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「転生したらVの世界に」 第6話:始動
翌日。昨日来たビルの13階に位置するスターリースカイの事務所の一室。
そこには代表と俺、ヒョウカともうひとり、茶髪マッシュの青年の4人が集まっていた。
「ミーティングの前に、自己紹介をしましょうか」
代表が口を開く。
「まずはサイトウちゃんから」
茶髪マッシュの青年が立ち上がる。
「スターリースカイ所属、サイトウって言います。配信では主に雑談をしてます。ふたりとも、これからよろしく」
爽やかな笑顔を俺たちに向ける青年は『サイトウ』という先輩らしい。
サイトウ先輩が着席した後、俺が立ち上がる。
「レイアって言います。ゲームが得意です。活動は主にゲーム実況をやっていきたいと思ってます。よろしくお願いします」
俺が自己紹介をし、着席した後、ヒョウカが勢いよく立ち上がる。
「あ! えと、その……なんだっけ」
緊張でガチガチなヒョウカに俺は声を掛ける。
「名前と、好きなこと言えばいいんだよ」
俺のアドバイスを受けて、ヒョウカは頷く。
「な、名前はヒョウカです。得意なことは……特にありません」
ヒョウカは気落ちし、俯いてしまう。
「ヒョウカちゃん。落ち込む必要ないわ。アンタには応援したくなるカリスマ性を持ってる。自信を持ちなさい」
「あ、ありがとうございます」
ヒョウカは先ほどよりも表情を明るくし、頭を下げ、着席する。
そして、代表が口を開く。
「このスターリースカイはたった3人の弱小事務所よ。でも、ここから這い上がり、シャイニングに所属になったライバーもいる。レイアちゃん、ヒョウカちゃん、気合い入れていきなさい」
俺とヒョウカが頷く。
たった3人の事務所。本当に弱小だ。でも、人気になればシャイニングに所属できるということを今知った。頑張れば、きらりのもとへと行ける。
決意をして、前を向く。
「とにかく、この事務所を盛り上げていくのには、みんなの協力が必要不可欠だわ。個人の活動はもちろん、事務所イベントやコラボも積極的に行っていくわよ」
「え、でも……」
代表が意見を言う中、ヒョウカが口を挟む。
「なに? ヒョウカちゃん」
「私の枠にはガチ恋勢が来るから……」
大きなため息が漏れる。
「そんなの有名になってから考えろ。今は事務所の力を借りて、少しでも多くの人に見てもらうのが先決だろ」
「レイアちゃんの言う通りだわ。ヒョウカちゃん。アンタの意見も的を射てる。アンタにはきっとガチ恋勢が現れるわ。その時に異性のライバーとコラボするのは得策じゃない。アンタの性質から見てもそれは明らかだわ。対戦ゲームが得意だったり、ネタ系のライバーだったら異性のライバーと絡んでもいい。でも、ヒョウカちゃんは違う。アンタは自分の空間を作って、そこに男どもを引き込む。それが手っ取り早い方法よ。でも、今はその段階じゃない。コラボは必須よ」
代表が捲し立てる。異論の余地を一切許さない主張に俺たちは食い入る。
「そこで、サイトウちゃんの出番よ」
サイトウ先輩は俺たちに顔を向ける。
「僕のフォロワー数はまだ1000人だけど、配信では安定して20人ぐらい来る。まずはそのリスナーさんに君たちのことを知ってもらうのがいいんじゃないかな」
サイトウ先輩は朗らかにそんなことを言う。
「でもいいんすか先輩。なんか、先輩のリスナーを奪うみたいな感じになりませんか?」
「僕たちは仲間だからいいんだよ。それに、僕にもメリットがある。ゲームもしたいし、男性リスナーも増やしたい。ウィンウィンなんだよ」
俺にはゲームという個性がある。ヒョウカは見た目と声が良いという個性がある。
サイトウ先輩が獲得できていないリスナーを手に入れる機会になるかもしれない。
サイトウ先輩を利用することに引け目は感じるが、本人が良いというならその厚意に甘える他ない。
