「ろりーたふぁんたじー」 第13話:裸のつきあい
勇者ヒーロが学校に来てから数日後、今日も朝から私はヒイラの特訓に付き合っていた。
「せいやあああ!」
「もっと力を入れて! 前にお父さんと戦ったときのことを思い出して!」
「たあああ!」
ヒイラは剣を何度も振るう。しかしどれも非力な攻撃だった。
あれからヒイラと戦闘訓練を何度か行ってきたものの、ヒイラは本領の力を発揮できていなかった。あの瞬間だけだった。
「はあ、はあ」
ヒイラは額に汗を流し、息を切らす。
「……ダメ、か」
「思い出してるつもりなんだけどね。やっぱり全然違うかな?」
「うん。あのときのヒイラは目に光を帯びて、オーラも本物の勇者に負けていなかった。今ではそれがない。どうしてだろう……」
「何が違うんだろうね?」
ヒイラは首をかしげる。
最初はピンチのときに覚醒するのだと思い、影でヒイラの全身を拘束し、ダークソードを振るったものの、ヒイラは覚醒せず、私が寸止めをして終わった。
勇者ヒーロは絆の力を手に入れられると言っていた。ヒーロと戦ったときにはきっとヒイラにその絆の力があったのだろう。でも今はない。何が違うのだろうか。
もっと仲良くなることが必要だとも言っていた。でも、それと力に何の関係があるかわからない。
たぶんきっと、私とヒイラは仲が良い。だから絆の力をすでに得ていると思っていた。でもまだヒイラは自分の意思では絆の力を出せない。
ヒイラには本領を発揮してくれないと困る。そうじゃなきゃ、私は真の力を発揮したヒイラと戦えない。
ちゃんと勝負をして、それで自分の力を試したい。
このままだと、私はヒイラに負けていることになるから。
ヒイラはどうやったら再び覚醒してくれるのだろう。
たぶん、もっと仲良くなる必要があるんだ。でもどうしたらもっと仲良くなれるのだろう。
「よお! 今日もやってんな!」
「懲りないわね」
私とヒイラが特訓をしているとカエンとフウラが登校してきた。
「ふたりともおはよう。ヒイラの本領をどうしても発揮できなくてね。何か良い案はないかな」
「気合い!」「気合いね」
「……うーん」
ふたりは声を合わせて言う。
参考にならない。気合いでどうにかなったらここまで苦労していない。ヒイラは十分頑張っている。それでも気合いだけでは足りないのだ。
よくわからないけど仲良くなる必要があるのだ。
「どうもみんなで仲良くなることがヒイラの力を発揮できる方法みたいなんだ」
「そうなの?」
ヒイラは首をかしげる。
「うん。私もよくわかっていないんだけどね。絆の力っていうのがあるらしいんだ」
「絆の力、ね。大魔王の娘には似合わない言葉ね」
「う」
それは自分でもわかっていた。きっとこの絆の力というのは今までの魔族ではなかったものだ。それを私が見つけ出すのはかなり難しいものだ。
というか、理解できる気がしない。勇者特有の思想なのではないかとさえ思う。
でも、ヒーロはヒイラだけに対してじゃなく、私に絆の力の説明をした。それはつまり、私たちにもその力を秘めている可能性があるということだ。
「その絆? ようは仲良くなるってことだろ! それなら良い方法があるぜ!」
「え、カエン、そんなものがあるの? 教えてくれない?」
「ああ! 一緒に風呂に入る! そうすりゃもっと仲良くなる!」
「お風呂! いいね! カエンちゃんが言ってた火の地のお風呂入ってみたい!」
ヒイラがカエンの言葉に食いつく。
「……お風呂になんて入っても仲良くならないでしょう」
フウラは呆れ、ため息をつく。
「そんなことないぞ! フウラとは一緒に風呂に入ってるからコンビネーションが取れてるんだぞ!」
「そうなの?」
「ああ! そうだろフウラ!」
カエンは笑顔でフウラに顔を向ける。
「……まあ、たしかに、それ以降コンビネーション技が使えたのは事実ね」
「そっか。それじゃあカエンの言う通りひとつの方法なのかもしれないね」
私は顎に手をやる。
どういう理屈かわからないけど、少なくともそれでカエンとフウラの絆が生まれているのはたしかだ。
……でも。
「誰かとお風呂に入ったことなんてないから、どうしていいかわからない」
もっと小さい頃、お母様とは一緒にお風呂に入っていたが、今では入っていない。
大昔、お父様と一緒に入ったような気がするが、それは記憶から消し去りたい。
「そんな気にすることないだろ! 裸の付き合い! それだけで仲良くなる!」
「ホントに!?」
「は、裸の付き合い!?」
ヒイラは目を輝かせ、私は気が動転する。
「あら、サティはやっぱりうぶなのね。べつに男の人と入るわけでもないしそこまで驚くことじゃないでしょう」
フウラはいたずらな笑みを浮かべて言う。
「で、でも……」
「なにぃ? なんの話?」
「みなさん、おはようございます」
私たちが話していると今度はサンネとリンコが登校し、話に入ってきた。
「みんなでうちの風呂に入るって話だ!」
「おぉ、お風呂、いいねぇ」
サンネはふにゃりと笑顔を浮かべる。
「お風呂は、好きです」
リンコも微笑む。
「で、でもリンコ。みんなでお風呂に入るってことは、みんなで裸になるってことだよ?」
「お風呂ってそういうものじゃないですか?」
「そ、そうだけど」
どうしてこうみんなは抵抗がないのだろう。私がおかしいのだろうか。
「っつーわけで! 今日、学校が終わったらオレん家集合な!」
「わかった!」
「仕方がないわね」
「楽しみぃ」
「お、お邪魔します」
みんな乗り気だ。ここで自分だけが行かないなんて水を差すことはできない。
「う、うん」
私は小さくうなずいた。
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