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「ろりーたふぁんたじー」 第14話:火の地
……ついに学校の授業が終わってしまった。今日一日中、この後、みんなでお風呂に入ることを考えていたらいつの間にか終わっていた。
「よし! そんじゃ行くぞ!」
カエンは授業が終わりすぐ、勢いよく立ち上がった。
「ほ、本当に行くの?」
「なに? まだ恥ずかしがっているの? これも絆の力を手に入れるために必要なことでしょう?」
「ぐっ」
フウラは完全に面白がっている。
「サティちゃん! 楽しみだね! これで絆の力を手に入れられるかもしれないんだよ!」
「そうなればいいんだけど……」
これでヒイラが本領の力を発揮してくれるならいいけど、それでもまだ抵抗がある。
「サティはどうしてそんなに恥ずかしがってるのぉ?」
サンネが私に問う。
「だって、誰かと一緒にお風呂に入るなんて久しぶりだから」
「お父さんとは入らないのぉ?」
「絶対に入らない」
私はキッパリと言い放つ。
「えぇ、サンネは毎日一緒に家族で入ってるけどなぁ」
「なん……だって?」
衝撃の事実だ。お母さんだけならいざ知らず、お父さんとも一緒にお風呂に入ってるだって? そんなの信じられない。
「そんなにおかしなことかなぁ?」
「ま、まあサンネは天然だからそうだよね」
「私もそうだよ?」
ヒイラは不思議そうに言う。
「ヒイラ! さすがにもうひとりで入って!」
あの勇者、未だにヒイラの裸を見るなんてとんだ変態だ。失望した。
「ああったくよお! いつまでぐだぐだ言ってんだよ! ほら、行くぞ!」
「行こう!」
「ちょ、まだ心の準備が!」
私はカエンとヒイラに手を引っ張られ、学校を後にした。
「ここが露天風呂ってやつだね!」
ヒイラは大声で嬉しそうに言う。
そう。ここは露天風呂。大きな大浴場は野外で、屋根や囲いがない。
「景色は良いのよね」
フウラは外を眺める。たしかに良い景色だ。湖があり、湖の先には大草原が広がっている。
「待てえぇ」
「な、なんですかぁ!」
サンネはなぜか大浴場でリンコを追いかけまわしている。
「おい! 滑るから危ねえぞ!」
カエンが笑顔で叫ぶ。
みんな楽しそうだ。そして、みんな裸だ。タオル一枚も付けていない。
「サティちゃん、どうしてタオルなんか持ってるの?」
「え、だって……恥ずかしいし」
私は大きなタオルで体を隠している。
「おいおい、湯船ん中ではタオルは禁止だぞ」
カエンが私に言う。
「そ、そんなルールがあるの?」
カエンの様子からして面白がって言っている様子もない。嘘をついているわけではないみたいだ。
くっ、そんなルールがあるなんて知らなかった! たしかにいつもお風呂ではタオルをかけていないけど!
「ほら、サティ。そのタオルを外しなさい。自らね。ほら! ほら!」
フウラが笑みを浮かべ言ってくる。くっ、やっぱり楽しんでいる。
どうしてみんな一切ためらわず裸でいられるんだ……。
「と、とりあえずシャワーを浴びるよ。カエン、これはルール違反じゃないんだよね?」
「あ? まあそうだけど。往生際が悪いな! おら! みんな! 行くぞ!」
カエンの言葉を合図にみんなが私に寄ってくる。私の周りをみんなが囲う。
どうしてリンコまで……。キミは味方じゃないのか?
「サティちゃん、もう逃げられないよ?」
ヒイラがニヤニヤと笑っている。他のみんなも楽しそうに私にじりじりと寄ってくる。
これがいわゆる絶体絶命というやつか。敵に囲まれたときどうすればいい……。
みんなを吹き飛ばすか? でもそんなことをしたら怪我をしてしまいかねない。
くっ、どうしようもないのか!
「おら! 行くぞ!」
「やあ!」
「ふふっ」
「ほらぁ」
「サティさん、すみません!」
みんなが私のタオルを掴み、引っ張る。
「ちょ、やめてって! ああっ!」
私の抵抗は虚しく、タオルを剥がされてしまった。
「~~~~っ!」
私は顔を真っ赤にし、裸のままその場にしゃがみ込む。
「これぞ裸の付き合いってやつだ!」
「サティちゃん照れてるの? 可愛いね!」
「あられもない姿をさらしている気分はどう? 恥ずかしいかしら?」
「ほらぁ、しゃがんでないでシャワー浴びるよぉ」
「サティさん、ごめんなさい!」
私はサンネに持ち上げられ、シャワーのある場所へと運ばれる。
「うぅ……恥ずかしい……」
こんな辱めに遭うのは初めてだ。これで本当に絆の力を手に入れられるのだろうか。
これで手に入れられなかったら恥のかき損だ。カエンにはお仕置きが必要かもしれない。
そうしてみんなでシャワーを浴び、そしてなぜか6人でわっかになり、前の人の背中を洗い、後ろの人に背中を洗われていた。
「サティちゃん! 楽しいね!」
私の前に座っているヒイラが首を横に向かせ、私に言ってくる。
「……これに何の意味があるの?」
「背中の洗いっこは風呂の定番だぞ! これで絆とやらが深まるはずだ!」
私の後ろにいて、背中を洗ってくれているカエンが大声で言う。
「本当にこれで絆が深まるのかな……。これで深まらなかったらカエン、怒るよ」
「大丈夫だ! もう深まってる! 一緒に何かをすることに意味があるんだぞ!」
一緒に何かをすることに意味がある、か。たしかにそれはそうかもしれない。
仲良くなるためには色んなことを一緒に経験してゆくことが大切なのかもしれない。
……でも、こんなに恥ずかしいことをして本当に仲良くなれるのだろうか。
