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「ろりーたふぁんたじー」 第15話:水着
「どう? 似合うかな?」
「うん。似合ってると思うよ」
今日は学校が終わった後、私はヒイラとともに買い物に来ていた。
平和の地で多くのお店がある中、私たちは服屋にいた。しかし、今日は服を買いに来たわけではない。水着を買いに来たのだ。
今度の授業では平和の地の先にある海に行くことになった。
今まで海に行ったことのない私は水着を買うしかなかった。
でも買い物もひとりで行ったこともない。どうしようかと迷っているとヒイラが一緒に行こうと言ってくれた。
「これにしちゃおっかなー」
試着室で黄色の水着を着ているヒイラは鏡を見て嬉しそうに言う。
「ヒイラは水着を持っているんじゃないの?」
「うん、でも持ってるのは前の学校のやつだから」
「前の学校?」
「うん。人類側には学校があって、今の学校に入る前はそこに通ってたんだー」
「そうだったんだ」
人類側は色々と発達しているとは聞いていたが、学校もあったんだ。
ということはヒイラのことだ。そのときに友だちがいたのではないだろうか。
「ヒイラは今の学校に来るとき、寂しくなかった?」
「ちょっぴり寂しかったな。でもね、今の学校もすごく楽しいから! 全然寂しくない!」
「ヒイラは強いね」
「全然そんなことないよ。サティちゃんが仲良くしてくれてるから私、毎日楽しいんだもん」
「……私は全然楽しませてあげたりなんかしてないよ」
「こうやって一緒に買い物してるだけでも私は楽しいよ」
ヒイラは私に笑顔を向ける。
「そ、そっか」
私は顔があったかくなり、ヒイラから目をそらす。
「サティちゃんは今までどうしてたの?」
「私は家で訓練と勉強してたよ。あと昼寝」
「サティちゃんはお昼寝が好きなの?」
「うん、好きだよ」
趣味と言ってもいい。自室にあるベッドは本当に寝心地が良い。
「本当にサティちゃんは可愛いね」
「そ、そんなことない」
「ふふっ、そうだ! 私の水着なんかよりも、サティちゃんの水着だよ! 何か良いものあった?」
「うーん、今まで水着なんて着たことなんてないからどれがいいかわからないんだ」
「じゃあ、私が選んであげる!」
ヒイラに任せて大丈夫だろうか。まあでも、友だちのヒイラだ。信じてみよう。
ヒイラは試着室で水着を脱ぎ、もとの格好に戻る。そうして私を連れて、色んな水着を見ている。
「これとかどうかな?」
「おへそが見える……」
ヒイラが選んだのは胸と下半身がわかれた白の水着だった。露出度が高い。
「サティちゃん、すっごく体がきれいだから良いと思うけどなー。とにかく試着してみようよ!」
「う、うん。わかった」
私はヒイラから水着を受け取る。試着室で試着するためには店員さんに許可を取らなければならない。
私は店員さんに近寄る。
「……あ、えと。あっ」
私が言い淀んでいると店員さんはどこかに行ってしまった。
「どうしたのサティちゃん?」
「あ、いや、なんでもない」
しっかりしなきゃ。ちゃんと話しかけて、試着室を使っていいですかと聞くだけだ。それぐらい私にだってできる。
再び私は店員さんに近づく。
「あ、あの」
「はい、どうしましたか?」
店員である人間が私に顔を向ける。未だにヒイラ以外の人間とは話しづらい。
「えと、その……」
「あ、その水着をお買い上げですか?」
「あ、いや、ちがくて」
「サティちゃん、どうしたの?」
隣に立つヒイラが私に問うてくる。
(ヒイラ、どうしたらいい!?)
私は小声でヒイラに耳打ちする。
「どうって? 試着室使っていいですかって聞くだけだよ?」
「う、うん」
「?」
店員さんは不思議そうにこちらを見ている。
「あ、あの」
「はい。どうしました?」
「し、試着室、使ってもいいですか……?」
「ああ! はい。どうぞ。お使いください」
店員さんは笑顔を私に向けてくれる。
「やった! 言えたよヒイラ!」
「うん、よくできたねサティちゃん」
ヒイラが私の頭を撫でてくれる。私は浮かれたまま試着室に入り、着替える。
そうして着替えた後、試着室を開ける。
「……どうかな?」
「うん! 似合ってる、と思うんだけど……何か違うような?」
「え、違うかな? やっぱりもっと生地が多いやつの方がいいかな」
私は水着に触れる。やっぱり露出度が高い水着は似合わないのではないだろうか。恥ずかしいし。
「いや! 形は良いと思うんだけどね。なんだろう? 色、かな? ちょっと待ってて!」
「あ、ヒイラ!」
私はひとり試着室に取り残されてしまった。後ろを振り向き、鏡を見つめる。
「はあ」
ため息が出る。やっぱり私の体はみんなと比べて発達していない。身長も一番低いし、その、胸の発育も劣っている。こんな私が水着なんて似合うだろうか。
私がひとり不安を抱いているとヒイラが大量の水着を持ってきた。
「これ! 全部着てみて!」
「えぇ、これ全部?」
私はヒイラから大量の水着を受け取り、試着した。
「う~ん、やっぱり黒、かな」
「はあ、疲れた」
ヒイラは顎に手をやり、首をかしげている。私は何度も着ては脱いでを繰り返し、疲弊していた。
「うん! やっぱり黒! 黒にしよう! 黒が似合うなんてサティちゃんおっとなー」
「え、大人かな」
「うん! 大人だよ!」
「……えへへ、そっか。大人なんだ。わかった。じゃあ、これにする」
私は今着ている黒の水着を買うことにした。
さすがにレジで店員さんと話すのは無理なので、お金をヒイラに渡して買ってもらった。
「ありがとうヒイラ。買い物に付き合ってくれて」
「ううん! 楽しかったから! また今度行こうね!」
「うん。それじゃあ、またね」
「またね!」
ふたりで買い物袋を持ち、それぞれ別れた。
「えへへ、大人の水着」
私は大人な水着を大切に抱きしめ、スキップをしながら家に帰った。
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