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「赤い糸を盗る」 第3話:マネージャー

「うわあ、朝から頑張ってるねー」

 狐人は目を細める。虎太郎を含め、20人ほどが練習試合形式で練習している。「声出せ!」という虎太郎の真剣な声が聞こえる。

「ね~、あ、虎太郎くんだ! いやー、やっぱかっこいいね~」

 リサは興奮したままサッカー場へと入っていった。
 狐人もサッカー場に入り、テントが付いているベンチに近づいた。

「あ、黒崎くん。どうしたの?」

 狐人の存在にひとりの女子生徒が気付き、狐人に声を掛ける。

灰音はいね先輩、おはようございます。早く学校来たんで虎太郎の応援をしに来たんです」

 狐人は女子生徒の隣に座る。

「相変わらず、虎太郎くんのことが好きだね」

 そう言って薄く微笑むのは3年A組の女子生徒、灰音凪砂なぎさ。サッカー部のマネージャーをしている。

 凪砂は短い黒髪もあってか中性的な顔立ちをしており、程よく鍛えられた無駄な脂肪の無い体をしている。

 身長は150センチ後半。ボーイッシュなイメージが多くの生徒からはあるが、凪砂の柔らかい微笑みは可愛げがあり、その微笑みに見惚れる男子生徒は少なくなかった。

「先輩の愛には勝てませんよ」

 狐人は微笑みを返す。

「…………」

 狐人は凪砂から睨まれる。

「ボーイッシュな美少女から睨まれるのも悪くないなぁ」
「またそうやって先輩をからかって……。それに、愛とかじゃない。部活だから」

 そう言って凪砂は俯く。

 そう。彼女もまた虎太郎に想いを寄せる女の子だった。もともとサッカー部のマネージャーをやっていたところ、1年生で完璧超人、魚金虎太郎が現れ、虎太郎お得意の天然女たらしを発動し見事、凪砂のハートをゲット。

 以降、虎太郎の傍にいる狐人とも交流を取るようになり現在に至る。凪砂も狐人を分け隔てなく接する数少ない人間のひとりだった。

「3年生は部活を引退したんでしょう。先輩は引退しないんですか?」
「べつに、マネージャーの仕事は大したことないし、有志でやってるだけだよ」
「有志ね~」
「なに」
「いたたた」

 凪砂が狐人の頬を引っ張る。

「本当に黒崎くんは生意気。虎太郎くんを見習いなよ」
「僕があいつを見習ったところで、あいつにはなれませんから。だから、僕は僕のままでいい」

 狐人は目を細め、真っ直ぐ虎太郎と、それを見るリサを見つめる。

「腹黒生意気後輩くん」
「長くないですかその名前?」

 狐人の質問を無視し、凪砂は続ける。

「その、生徒会長はやっぱり、虎太郎くんにあれ、なの?」
「そうですねー。ま、生徒会長、萌黄リサさんの気持ちは彼女しかわかりませんから本当に虎太郎のことが好きなのかわからないですよ。でも大丈夫ですよ。学校で虎太郎の一番近くにいるのは先輩なんですから、萌黄生徒会長よりは優位です。嬉しいですか?」

 狐人は微笑む。

「本当に生意気!」
「痛ったあ! 聞いてきたのは先輩でしょ」

 凪砂は思い切り狐人の足を踏む。

「はー、キミと一緒にいると調子がくるう。早くどっか行って」
「えぇ、扱い酷いなぁ」

 いくら生意気な態度を取ったからってそんなこと言わなくてもいいじゃないかと狐人は思う。

 しかしこれ以上、凪砂の機嫌を損ねても仕方がないと思い、狐人はベンチから立ち上がる。

「え、本当にどっか行っちゃうの?」

 凪砂は目を見開く。

「あ、居た方が嬉しいですか?」
「いつまでそこにいるの?」
「失礼しましたー」

 狐人はサッカー場から去り、校舎へと戻っていった。


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