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「赤い糸を盗る」 第20話:役目

 9月7日。

 虎太郎、狐人、芽衣、竜美がショッピングモールで遊びに行った翌日、竜美は学校を休んだ。

「銀杏さん、どうしたんだろう。具合悪くなっちゃったのか?」
「あんま調子悪いって感じじゃなかったけどな。あれじゃねえか? 狐人と本気でバスケやったから調子崩しちまったんじゃねえか?」
「僕のせい? でも気になるね。後でメッセージ送ってみよう」

 昼休み。芽衣、虎太郎、狐人で昼食を摂り、三者とも竜美の安否を気遣っていた。

「わたしも送ろう。もし具合が悪いならお見舞いもしたいし」

 芽衣が心配そうにしながらスマホを開き、メッセージを送る。
 芽衣はメッセージを送ったものの、既読はつかない。

「うーん、スマホも見られない状態なのかな」
「風邪なら寝てんだろ。いつかは返信くる」
「…………」

 狐人はスマホを眺めていた。竜美からメッセージが来ていた。

『放課後、話したいことがあります』
『わかった。僕の家でいいかな。住所送るから』
『いえ、学校に行くわ。校舎裏でいいかしら?』
『うん、わかった』

 狐人はスマホを閉じる。

「もしお見舞いに行くなら大勢で行くのは良くないし、桜さんに任せてもいいかな」
「うん、いいよ。何か渡したいものがあったら言ってね」
「頼むわ。栄養ドリンクとかがいいかね」
「うん、風邪にはゼリーとかもいいかもね」

 狐人以外のふたりは本当に心配していた。

 放課後。狐人は校舎裏に行く。校舎裏にはたくさんの紅葉があり、地面にもオレンジ、茶、黄色の葉が落ちていた。狐人は葉を踏み、歩く。すると、そこには制服姿の竜美がいた。

「やあ」
「………」

 竜美は顔を青くし、俯きがちに立っている。

「どうしたの? 本当に具合悪いの?」
「ごめんなさい!」
「おっと」

 竜美が突然、狐人の胸に体を押し付けてきた。狐人はそれを受け止める。

「……ごめん、なさい」
「どうしたの」

 狐人は竜美の頭に手を置き、優しく問う。

「……ネックレス、なくなった」
「……そう、だったんだ」
「私たちの絆の証なのに……」

 竜美は泣いているようだった。

「きっと、役目を終えたんだよ」
「役目?」

「僕たちを再会させるための役目だよ。僕たちはこうして再会できた。だから、ネックレスにこだわらなくて大丈夫だよ」
「……でも」
「今日は一日中、ネックレスを探してたの?」
「ええ。ショッピングモールと観覧車、全部探したけど見つからなかった……」

「大丈夫だよ。僕はこうしてキミのもとにいる」

「…………ん」

 それでも竜美は泣き止まない。

「また新しい絆の証を用意しよう。それで、新しい僕たちの道を進んで行こうよ」
「……本当に、ごめんなさい」
「いいんだよ。ありがとう、頑張って探してくれて。それだけで僕は十分嬉しいよ」

 狐人は竜美の背中に腕をまわし、強く抱きしめる。竜美もそれに反応し、狐人を抱きしめる。

 そこから竜美が泣き止むまでずっと抱きしめ合っていた。

「…………………」

 ひとりの生徒がその様子を見ていた――。


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