「ろりーたふぁんたじー」 第4話:友だち
「うーん」
慣れない本の内容に頭を悩ませ、首をかしげる。
「もぐ、もぐ、何読んでるのサティちゃん?」
「あ、ヒイラ」
お昼ご飯中、私は学校の3階にある図書館から本を持ち出し、その本を読んでいた。
サンドウィッチをもぐもぐと食べているヒイラにその本を見せる。
「魔法術の初心? なんでそんなの読んでるの? ご飯食べないの?」
「後で食べるよ。これは人間が魔法を使うための術式が載っている本。ヒイラでもできる魔法を調べていたんだ」
「私のためにそんなことしてくれてるの!? さすが師匠!」
ヒイラは笑顔で目を輝かせて言う。
「……ん、了承しちゃったからね」
笑顔が眩しい。つい、顔を背けてしまう。
「お! なんだサティのやつ勉強か!? マジメだな!」
「あ」
カエンが近づき、本を奪う。
「なんて書いてあるか全然わかんねえ!」
「あなた風情じゃ無理よ。見せない」
今度はフウラが近づき、カエンから本を奪う。
「なるほどね」
フウラが頷いている。
「フウラ、わかるの?」
私は感心とともに問う。
「さっぱりわからないわ」
フウラは本をシートに落とす。
「さっきの威勢はなんだったの……?」
私は落とされた本を拾い、本を開く。
「サティ~」
「うん? んぐっ!」
サンネが急に近づき、私の口に何か入れ込む。
「せっかくのお昼ご飯なんだからみんなで食べようよ~」
サンネはふにゃりとした笑顔で言う。
「う、うん」
私は口に入れられたサンドウィッチをゆっくり噛む。
「……どうですかサティさん?」
リンコが不安そうに私を見つめる。どうというのはこのサンドウィッチの味のことを言っているのだろう。
私はサンドウィッチを喉に通し、口を開く。
「うん、とても美味しいよ。リンコは料理が得意なんだね」
「いいい! いえ! ぜ、ぜぜ全然です!」
「謙虚だね。本当に美味しかったよ。今度また食べさせてくれると嬉しいな」
「あ、まだいっぱいあるのでどうぞ」
「そうだぞサティ! せっかくの昼飯なんだから勉強なんてしてんなよ!」
カエンが言う。
まあ、それもそうか。ここは勉強する場であるが、みんなとも交流を図っていくのも私の仕事なんだ。
私は藁のバスケットに入ったサンドウィッチに手を伸ばす。
「美味ひい」
「リンコの作った料理はおいしいんだよぉ」
サンネはふにゃりとした笑顔のまま言う。
「サンネとリンコは知り合いなの?」
「サンネだけじゃなくて、みんな知り合いだよぉ」
「そうなんだ」
風林火山の中ですでにもう交流があったんだ。
「はじめましてはサティとヒイラだけね」
フウラが言う。
「私とサティちゃんも知り合いだけどね」
ヒイラが笑顔で言う。
「知り合いって、昨日会ったばかりでしょ」
「だから、今は友だち!」
「友、だち?」
「うん! 友だち!」
友だち、ね。今まで自分にそんなもの存在しなかった。いるのは家族と、その家族に仕える従者たち。
そんな環境で育った私には友だちがなにかいまいちよくわかってなかった。
「友だちってなに?」
「え、友だちは友だちだよ?」
ヒイラは首をかしげる。
「何をもって友だちなの?」
「何をもって? 友だちっていうのは楽しいことを一緒にしたり、こうやって一緒にご飯を食べる仲間のことだよ」
「……仲間」
そっか。勇者の娘とはいえ私たちはすでに仲間なんだ。
でも、友だちはそれだけじゃない。一緒に楽しいことをしたり、こうしてご飯を食べる仲間だっていう。
うーん、難しいな。
私が首をかしげ悩んでいるとヒイラが私に飛びついてきた。
「な、なに?」
「友だちはこうやってぎゅーってしたりするんだよ。ほら、サティちゃんも」
「は、恥ずかしいよ……」
まるで赤ん坊のようだ。でも、これが友だちなんだっていうんだったらそうなんだろう。
私はヒイラの体に腕をまわす。
「恥ずかしがって、かわいいなー」
「か、かわいくなんてない」
慣れない言葉を投げかけられ、顔があったかくなる。
「あ、照れてるー」
「て、照れてない!」
「サティは意外とうぶなのね」
くすりとフウラが笑う。
「……本当に友だちはこんなことするの?」
私は目を細めて問う。
「普通はしないわね」
「ヒイラ!?」
私はヒイラを引きはがす。
「うへぇ、サティちゃんは特別だからいいのー」
「特別ってなに」
「特別にかわいい!」
尚も、ヒイラは私に抱き着こうとする。
「そんなことない」
「サティかわいいぞ!」
今度はカエンも飛びつき、抱き着いてくる。
「面白いわね」
「なになに~、サンネもぉ、ほら、リンコも来てぇ」
「え、ええ! わ、わたしもですか!」
そうして私に5人が抱き着いてくる。
「く、苦しい……」
「あらあら、みなさん仲良しですね」
先生がどこから出したのか、カメラを持って私たちを撮る。
「は、はなして」
私がそう言うと、やっとみんなが離れる。
「これが友だちだよサティちゃん」
満足気にヒイラは笑っている。
「……普通はしないんでしょ」
「特別だからいいの」
「はぁ」
ため息をつく。
なんだか調子が狂う。魔王城ではこんなへんてこな雰囲気なんてないからどうしていいかわからない。
これがいわゆる平和というものなんだろうか。
争いではなく、こうして友だちとして抱き合う、そういうのが平和なんだとしたら――
いや、それが正しいものかはまだわからなかった。
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