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「ろりーたふぁんたじー」 エピローグ

「お邪魔しまーす!」
「オジャマするぜ!」
「お邪魔するわ」
「おじゃましまぁす」
「お、お邪魔します……」

 ヒイラ、カエン、フウラ、サンネ、リンコが家に遊びに来た。

「みんな、よく来てくれたね」

 お祭りに行って数日、どうせならみんなに来てほしいと思って、私はみんなに声を掛けた。

 私の家は風林火山のような大した特徴もないから、来てもらうには少し説得材料が少ないと思ったが、みんな興味を持ってくれた。

 特にカエンとフウラは大魔王サタンに会ってみたいと興奮気味に言っていた。
 私は家の前でみんなを迎えた。家の前には私と門番の男がいる。

「あ! 門番の人! 久しぶり!」

 ヒイラが門番の男を指さし、元気に挨拶をする。

「こんにちはヒイラちゃん。今日も来てくれてありがとうね。よかったですねサティ様。こんなに多くのお友だちが来てくれて」

「……まあ」
「サタン様も大奥様も大層喜ばれると思いますよ」
「べつに喜ばせるために来てもらったわけじゃありません」

 みんなはただ私の友だちだ。だから、家に呼んだ。みんなと一緒なら楽しいと思って来てもらったんだ。でも、お母様もお父様も友だちができたことを褒めてくれたら嬉しいな。

 門を通り、私たちは家に入って行った。

「うおー! すげえ天井たけー!」
「なんだか物騒ね。お化けでも出そうだわ」

 カエンとフウラが天井を見上げる。天井は10メートル以上あって、入ってくる日光はなく、広い横の道にランプが灯されているだけだ。たしかに薄暗いがお化けが出るなんてそんな怖いこと言わないでほしい。

 しばらく歩くと暗闇の中から女性の姿が現れた。

「ようこそ、魔王城へ」

 お母様が丁寧に頭を下げ出迎えてくれた。

「若いわね。サティの姉かしら?」
「ふふっ、私はサティの母です」

 フウラの言葉にお母様は喜び、口に手を当て微笑む。

「マジか!? 若すぎるだろ!」
「ああ、お母様は魔術で――」
「サティ」
「なんでもありません」

 お母様に厳しい目を向けられた。戦闘訓練で見せるそれと同じくらいの殺気。怖いですお母様。

「もう少しで料理ができますのでそれまで自由に遊んでいてください」

 お母様が微笑みながら言う。

「やったぁ。ご飯だぁ」
「魔王城でお料理をいただくなんて恐縮です……」

 サンネとリンコが言う。リンコはそこまで気張らなくていいのに。
 さて、ご飯ができるまでどうしようか。

「魔王城を探索しよう!」

 ヒイラが声を張り上げて言う。

「探索するほどのものはないよ?」
「せっかくなら魔王に会ってみたい!」
「……えぇ、うーん」

 正直、お父様とみんなを会わせるのは気が進まない。

「オレも会ってみたいぞ!」

 カエンもヒイラの意見に同意し、他のみんなも頷き同意する。

「……わかった。それじゃあこっちに来て」

 奥の部屋に連れて行ってあげよう。おそらくお父様は今仕事で事務室にいるだろうから魔王部屋にはいないだろう。いないことがわかったらみんなも諦めてくれるはずだ。

 私たちはしばらく廊下を歩き、奥の大きな扉の前に立つ。私は魔術を展開し、扉を開く。

 そして、扉が開かれた先、玉座には大魔王サタン様が座っていた。

 えぇ……なんでいるの?

「よく来たな」

 いつもよりドスのきいた声でお父様は言う。
 張り切っている。これなら大魔王の威厳は保たれるかもしれない。

「我が名は大魔王サタン。お主らの国を統べる者だ」
「すげえ! 本物だ!」
「さすがに迫力があるわね」
「サティと違っておっきいねぇ」
「……こ、怖いです」

 みんなそれぞれの感想を述べている。

「臆することはない。我は平和を望んでいる。平和のために、これからも皆精進するのだ」

 よし、良い調子だ。やればできるじゃないですかお父様!

 私がひそかにガッツポーズをしていると隣にいたヒイラが一歩前に出た。

「あなたが大魔王サタンだね」
「お主は勇者ヒーロの娘、ヒイラだな。よく来たな。ゆっくりとしていくがよい」
「行くよ!」

「え?」

 ヒイラは突然背中から剣を取り出し、お父様に向かってゆく。その様子を見たお父様は素っ頓狂な声を上げる。

「せいやあああ!」
「ちょっと何してるのヒイラ!?」
「退治!」

 ヒイラはお父様に向かって剣を振るう。しかしお父様に当たる直前、見えない壁に阻まれる。

「ふふふ、効かぬぞ。お主程度の力などでは我には届かぬ」

 おお、ちゃんと大魔王として対応している。

「みんな!」

 ヒイラが私たちに声を掛ける。私はどうしていいかわからず戸惑うが、他のみんなはお父様に向かって走り出した。

「参戦するぜヒイラ!」
「大魔王の実力を知ってみたいと思っていたのよ」
「楽しそうだよねぇ」
「す、すみません!」

 みんなが力を合わせ、見えない壁に向かって攻撃を繰り出す。何をしているのだろう。

「サティちゃんも!」

「え」

 でも、お父様の魔術を見るのは初めてだ。もしあの見えない壁を壊せたら私が強いとお父様にも認めてもらえるだろう。よし。

「ダークソード」

 私は魔術を展開し、影の剣を手に持ち、見えない壁へと剣を振るう。

「っ! か、硬い!」

 見えない壁は一切傷つけられず、それどころかこちらの剣が摩耗している。

 やっぱり私たちの力じゃまだお父様には届かないのか……!

