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「ろりーたふぁんたじー」 第22話:ママ会

「ただいま~!」
「戻りました」

 お祭りが終わり、私とヒイラはヒイラの家に戻ってきた。
 家のリビングではお母様とレイラが楽しそうに話していた。

「おかえりふたりとも! お祭りは楽しかった?」
「楽しかった! またサティちゃんと行く!」

 ヒイラがレイラに抱き着き、レイラがヒイラの頭を撫でている。

「サティも楽しかった?」

 お母様が私に問う。

「はい。新鮮なものばかりで勉強になり、良い体験になりました」
「サティらしい答えね。純粋に楽しめたのかを聞いているのよ」

 お母様は微笑む。

「……ヒイラと一緒に色々まわれたのは、楽しかったです。たぶん、ひとりで行くよりも倍……いえ、10倍楽しかったと思います」

 本当は10倍どころじゃない。きっとひとりで行っても楽しくはなかっただろう。
 それでも楽しめたのは常に天真爛漫なヒイラが私を引っ張ってくれたからだ。

 それにしても、ついさきほどの私の行動を思い返すと恥ずかしくなる。

 ヒイラが他の友だちに撮られるのが嫌で、私はついヒイラを友だちから引き離してしまった。

 なんだか子どもみたいだ。私はもう立派な大人だ。

 そんな私があんなことをするなんて自分でも思わなかった。

 それぐらい、ヒイラは私にとってなくてはならない存在なのだ。きっと相手が人間じゃなくても同じような行動をしてしまっただろう。

 ……でも、ヒイラや、ヒイラの友だちには悪いことをしたな。

 もし今度会う機会があったら、ちゃんと謝ろう。いやいつか、ちゃんとヒイラに紹介してもらうんだ。そうして私はヒイラ以外の人間とも上手くやっていくんだ。

 でも今はヒイラだけでいい。ヒイラがいい。

「よかったわ。よりヒイラさんと仲良くなれたようね」

 お母様は私がしたことを見ていないが、まるで見てきたかのように言う。

「やっぱり遺伝かな! 私やサリィ、夫とサタンの仲が良いように、サティちゃんもヒイラも仲が良いわよね! あ、ほらふたとも座って」

 レイラが言う。私とヒイラは4人掛けの机のもとにある椅子にヒイラを対面にして座る。

「お父様とヒーロさんは仲が良いんですか?」
「そうよ。よくふたりで遊びに行っているわ。私たちにばれないようにこっそりとね」

 ああ、そういえば前にお父様はヒーロと飲み友だと言っていた。今では大魔王も勇者も友だちなんだ。

 そんな世界があるんだ。

 それが今の世の中なのか。なんだか不思議な感覚だ。でも、私とヒイラの仲が良いのを考えたらそこまで不自然なことではないのかもしれない。

「でもどうしてこっそりと遊んでいるんですか? 堂々と休みの日に遊びに行けばいいのに」
「ふたりとも仕事をサボりがちだからね~」

 レイラが苦笑しながら机に頬杖を付く。

「やろうと思えばすぐに終わる仕事もダラダラとやって適当だからいつまで経っても仕事が終わらないのよね」
「だから途中で仕事を放って遊びに行くんだよね~」

 お父様もヒーロも何をやっているんだか……。

「昔はもっとしっかりした人だったのに……」

 お母様はため息をつき、顎に手を添える。

「あ、お父様の昔のことを知りたいです」
「私も昔のパパを知りたい!」

 私とヒイラが声をそろえて言う。

 お父様に昔のことを聞いても毎回はぐらかされて、全然話してくれない。
 良い機会だ。普段聞けないことも聞けるかもしれない。

「昔はもっとしっかりした人だったわ。常に緊張感を持って配下に威厳を見せ、それでも誰よりも自分に厳しい人だった」

 とてもじゃないが想像がつかない……。たまに事務室を除くときがあるがたいていふざけている。

 前に見た時は大量の書類をどこまで積み上げられるかという遊びをしていた。それをお母様に報告したら一瞬で土下座をしていたが。

「うちの夫もそう。すべての人を守るために毎日誰よりも特訓をして、常に最初に動き出すのは夫だった」
「そうなんだ! でもパパが特訓してるところなんて見たことがないよ? 隠れて特訓してるのかな?」
「してないよ。特訓してたらあの下っ腹に肉はついてない。ほんと、昔の筋骨隆々だった夫はどこに行ったのやら」

 お酒の飲み過ぎで太ってしまったのだろう。そんな人に勝負で負けたのは本当に府が落ちない……。

「どうしておふたりは変わってしまったんですか?」

 疑問に思う。行っている業務は違えど、国の平和のために仕事をするというのは変わらないはずだ。

「根っこの部分は変わってないんだけどね。夫は困っている人を見たら見過ごせない」
「サタン様も、自分の仕事よりも配下のことを優先する。ああ見えて平和の地で学校を作ると言ったのはサタン様なのよ?」
「へえ、そうだったんですか」

 後継者育成、平和の象徴のための学校。それを作ったのがお父様だったというのは初耳だった。

 政治のことを私たちに継いでほしいとのことだった。ちゃんと国の将来を考えているんだ。

 まさか、自分が政治するのが面倒くさいから継がせようとしているわけじゃないよね……?

「でもね~」
「そうね」

「なんですか?」
「もう少し頑張ってほしいよね~」
「家事もすべて私たちが行っている。貿易関係も私たちがしている。剣を振るうことや強烈な魔術を使うよりもハンコを押す方が簡単なのに、どうしてそれができないのかしら」

 ……たしかに。戦うよりもよっぽど勉強をしている方が私も楽だ。お父様もヒーロも何を考えているのだろうか。お母様やレイラが呆れるのもわかる。

「おふたりはサタン様やヒーロさんを愛していないんですか?」


「愛してるよ」「愛してるわよ」


 ふたりとも声をそろえて言う。何のためらいもなく即答だった。

「やっぱり仲良しなんだね!」

 ふたりの言葉を聞き、ヒイラは笑顔になる。

「夫は仕事ではどうしようもないけど、それでも優しくて強い心はなくなってないからね!」
「サタン様もいざとなったら誰よりもみんなのために動くわ。私はそんなサタン様をずっと尊敬し、愛しているわ」
「信頼しているんですね」

 いっつもお母様はお父様に対して怒ってばかりだけど、やっぱり好きなんだ。

 そういうあたたかい気持ちを知ることができて、私の心もあったかくなった気がした。

「いや~やっぱりパパもサティちゃんのパパもすごいんだね! あ、そうだ! すごいと言ったらさっきお祭りでね、パパに会ったんだ! それでいっぱい買ってもらった!」
「ごちそうになりました」

 ヒイラと私はヒーロの優しい振る舞いに甘えた。話に聞いた通り、やっぱりヒーロは優しい人だ。


「…………」
「…………」


 お母様とレイラは急に黙り込み、互いを見つめる。

「?」
「どうしたの?」

 私とヒイラは首をかしげる。

「サティ、先に家に戻っていなさい。テレポートで帰れるでしょう?」
「ヒイラも先に寝ていなさい」
「は、はい」
「うん!」

 急にお母様とレイラのオーラが変わった。敵を前にしたときの戦闘オーラだ。
 な、何が起こったんだ。何か怒らせるようなことを言ってしまったのだろうか。しかし、私たちに対して怒っている様子はない。

 ……なにか、まずいことを言ってしまったかもしれない。

「そ、それじゃあ失礼します。またね、ヒイラ。ダークテレポーテーション」

 私はふたりのオーラから離れるように挨拶をしてすぐに去った。


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