物だと言われるのはもっと恥ずかしく、目を逸らしてしまった。
「ねえ、サンネ」
「……(ぐぅ)」
「今のタイミングで寝る!?」
私は再びサンネの耳をぴょんぴょんとはねらせるとサンネは寝ぼけ眼をこすり、目覚めた。
「……うぅん? どうしたのサティ?」
「暇だし、一緒に遊んでくれない?」
「遊ぶ? でも何して遊ぶの? サンネ、海に入れないよ」
「私も同じ。だからさ、一緒に山を作ろうよ」
「食べられるのぉ?」
「食べられないよ。砂浜の砂で山を作るんだ」
「面白そう! 山ならわかるよぉ。サンネ、サンネが住んでる山作るね」
「いいね。見せてよ」
「うん!」
サンネは砂をかき集め、山を作っていく。ひとつの大きな山があり、その近くに小さな山を隣にくっつけている。
「かんせー」
「早いね」
「ホントはね、もっといっぱい山があるんだけどね、サンネのお家はこれだけなの」
「この山ふたつがサンネのお家なの?」
実際はどれぐらいの大きさなのかわからないが、山ひとつふたつがサンネの家だとするとかなり大きい。魔王城よりも大きいかもしれない。
「そうだよぉ。おっきいんだぁ。頂上にはすっごくきれいな景色が見えてね、前にカエンに連れてってもらったところよりもすっごく迫力があるんだよぉ」
「へえ、それは興味深いね。私もいつか登ってみたいな」
山頂の綺麗な景色が見えるというのはなかなか乙なものかもしれない。
「今度、サンネのお家に遊びに来なよぉ。歓迎するよぉ」
サンネは笑顔で言う。
「いいの?」
「うん! リンコのお家にも言って、カエンのお家にも行った。だから今度は、サンネのお家!」
サンネのお家にみんなで行ったらきっと楽しいだろう。
「せっかくならみんなで一緒に行きたいな」
「みんな一緒で来てよぉ。ふぅ、それじゃあ一仕事終えたことだし寝よっかぁ。あ、でもサティは海行かなくていいの?」
「私も今は寝たい気分かな。こんな良い天気のもとで寝るのも気持ちよさそうだしね」
「そうだねぇ、それじゃあ一緒に寝よぉ」
「うん」
砂浜でふたり、横になる。
「あったかいねぇ」
「そうだね。ふぁ、すぐに眠れそう」
私はついあくびが漏れる。
「ねえ、サティ」
「うん? どうしたの?」
隣を見ると、顔のすぐ近くにサンネがいる。
「サンネを埋めて?」
「え!? 急にどうしたの!?」
私はサンネの突然の申し出に驚き、起き上がる。
「砂浜あったかいから、被ったらもっとあったかいなかなぁと思って」
「ああ、そういうこと」
急に埋めてと言われ、気が動転してしまったが、なるほど、そういうことか。
サンネは仰向けになり、私は砂浜の砂をサンネにかけてゆく。
「もう、あったかぁい」
「うんしょ、うんしょ」
砂をかき集め、なんとかサンネの体を砂で埋めることができた。
「あつぅい」
顔だけで出ているサンネが笑いながら言う。
「そりゃそうだよ」
あたたかい日差しがある中、それに照らされた砂で体を覆うんだ。暑いに決まっている。
「サティもやってみなよぉ!」
サンネは嬉しそうに立ち上がる。砂布団は崩壊された。
「ああ! せっかく作ったのに!」
いくら砂とはいえ砂に覆われた状態をよく一瞬で抜け出せたものだ。さすがは獣人。いとも簡単に砂布団を破壊した。
……私が頑張って作った砂布団。
「ほらぁ、サティ、横になって」
「う、うん」
私は不安のまま仰向けになる。サンネのことだ。私の体全体を埋めかねないか心配だ。
「よいしょ、よいしょ」
しかし心配することなくサンネは真面目にやっている。
サンネは砂をかき集め、さっき私が作ったような砂布団を作ってくれた。
「かんせー。どうサティ?」
「たしかに暑いね。それに、ん、力を入れないと出られない」
体を動かそうにも動かない。力を入れてしまえば砂布団が壊れてしまいそうだ。
「ねえサティ! サンネ、もういっかいやりたい!」
砂布団で寝る私の横でサンネが仰向けになる。
「……この状態じゃ砂集められないよ」
「えぇ~、あのサティが何人も出てくるやつでできないの?」
「ああ、どうだろう」
「ねぇ、やってみてよぉ」
体が拘束された状態で分身を出したことがない。やってみよう。
私は魔術を展開させる。
「ダークシャドウ」
私は分身を出す。すると私の隣に私と同じく砂布団を被った分身が出てきた。
「わぁ、すごぉい! おもしろぉい! ねえねえサティ! もういっかいやってぇ」
「えぇ、何度やっても同じだよ」
「何個もみたい!」
サンネは目を輝かせている。
「うーん、ダークシャドウ」
私が魔術を展開させるとさきほどと同様に、今度は分身の隣に砂布団に埋まった私の分身ができた。
「あはぁ、すごぉい!」
何が面白いのかサンネははしゃいでいる。
私は隣を見る。暑そうに砂布団に入っている私がふたりいる。
とても奇妙な光景だ。
私は分身を解く。
「あぁ、サティが……」
サンネがうなだれる。頭の上の耳も垂れる。
「ふたりで入る良い方法を考えたよ」
「えぇ? なになにぃ?」
「よいしょ」
私は力を入れ、砂布団から起き上がる。
「サンネ、砂浜をいっぱい掘れる?」
「うん、できるよぉ」
サンネはそう言い、砂浜を掘る。そうして私たちふたりが入れるほどの空間を作る。
「この中に入ろう」
「うん!」
ふたりが入れる空間に入り、ふたりで正座する。
「ダークシャドウ」
今度は分身ではなく、影の手を出す。そして、その手で私たちを砂で埋めてゆく。
完成した。
「ねえ、サティ」
「うん? なに?」
「サンネ思うんだぁ。これは少し違う気がする」
「え、そうかな?」
私たちふたりは砂浜に体を埋め、頭だけが出ている状態になった。
さきほどまでの砂布団と何が違うだろうか。
「サンネたち、何してるんだろうね」
「そうだね」
私たちふたりは砂浜から顔を出し、海で遊ぶみんなを眺めていた。
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