サイトウ先輩や俺の考えていることは当然、代表も考えているようで話を続ける。
「アタシも長らくライバーの裏方させてもらってるけど、どうしたら人気が出るかなんてアタシにも分からない。とにかく、がむしゃらにベストだと思うことをやっていくのよ」
俺たちはその言葉を聞き、頷く。
「そこで、今日はどんなコラボをしてゆくかを話し合いましょう」
代表が言い、俺は腕を組む。
俺は後6日でフォロワーが10人に到達しなければ消滅する。それまでに何らかの手を打たなければならない。サイトウ先輩の平均同接数が20人ならば、そこから10人引っ張ってくるしかないだろう。
しかし、そんな簡単に行かないことはわかる。
俺は気になったことをサイトウ先輩に聞いてみることにした。
「サイトウ先輩の枠はやっぱり女性リスナーが多いんですか?」
俺の質問を受けて、サイトウ先輩は頷く。
「うん、そうだね。まあ、ウィーハウスは性別を任意で選べるから本当にリスナーが女性かは分からないけど、コメントの感じを見ると、ほとんど女性だと思うよ」
「なるほど」
自慢じゃないが俺は顔が良い。上手くいけばリスナーが流れてくるかもしれない。
しかし、懸念することがある……。
俺がヒョウカに目を向けると、案の定、震えていた。
「先輩のガチ恋勢……。私、刺される」
「刺されねえよ」
刺されはしないが、良い気がしないリスナーもいるだろう。それは事実だ。
俺も自分の人生が懸っている。でも、それはヒョウカも同じだ。せっかく事務所に入れたのに、嫌な思いをさせる訳にはいかない。
「女の子同士の熱い恋愛。アタシは好きよ」
代表が的外れなことを言っているが無視していいだろう。
苦笑いするサイトウ先輩。
「まあ、たしかにヒョウカさんを良く思わないリスナーもいるかもしれない。でも、それはやり方次第だと思うんだ」
「何か良いやり方があるんすか?」
「ヒョウカさんは僕の下僕になればいい」
……何言ってんだこの人。
「冗談は代表だけにしてください」
「アタシの悪口? たまんないわね。もっとちょうだい」
無視。
「説明を省き過ぎたね。簡単に言うと、僕が悪者になればいいんだよ」
「と言うと?」
「僕がヒョウカさんを罵倒する。そう、まるでシンデレラをいじめる悪女のようにね」
「いや、そんなことしたらサイトウ先輩が炎上するでしょ」
サイトウ先輩は人差し指を振る。
「僕のリスナーは、僕に罵倒されることを喜んでいる」
ライバーって大変なんだな。俺はそう思いました。
「ヒョウカちゃんのシンデレラストーリーは面白いわ」
サイトウ先輩の提案に代表も賛成する。
「そうなると最初はやっぱりネタ系の動画ね。レイアちゃんもヒョウカちゃんも最初は自己紹介動画をあげて、その後、コラボ。ふたりはサイトウちゃんの下僕として登場。台本はアタシが考えるわ。寸劇みたいなものにしましょう。いきなり生配信でアドリブはしんどいでしょうから」
「代表がそこまでしてくれるんすか? なんか申し訳ないっす」
代表は笑みを見せる。
「アタシは、アンタたちが人気になるためには何だってするのよ」
「代表……」
やっぱりこの人はすごい。この人にならついて行きたいと思わせられる。
「それに、サイトウちゃんに罵倒されるふたりも見たいのよ! アタシも疑似的に罵倒されたい!」
一気に尊敬の感情が失われた。本当に大丈夫かこの事務所。
俺がしっかりしないといけないと思った。
「とにかく、そういうことならまずは自己紹介動画からっすよね」
「そう思って、すでにカメラと台本は用意してあるわ」
代表はビジネスバッグから2枚の紙を取り出した。
「スタジオは隣にあるから、台本に目を通したら行きましょ」
俺とヒョウカは代表から台本を受け取り、目を通す。
内容はしっかりとしたものだった。安心。
俺とヒョウカが一通り台本を確認したところ、スタジオへと移動した。
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