よくわからない背中の洗いっこもほどほどにみんなでシャワーを浴び、お風呂に浸かるときがきた。
「ねえ、カエン」
「ん? どした?」
私は外の景色を見て言う。
「これ、外の人に見られたりしない? 大丈夫?」
「見られて何か問題があるのか?」
「問題大アリだよ!」
「あら? サティはそんなに自分の体に自信がないのかしら?」
「そういう問題じゃないよ!」
周りのみんなを見ると、たしかにみんなに比べ体の発達が遅れているかもしれない。
特にリンコの発達した体はすごい。どこがすごいとは言えないが、とにかくすごい。
「大丈夫だよサティちゃん! 湯船に浸かっちゃえば見えないよ」
「そ、そうだね」
「よぉし、入ろぉ!」
「よっしゃ!」
「よーし!」
サンネがいち早く飛び跳ね、湯船に入ってゆく。カエンとヒイラも後を追い、入ってゆく。フウラとリンコはお湯に足を付けている。
「やっぱり熱いわね」
「そ、そうですね。でも、入ったら気持ちが良さそうです」
「慣れるまでが大変なのよ」
「が、頑張って入ってみましょう」
「ええ」
フウラとリンコはゆっくりと湯船に入ってゆく。
私もこのままひとりで立っていて、外の人に見られるもの嫌なので湯船に入ってゆく。
「うわ、たしかに熱いね」
私は肩までお湯に浸かる。
家のお風呂はここまで熱くない。でも、どうしてか外の景色を見ながら入るお風呂は気持ちが良かった。
「気持ちがいいだろ?」
カエンが私に近づいて問うてくる。
「うん、良い景色だからかな」
「それだけじゃないぞ」
「え? どういうこと?」
私は首をかしげる。
「みんなと一緒に入ってるから気持ちがいいんだ!」
「そう、なのかな」
「そうだ! みんなでこうやって一緒に入る風呂は楽しいんだ! ひとりで風呂に入ってもべつに楽しくないだろ?」
「うん、そうだね」
毎日お風呂に入るときは作業のひとつとして入っている。全然、楽しんで入っているわけじゃない。
お風呂に浸かり、笑顔のみんなを見る。
「私、今、楽しんでるのかな」
「おう! だから笑ってるんだろ!」
「え、笑ってた?」
無意識だった。私、笑っていたんだ。楽しんでいたんだ。
「お前はいっつも難しい顔ばっかりしてるからな。もっと、楽しく生きてこうぜ!」
「楽しく、生きる」
楽しく生きるなんて、今まで考えてこなかった。毎日考えているのは、どうしたら立派な大魔王になれるか、そのために今何をするべきかを常に考えていた。それか昼寝。
「お前が大魔王の娘で色々と大変なのはなんとなく想像つくけどよ、もっと肩の力抜いていいんじゃねえか?」
「でも」
「お前は毎日学校が楽しくねえのか?」
「え」
「オレは毎日が楽しいぞ! 勉強は難しくてよくわかんねえけど、それでもみんなと一緒にいられるのが楽しい! お前は違うのか?」
学校に行くまでは毎日ひとりで過ごしていた。勉強と特訓と昼寝の毎日。でも今は違う。
学校に行って、色んな考えを持つみんなと過ごして、私の心はいつも揺さぶられている。きっとこれが、楽しい、というやつなんだろう。
「楽しい、と思う。みんなと一緒にいるの、楽しいよ」
「じゃあそれでいいじゃねえか! みんなと一緒にいて楽しむことが、その絆ってやつなんじぇねえの? オレにもよくわかんねえけど、そういうもんだと思うぞ」
「みんなと一緒に楽しむのが、絆?」
「ああ! オレはお前に出会ってから毎日が楽しいぞ! いちいち面白いこと言うし、それで変なところがある」
「べ、べつに変なところなんてないよ」
カエンや周りのみんなの方がよっぽど変だ。
「オレはお前が好きだぞ!」
カエンは私の顔を見て、笑顔で言う。
「……カエン」
「守護者とか後継者とかよくわかんねえけど、オレは好きなお前とこれからもずっと一緒にいたいと思ってる。お前は違うのか?」
「ううん、私も、カエンが好き。みんなが好きだよ」
最初は後継者として私がみんなを育てていかなければならないと思っていた。でも、そんなこといつの間にか忘れていた。毎日が波乱万丈で、でも、私は笑っていたと思う。
「みんながみんなのことが好きって最高じゃねえか!」
「そうだね」
みんなでみんなのことが好きなら、みんなと一緒ならずっと楽しいのかもしれない。
困難があっても、みんなと一緒なら乗り越えられるかもしれない。
私はみんなを見て笑顔になれた。
「んにゃ」
「あははっ! どうだっ!」
カエンがお湯を私にかけてきた。
私もお返しにお湯をかけてみた。しかし、カエンは笑っていた。
「なははっ! やったな!」
さらにカエンは勢いよくお湯をかけてきた。
「なになに!? なんか楽しそう!」
「カエン、あなたはそうやっていつもはしゃいで」
「サンネもやるぅ!」
「うわっ、サンネさん、やりましたね!」
みんなでお湯をかけあった。でも、誰ひとりとしてそれを嫌がっている様子はなかった。その様子を見て、私もみんなにお湯をかけた。
みんなで笑い合いあった。
みんなでお風呂に入ることがこんなに楽しいことなんて知らなかった。
カエンはどこまで見通していたのだろう。カエンのことだ。何も考えてはいなかったのだろう。
でも、たしかにこうしてみんなで一緒に楽しんだことは、絆が深まっているということなんだと思った。
みんなと一緒に笑顔でいることが、こんなに楽しいことなんだって初めて知った。
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