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「ろりーたふぁんたじー」 第12話:飲み会②

「いやあ、参ったよ」
「お? どうした?」

 平和の地。とある酒場。今日も大魔王サタンと勇者ヒーロは飲み交わしていた。
 ヒーロは酒の入ったジョッキを飲み干し、机に置いてうなだれた。

「衰えた」
「ああ、今日、学校に行ったんだっけか?」
「そう。そのときにサティちゃんと戦闘訓練をしたんだけどね、見事に僕の分身を倒してくれたよ」
「まあお前の分身、しょぼいもんな」
「そう言ってくれるなよ。でも本当に強かった。キミよりよっぽど強いよ」

 ヒーロがそう言うと、サタンは笑う。

「だはは、お前も言ってくれんなぁ! 俺だったら余裕だし」
「キミの場合、力を出したら周りのものすべて吹き飛ぶだろう?」
「まあ、そりゃそうだ。俺はお前ほど器用じゃない。俺に戦闘訓練なんて無理無理。それに、俺が学校に来た日には、もう二度とサティちゃんに口利いてもらえなくるしな」
「よく自己分析できているじゃないか。というか、どうしてそこまでキミはサティちゃんに嫌われているんだい?」
「べ、べつに嫌われてなんかいねえよ! 単なる反抗期だ!」

「ちゃんと毎日お風呂に入っているかい?」

「入っとるわボケ! それでも洗濯物はべつにされてるんだよなぁ」

「ちゃんと毎日お風呂に入っているかい?」

「同じ質問すんじゃねえよ! 入ってるよ! 俺の何がダメなんだよ!?」
「稽古に付き合ってあげないから拗ねているんじゃないのかい?」

 サタンもジョッキに入っている酒を一気に飲み干し、机にがたんと置き、鼻で笑う。

「でも今日のお前との戦闘訓練でサティちゃんは自分の無力さを知ったはずだ。もうしばらく俺に稽古を頼むことはないだろうよ」
「……本当に僕が戦闘訓練をしてよかったのかい?」

 ヒーロは心配げにサタンを見やる。

 ヒーロは心配していた。学校のゲストとして招待されたとき、当然サティが勝負を仕掛けてくることは予想できた。

 そして、サティがどんなに本気を出してもヒーロに敵わないことも。

 それを知ったとき、サティは自分の無力さを知り、意気消沈してしまうのではないだろうか。それでやる気をなくしてしまわないだろうかと。

「お前ぐらいしかサティちゃんが本気を出せる相手いないからな。かみさんとの戦闘訓練も所詮は訓練ぐらいにしか思ってない。どうよ、サティちゃん本気だっただろ?」
「ああ、ものすごい迫力だったよ。それに頭が良い。僕の行動パターンを読んで攻撃をしてきた。キミにはできない芸当だね」
「俺はそんなことする必要ないからな」
「そんなんだから僕の攻撃を避けられないんだよ」
「避ける必要がない」

 ふたりは全盛期、戦ったときのことを思い出す。

「キミの体力尋常じゃないからね」
「お前も大概だろ。何度も回復して、復活して、どっちが悪魔かわかんねえよ」

「言いえて妙だね。悪いとは思ってるよ」

「ま、結局お前は回復しなきゃ俺に勝てない存在ってわけだな。そんなんだからサティちゃんに分身消されんだよ」
「何も言い返せないなあ。きっとサティちゃんならキミに匹敵する大魔王になる」
「でも、それじゃあダメなんだよ」
「そうだね。みんなには僕たち以上に強くなってもらわないとならない」
「いやあ、ぶっちゃけ俺たちより強くなるなんて想像つかねえよ。だって命張ってきて俺ら強くなってきたんだぜ?」
「やっぱり単体では限界があるよ。この平和な世界では」

「お前は信じてんだな。絆の力を」

「ああ。彼女たちならきっと絆の力を手に入れられる。現に、ヒイラは覚醒して、絆の力を手に入れていた」
「マジで!? あの歳で!? すごくね!?」

 サタンは驚きのあまり立ち上がる。

「僕も驚いたよ。でもきっと、絆の力を手に入れられたのはサティちゃんのおかげだ」
「そうかあ。サティちゃんも誰かに守られる存在になったかあ」

 サタンは椅子に腰を落とし、どこか喜びと寂しさの声を出した。

「相当悔しがってたよ」

 ヒーロは顔を歪ませていたサティの顔を思い出し、微笑む。

「だろうな。同年代でサティちゃんの力を越える存在なんていなかったからな。ああ、めっちゃいじけてんだろうなあ」
「いいじゃないか。仲間と切磋琢磨し成長してゆく。うん、僕好みだ」
「サティちゃんに絆の力を手に入れられるかね」

 サタンは机に肘をつく。

「どうしたんだい急に自信をなくして」
「いやあだって俺の娘だしな。俺だって絆の力なんていまいちピンと来ねえもん」
「心配する必要ないよ。サティちゃん、俺を追い詰めるときには仲間に頼っていた。キミとは違うよ」

「そりゃ全然違えな。上手くやってるみたいで良かったよ」

「それに、周りの子を服従させている様子もない。後は、サティちゃんが絆とは何かに気づけば必然、力を手に入れられる」
「俺とは違う力。それを手に入れたらもう俺でも勝てねえかもな」
「僕でも勝てないよ。でも、それでいい」

 ふたりはどこか寂し気に俯く。

「俺らの時代は、終わりか」
「思わなかったよ。僕たちはもう、託す側なんだ」
「託して、そんで世界が平和にまわってゆく。俺らが信じた世界。なんとしても叶えてもらわねえとな」
「僕たちの娘たちならきっとできるよ。いや、もう少しだと思う」

「まだまだだろ。力が足んねえ」

「だから力じゃないよ。守る意思が、平和をもたらすんだ。僕たちがそうしたいと思ったからこそ、今の世界があるんだろう。だからきっと、みんなも大丈夫だ」
「そうだな。大丈夫だな」

 ヒーロとサタンは自分に言い聞かせるように言う。

 ヒーロもサタンも不安がないとは言い切れなかった。未だに魔族に対して人類、人類に対して魔族に不信感を抱いている存在は多くいる。

 自分たちにできることは精一杯やっている。でも、力で統治してきた国はそう簡単には変わらない。それでも、自分たちが変わったように、世界が真の平和になると願い、託している。

「さて、そろそか」

 サタンは背筋を伸ばす。

「そうみたいだね」

 ヒーロも背筋を伸ばす。

 そうしてふたりは椅子から立ち上がり、後ろを振り向く。目の前にはサタンの妻サリィとヒーロの妻、レイラが立っていた。


「「今日も仕事抜け出してサボってすみませんでしたあああ!」」


 サタンとヒーロが渾身の土下座をかます。

 こうして今日も世界は平和にまわってゆく。


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