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「転生したらVの世界に」 第8話:謎の空間

 スタジオ撮影を終え、一旦、休憩することにした。
 俺たちは食事を必要とはしないが、疲労は溜まる。

 午前中にヒョウカと俺の自己紹介動画を撮影し、今、代表が編集している。

 俺は自室に戻り、ウィーハウスの研究をしていた。

 パソコンでウィーハウスを開き、シャイニングに所属しているライバーが投稿した動画を観ている。シャイニングのライバーは主に生配信をしているが時々、動画も投稿している。

 『ショート』と言って、1分以内に収められるネタ動画も多数ある。

 何か参考にならないか観ていたが、正直、何が面白くてこんなに再生されているか分からない動画もあった。

 たしかに可愛い声と見た目で話しているが、お笑い要素としては薄いものが多い。

 しかし、そういうものなのかもしれない。ファンは笑いを求めているよりも、ライバーの存在そのものを感じたいのかもしれない。

「難しいな」

 人気がない状態でどうやったら動画が再生されるか。
 代表に聞いたところ、そもそもフォロワー数が低いライバーの配信や動画はウィーハウスに載りづらいらしい。

 代表も、どうしたら人気になるかという正解を知らない。
 ましてや俺に分かる訳がない。

 でも、できることはしたい。
 何かないか。

「……動画編集、してみるか」

 代表が自己紹介動画を今作ってくれているが、これから先ずっと作ってもらう訳にもいかない。自分で動画を編集し、ショート動画を継続的にあげていきたい。

 少し教えてもらおう。
 俺はパソコンの電源を落とし、部屋を出るために扉を開く。

『エラー』

 扉を開けた先は謎の英語が浮かんでいる宇宙空間だった。
 ああ、そうだった。扉の前で行き先を選択しなくちゃならないんだった。

「それにしてもすごいなこれ。どうなってんだ」

 俺は宇宙空間を眺める。
 英語が羅列されており、何一つ読めない。というより、そもそも文章として成り立っているかも分からない。ところどころで数字も書かれている。

 俺は高校1年生までの英語しか知らないし、しかも引きこもってから一切、勉強していない。こんな英語分かる訳がない。

「イフ? エルス? なんだっけ? あ、前に見たHTMLだ。何の略なんだろ」

 俺はポケットに入っているスマホを取り出し、検索欄に『HTML』と入力し、検索する。

 俺は検索結果を見て首を傾げた。

「ウェブページの記述言語? 意味分からん」

 俺は他にも浮いている文字を入力し検索してみた。

「条件分岐?」

 イフという文字はたしか、『もしも~なら』みたいな意味だった気がする。
 しかし、どうやら普通の英語とは違う使われ方をしているみたいだ。

 よく調べてゆくと、俺が見ている英語の羅列はプログラミング言語というものらしい。

 プログラミング言語というと、俺の中ではゲームとかを組み立てる仕組み、みたいなイメージだ。

「どうしてゲームで使われている仕組みが浮かんでるんだ?」

 それに、HTMLというのはホームページとかを作る際に使われる言語らしい。

 ホームページ。ゲーム。

「何か活動で活かせないかな」

 このプログラミング言語を学べば自分のホームページを作ったり、自分でゲームを作ることができるんじゃないか。

 なんかすげえ、かっこいい。
 動画編集の技術も欲しいけど、プログラミング言語も勉強してみたい。

 プログラミング言語に書かれた文章で色々と検索してみる。

 どうやらプログラミング言語にも違いがあるみたいだ。使用用途によって言語を使い分け、最適なプログラミングをすると作動するらしい。

 ホームページやゲームもプログラミングで作られているなら、ウィーハウスも同じじゃないだろうか。

 俺は『ウィーハウス プログラミング言語』と入力し検索する。

 結果としては、ウィーハウスで使われているプログラミング言語は『サファイア』というらしい。用途としては自動処理機能、AIを組み込ませることができるようだ。

 たぶん、ウィーハウスで出てくるおすすめ動画とかが勝手に流れてくる仕組みがそうなのだろう。

 自分がよく観ている動画、俺なら、きらりの動画がそうだ。きらりの配信をよく観るから、きらりに関する動画が勝手におすすめに出てくる。

「これは、利用できるんじゃないか?」

 俺がサファイアというプログラミング言語を学び、ウィーハウスの仕組みを知れば、それを利用して俺の動画をリスナーのおすすめ欄に出すことができるんじゃないか?

 なんだかズルをしているみたいだが、こっちは人生が懸ってる。手段は選んでいられない。

 俺は扉を閉め、パソコンを起動する。

 サファイアを学ぶ上ではまず、プログラミング言語の初歩、HTMLとCSSというものを習得する必要があるみたいだ。

「やるしかないよな」

 こう見えて勉強はできる。というか、せざるを得なかったから今まで勉強してきた。

 何分、天は頭が良かった。小学校は地元の公立校にいたが、中学校は私立の学校に受験した。

 離れたくない一心で俺も勉強して同じ中学に入った。

 中高一貫校だったのだが、天はさらに高みを目指すために、地元で一番偏差値の高い高校の進学を希望した。

 当然、俺も同じ高校に進学するために必死になって勉強した。その成果もあって俺たちは地元で一番の高校に入学することができた。

 そのまま高校生活を共にし、良い大学に入って、良い企業に就職して、結婚する。その流れが見えていた。

 天はきっと、俺の未来が広がるようにするために一緒に頑張っていたのかもしれない。

 俺が良い大学に行けば、就職先も広がる。
 俺がやりたいと思えるような仕事に就ける。そう考えたのではないだろうか。

 でも、天には悪いが俺にとってそんなことどうでも良かった。

 べつにどんな学校に行こうが、どんな会社に行こうが、俺はずっと天と一緒にいられればそれだけで良かったんだ。

 勉強なんてできなくてもいい。年収だって低くてもいい。

 ただ天と一生、一緒にいる。
 でも、それは叶わなかった。
 天がいなくなった俺は一切、勉強しなくなった。

 そんな自分が情けないと思っていた。結局、俺は天がいないと何も努力することができないのだと実感した。それでもべつにいいやって自分を諦めていた。

 でも、今は違う。
 きらりと会いたいというのが最初の俺の願望だった。
 それがさっきのことで、少し変わった。

 きらりに会いたいのは変わらないが、俺にとってVライバー活動は、天に向けたメッセージになった。

 天が今まで俺に築いてきてくれたものを形にして、思いを動画にして載せる。

 天のためだったら何でもする。

 たとえそれが良しとされたことじゃなかったとしても、どんな手段を使ってでも、俺は認められ、成功してみせる。

 俺は再度決意し、パソコンの画面を見つめる。

 プログラミング言語? そんなの俺にかかれば大したことない。

 見てろよ世界。
 天が信じる俺は――最強だ。


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