「ろりーたふぁんたじー」 第8話:飲み会
「いやあ、わが娘ながら可愛くてしょうがない!」
「サタンは相変わらず娘大好きだな」
「そういうお前も娘大好きだろぉ」
夕刻。人類と魔族が共存する場所、平和の地。
今日はそこの酒場で大魔王サタンと勇者ヒーロが酒を飲み交わしていた。
「可愛くてしょうがないよ。そういえばヒイラは最近、サティちゃんに特訓してもらっているみたいだね。本当、世話になって悪いよ」
ヒーロは顔を真っ赤にしながら、それでも通常通りの涼しい表情で言う。
「あぁ、気にすんなよ。サティちゃんが優しくなるためにむしろこっちが付き合ってもらってるようなもんだから。ああ、そういや、サティちゃんも俺に稽古してほしいとか言ってたな」
サタンは思い出し笑いをする。
「稽古、付き合ってあげればいいじゃないか」
サタンは酒をぐびぐびと飲み、机にジョッキを置く。こちらは表情が暗闇で見えないが、相当の酒を飲み、酔っている。
「お前と違って俺の力は守る力じゃないからよお。だから、教えたくないんだよ」
「守る力。でも、最低限の魔術は教えてやってもいいんじゃないか?」
「それはかみさんが教えてっからいいんだよ。お前んところはあまり稽古とか今までしたことなかったのか?」
「うちはね。妻も俺も昼間は普通に働いてるし、ヒイラも今までおもちゃとかにしか興味なかったから。でも、学校に行くことを伝えたら急に魔王退治に行くなんて言い出してさ」
「なんだよその思考回路」
サタンは苦笑する。
「学校の説明をするためには必然的に昔の僕たちのことを話さないとならないだろう? それで、説明したらパパの代わりに魔王を退治してあげるって」
ヒーロも苦笑し、肩を落とす。
「ああそれでヒイラちゃん、うちに来たんだ」
「しかも勇者の剣まで持ってね」
「マジで!? ヒイラちゃん勇者の剣使えんの?」
「使えるわけないだろ。だからレプリカの剣をやってやったよ。大層喜んでた」
「それ後でばれたら嫌われるやつだな」
「……やっぱりそうかぁ。でも本物の剣を持たせるわけにもいかないだろう?」
「まあそりゃそうだ。ところで本物の勇者の剣は今どうしてんの? あの、俺を斬った忌々しい剣」
「ほんと根に持つね」
「えだって超痛かったもん。なにあれ? 何でできてんの?」
「神によって作られた剣だよ。今は押入れにしまってある」
「神も泣くだろうな」
「仕方がないよ。使う機会なんてないし、そんな機会ない方がいい」
「そりゃそうだ」
ふたりは昔を思い出すように笑みを浮かべ、酒を飲む。
「今度ヒイラちゃんうちに連れて来いよ。来たら一発やられてやっからよ」
「それは歴史的な大事件だね。いいのかい? キミも忙しいだろうに」
「構わねえよ。忙しいったってほとんど事務仕事だし。かみさんがそういうの中心にやってっから。今日もこっそり抜けてきた」
「……おいおい。それ僕も怒られるんだけど」
「俺たち運命共同体だろ?」
「怒られる運命共同体は嫌なんだけどね。ま、僕も仕事抜けだしてきたんだけどさ」
「それ俺も怒られるやつじゃねえか」
「僕たち運命共同体だろう?」
「ああそうだ! たまにはこうしてストレス発散しても怒られねえよな」
「そうだよ。なんたって僕たちは今まで苦労してきたんだからね」
サタンとヒーロは肩を組み、横に揺れる。
「サタン様」
「ヒーロ」
「「あ」」
サタンとヒーロの後ろにふたりの女性が立つ。ふたりは怒りの炎を燃やしている。
ひとりはサタンの妻、サリィ。そしてもうひとりはヒーロの妻、レイラ。ふたりの目つきは全盛期、敵に向ける厳しい目と同じだった。
サリィは邪悪なオーラを出し、レイラは顔は笑っているが、目が笑っていない。
サタンは慌てて、膝をつく。
「いや違うんだよママ。ほら、あれだよ。そう! 政治の話してたんだよ。これからどうしていこうかーってさ」
「そ、そうなんだ。やっぱりそういうのを定期的に行うのって大切だろう?」
ヒーロもサタンの隣で膝をつき、冷や汗を垂らす。
「帰りますよ」
「帰るわよ」
ふたりの女性はサタンとヒーロに有無を言わさぬ勢いで言う。
「「……はい」」
こうして世界を救ったヒーロとサタンはとぼとぼと家に帰って行った。
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