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第11話 同時視聴 「小説:オタク病」

「遅い」
「やっぱりそうですよねー」
「反省してるの?」
「してますしてます。お得意の土下座しましょうか」
「……あなた、なんで遅かったの?」

 環が真っ直ぐ俺を見つめる。

「空馬と話してたら遅くなった」
「はあ、まあいいけど。それじゃあまずは何からやろうかしら」

 問題集とテキストを開く。そして面倒な勉強が始まる。

「……あなた、やる気あるの?」
「ああ、あんまねえな」
「私帰っていい? 撮りだめてるアニメ観たいんだけど」
「すまん! すまん! 冗談だって。でもしょうがねえだろ。何がわからないのかもわからないんだから」

 勉強を始めて10分程。俺は数学を環に教えてもらっているのだが、環が何を言っているかわからず俺は常に疑問符を浮かべていた。

「よくこの高校に入れたわね」
「いやあ、入ったのはいいんだけど授業付いて行けなくて」

 てへぺろと舌を出してみる。環に凄い形相で睨まれる。

 ちなみに木曜高校の偏差値は中の上の公立高校。第一志望の中の中の私立高校に行くつもりで木曜高校を記念受験したらなんとびっくり合格。

 そこから今までの中学の授業スピードとは全然違う中、俺の成績はどんどん下がってゆくのであった。

「あなたわざとわからない振りしてるんじゃないでしょうね」
「なんでそんなことすんだよ」
「……その、私と、二次元の話をするために」
「ああ、そうだ。いつものクイズをしてくれ。それならわかる」
「趣旨が変わってしまうでしょう。……まあ、いいけれど。それじゃあ問題を解けた度にクイズしてあげる」
「マジでか! じゃあちょっとは本気出すか」
「最初から本気出しなさい。というか……そんなに、私と話したいんだ」
「お前ぐらいしか俺のオタクトークに付いていけるやついないからな。そういうお前もそうだろ」
「そ、そうね」

 環はそう言い、頬を染めそっぽをむく。

「お、おう。そうか」

 予想外の反応に俺も戸惑ってしまう。
 そこから少し本気を出した俺はさきほどよりも勉強に集中ができて、さらに二次元クイズをしながら進めてゆき、順調に勉強は進んだ。

「あなた、やればできるじゃない」
「ああそうだ。やらないだけだ」
「堂々と言うんじゃない。あなたもアニメを観ながら勉強ができたらいいのに」
「いやだからそんなの普通に無理だって。むしろどうやってやってんだよ」
「常に画面を見ながら視界の端にある問題を見て、ノートを見ずに書くのよ。そしてCMが流れているときに答え合わせするのよ」
「いやそれ常人じゃ無理だから! お前が超人なだけだから!」
「あら、私に敗北を認めるのね。はい、あなた私よりニワカ」
「あ!? ニワカかどうかは関係ねえだろ! お前がそうやって勉強しているうちに俺は左目と右目それぞれでアニメ2つ同時視聴してるから! お前よりアニメ観てるから!」
「……そんな同時視聴ができるなら私のもできるでしょう」
「……たしかにそうかもしれん」

 なるほどな。右目でアニメを観て、左目で勉強すればいいのか。

「あなたやはり馬鹿ね。とにかく私の勉強方法をあなたもやってみなさい」
「そうだな。やってみるわ」
「じゃあ今日はこの辺で終りね。補修はいつなの?」
「今週の金曜だ」
「なら頑張ればいけるわね。あなた毎日暇でしょう。私が放課後、付き合ってあげる」
「暇を前提に話すな? まあ暇だけど。助かるけど。でもなんで」
「一応、彼女だから」

 環は腕を組み、俺から視線を逸らす。

「お~? ついにデレ期か? クーデレちゃんよぉ。可愛いじゃねえか」

 俺はニヤケ顔を環に向ける。

「デレてないわ。ラノベ脳もいい加減にしなさい。それに私に勝手にキャラ付けしないでもらえるかしら?」
「はいはい」

 俺は肩をすくめてみせる。

「その態度ムカつくのだけれど、もう勉強を教える気を失くしたわ。さようなら」
「待ってください! 嘘です! どうかこの馬鹿に勉強を教えてください!」
「はっ! 床に這いつくばりなさい。重力を受け入れなさい!」
「ぐっ、がががっ」

 俺は床に這いつくばり、環に頭を下げ、明日以降も勉強に付き合ってもらうことになった。

 俺何回土下座させられんだよ。ちょっともう慣れてきちゃったよ。ああ、二次元だったらここから足で踏まれたい。すみません。自重します。


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