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「赤い糸を盗る」 第2話:生徒会長
狐人は生徒会室の扉を開く。
「あ、黒崎くん。おはよっ!」
女子生徒が明るく狐人に挨拶をする。
「おはよう、萌黄さん。早いね」
狐人は職員室に生徒会室の鍵を取りに行ったのだが鍵はすでに持ち出されており、不信感を抱きながら生徒会室にやってきた。
そうしたら金曜高校2年B組、生徒会長の萌黄リサがすでにいた。
縦長の生徒会室には、入ってすぐ左にソファがあり、真ん中には長机がふたつ合わされ、椅子が6つある。
その先には窓ガラスがあり、閉められている。
締め切った部屋で暑そうなものだがなんと生徒会室にはクーラーが付いており、リサは長机の奥、クーラーの風が当たる位置に座っていた。
リサの髪色はこの学校でも珍しく金髪。そして碧眼。両親がともに外国出身で仕事の関係で日本に住み、リサは日本で生まれ、育ってきた。
当然、洋風の見た目をしており、鼻立ちや身長が高く、モデルのよう風貌だ。
緩くウェーブのかかった長い金髪は薄暗い生徒会室をすら明るく見せる。深い二重のもとには大きな碧眼があり、まるでビー玉のようである。
一見、モデル、もしくは洋風な人形を模したような見た目で近寄りがたい印象を受けるが、性格は髪色同様明るい。
その明るい性格もあって、狐人に分け隔てなく接する数少ない生徒のひとりだった。
「いやー、生徒会の雑用もそうだけど、久しぶりの登校だから舞い上がっちゃって」
リサはひまわりのような笑顔を見せる。
「それにしても早すぎるでしょ。なに? 虎太郎が朝練するの知ってたの?」
「むぅ、そういうんじゃないって!」
リサは頬を膨らませ抗議の目を狐人に向ける。
リサは虎太郎に想いを寄せる女の子だった。1年生の頃から虎太郎がサッカー部で活躍している姿を見て恋に落ちた。
真っ直ぐな性格の彼女は虎太郎にアプローチをかけるものの、虎太郎の持ち前の鈍感さもあって恋仲は進展しなかった。
しかし彼女は諦めず、狐人の力を借りて虎太郎と仲を深めようとしている。
「せっかく時間があるんだし、部活、観に行く?」
狐人は鞄をソファに置く。
「いいよーだ。それに、黒崎くんが来てくれたし」
「僕の存在は虎太郎に匹敵するのかな」
「さあねー」
リサは笑みを浮かべ、ぷいと顔を狐人から逸らし、目の前にあるノートパソコンに目を移す。
「仕事?」
狐人はリサの隣の席に座る。
「うん、新聞部の夏休み特集の検閲。はー、生徒会長の仕事ってホント地味なことばっかり。もっとこう、ぱぁ! ってした感じのイメージだったのに」
「そういうものだよ」
狐人はリサに微笑む。
狐人は1年生の頃から生徒会役員だったため、生徒会が地味な事務作業が多いことを知っていた。
生徒会は2期制で行われており、1年生の夏から2年生までの夏の1期。
2年生の夏から3年生までの夏の2期。リサは2期から入り、もともとあった人望もあり、いきなり生徒会長の座を取った。
「はぁ、面倒くさ~い」
リサは両肘を机に置き、口を尖らせパソコンの画面を見つめる。
「僕が代わりにやろうか?」
「…………いいよ。自分でやる」
リサは視線をパソコンに向けながら少し頬を染める。
狐人がパソコンに近づき、画面を見る。
「うわあ、細かいね。これ全部検閲するのは大変だ」
「……近いなぁ」
リサが目を細め言う。
「ごめん」
狐人はパソコンから体を離し、自分の椅子に姿勢を戻す。
「…………やっぱり、朝練観に行く」
「うん? ああ、虎太郎ね。行ってらっしゃい。検閲は僕がやっておくよ」
「黒崎くんも来て」
「えー、なんで僕もー?」
リサは狐人の抗議を聞かず手を引き、生徒会室を後にした。
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