「ろりーたふぁんたじー」 第5話:大魔王サタンの妻
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい」
学校でお昼を食べた後、解散になったため私は学校の図書館にある本を持ち帰ってきた。
本を片手に魔王城に入ると、サリィ様(お母様)が出迎えてくれた。
「学校はどうだったかしら?」
お母様は私に問う。
お母様は長い黒髪に黒のドレスを着ている。見た目は魔術で若く見せているので10代後半に見える。
「……わからないことばかりで大変でした」
私は正直に言うと、お母様は微笑む。
「それもそうよね。サティは魔の地から出たことがないから新鮮なものばかりだったでしょう。その本は?」
お母様は私が片手に持っている本を見て言う。
「こ、これは」
私は本を両手で持つ。
「見せてごらんなさい」
お母様が手を差し出す。
「……はい」
私はお母様の言う通り本を差し出す。
「魔法術の初心? どうしてあなたがこんな人間の書物を持っているの?」
「……そ、それは」
勇者の子に魔法術を教えるためとは言いづらい。
「大丈夫よ。正直に言ってごらんなさい」
「……人間の子に、魔法術を教えてって言われて」
「あら、もしかしてヒイラさん?」
「え、知ってるのですか?」
「当然知ってるわよ。勇者ヒーロの娘さん、ヒイラさん。昨日うちに来たそうね」
「はい、その子が魔法を使いたいっていうことで。……すみません」
「どうして謝る必要があるの」
「え?」
「勇者、いえ、サティが他の子と交流を図れることを私は誇りに思っているわ。そして、こうして誰かのために何かしてあげられる優しい子でよかった」
意外だった。お母様は古い考えを持っており、昔から私に悪魔のいろはを教えてきた。
てっきり未だに人類側に敵意を持っているものだと思っていた。
「……人間の力になることを怒らないんですか?」
「怒らないわよ。ただ、サティには魔王の娘としての威厳を忘れなければそれでいいのよ。それに、今、サタン様が求めているのは人類との共存。サタン様が望まれていることをするのが我々の役目よ」
「はい」
当然、自分が魔王サタンの娘であること、そしてそれを自覚し、威厳を保つ。それが自分の役目だと知っている。
でもお母様もお父様同様、人類との共存を望んでいるんだ。
さきほどのヒイラたちを見ても思ったが、自分が思っているよりも、気負いしないでいいのかもしれない。
「それに、ふふっ」
お母様はどうしてか笑顔になっている。
「?」
私は首をかしげる。
「初日のわりにはみんなと仲良くやっているじゃない」
お母様は一枚の写真を見ていた。
その写真はさきほど、先生が撮ったみんなで抱き合っている写真だ。
「そ、それはっ!」
私は写真を素早く奪い取る。顔があったかい。本に挟んでいた写真。恥ずかしいものを見られてしまった。
「サティは誰とも交流をとらず、ひとりになってしまわないか不安だったの」
「…………」
「風林火山の子たち、そして勇者の娘、ヒイラさん。私が今まであなたに厳しく色々と教えてきたから私の古い考えをそのままサティが持ってしまい、仲良くできないんじゃないかって」
「……仲良くしているのも、政治のためです」
「ふふっ、そうね」
お母様はなぜか満足げに微笑んでいる。
「なにが可笑しいんですか」
「サティは相変わらず可愛いと思ったのよ」
「か、かわいくありません!」
「素直じゃないわね」
「私は大魔王サタンの娘です。カッコよくはあっても、かわいいなど私にとっては滑稽極まりないです」
「あなたは本当にサタン様が好きだものね」
「……あんなの、べつに好きじゃありません」
大魔王の威厳なんて全然ないし、頼りない。あと加齢臭がするし。
……でも、昔は数々の戦を乗り越えてきたすごい魔王だってことはわかってる。
私も、そんな立派な魔王になりたいと思っている。
「ふふっ、これからも精進しなさい」
「……はい」
お母様は笑みを浮かべたまま去っていった。
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