「ふふふ」

 みんなで精一杯力を入れても一向に見えない壁が壊れることはない。お父様は余裕の笑みを浮かべる。

 しかし、それは突然起こった。


 バリンッ!


「え」

 見えない壁は突然破られ、私たちは尻もちをついた。

 な、何が起こったんだ!?

 私がお父様の方を向くとそこにはお母様がいた。

「ああ、俺のダークウォールが! ママ! ちょ、ちょっと待った! これはみんなへのおもてなしだから、仕事サボってるわけじゃーー」

「言い訳は無用です」

 どうやら見えない壁をお母様が一瞬で壊したようだ。お父様は慌てて再び魔術を展開し、見えない壁を作ったが、再び一瞬で破壊された。お母様はお父様のもとへと近づく。

「ちょ、ちょっとまっ、ぶへぇぇぇぇ!」

 お母様がお父様に盛大にビンタし、お父様は吹っ飛んで行った。奥のガラスまで飛んで行き、お父様はそのまま倒れてしまった。

「す、すごい。すごいよ! 大魔王を倒したよサティちゃん!」

 ヒイラは感動し、私に笑顔を向ける。私は倒れているお父様を見やる。完全にのびている。

「……う、うん。そうみたいだね」

 お母様はお父様に近づき、片手でお父様を背負い、去って行った。

「サティの母ちゃんすげえんだな」
「大魔王サタンを一撃で倒すなんて」
「サンネたちじゃ全然敵わなかったのにねぇ」
「大魔王サタン様よりも怖いです……」

 リンコの意見には賛成だ。結局、この家で一番恐ろしいのはお母様なのだ。

「とりあえず大魔王も退治したことだし、ご飯食べようか……」

 まあ、お父様の醜態は晒されたが、まあ、自業自得だろう。さすがにお母様もやりすぎだと思うが、仕事をサボっていたなら仕方がない。

 こうして私たちは魔王部屋を去り、食堂でみんなとご飯を食べた。

 その後、みんなは私の部屋に遊びに来た。

「すごい! 広いお部屋だね!」
「本もいっぱいあるぞ!」
「ぬいぐるみも沢山あるわね」
「ふかふかのベッドぉ」
「あ、これ」

 みんながそれぞれ私の部屋を物色し、サンネは私のベッドに飛びつき横になっている。そしてリンコは私の机にある写真立てを手に取る。

「学校初日に撮った写真だね」

 写真を手に入れた後、お母様に写真立てを買ってもらった。今は大事に机に飾っている。

「みなさんで一緒に卒業したいですね」

 リンコは笑って私に言う。

「そうだね」

 私も笑みを返す。

「ダーイブ!」
「行くぜええ!」
「はっ」

 私とリンコが話しているとヒイラ、カエン、フウラがベッドに飛びついていた。

「このベッド広いね! みんなで入れるんじゃない!? ねえ! サティちゃん! リンコちゃん! 一緒に来てよ!」
「え、うん。いいけど」
「は、はい」

 私とリンコもベッドに入る。

「さすがに6人も入るとけっこうギリギリだね」
「サティちゃんのベッドだから、サティちゃんは真ん中!」

 ヒイラは私を引き寄せ、真ん中に寝かしてくる。

 みんなで横になる。

「こうしてみんなでいると楽しいね!」

 隣に寝るヒイラが私にそう問うてくる。

「うん。楽しいね」

 本当に楽しい。嬉しい。幸せな気持ちでいっぱいだ。
 私は天井を見上げ、手を伸ばす。いつもこのベッドで寝るのはひとりだった。寝るのは好きだが、こうしてみんなで寝るのも悪くない。

 いや、楽しい。つい笑みがこぼれてしまう。

「すぅ」

 私がみんなを見るといつの間にかみんな眠っていた。少し動いていっぱいご飯を食べたから眠くなってしまったのだろう。

 私はみんなの寝顔を見る。

 私はずっとひとりだった。でも、今ではみんながいる。

 力こそが絶対だと思っていた。力を付ければきっといつか幸せになると思っていた。

 でも、違うのかもしれない。

 力はたしかに大切なものを守るために必要なものだ。でも、その大切なものがなくては意味がないのだ。

 そして今、私には大切なもの、仲間、友だちができた。

 友だちのためにもっと強くなりたいと思った。でもそれ以上に、ただ単にみんなともっと一緒に色んなことをしたいって、みんなともっと仲良くなりたいと思うようになっていた。

 私はみんなのことが好きだ。

 最初は守護者や勇者の育成のために仕方がなく学校に通うつもりだった。責任を感じて学校に行った。でも今は違う。

 ただ楽しいから学校に行く。ただ友だちと一緒にいたいから一緒にいる。

 そう思うようになっていた。

 お父様が言っていた優しい力っていうのが何か少しわかったかもしれない。

 力だけがあっても意味がないのだ。何かを守りたいというその気持ちこそが、強さなんだって気付いた。きっと学校に行かなければ、友だちができなければ、その強さを見つけることができなかっただろう。

 今ではそれが少しだけ見えるようになってきた。

 みんなの力になりたい。みんなを守りたい。それで、世の中の他の人たちの絆、家族を持っている人たち、友だちを持っている人たちを守りたい。

 きっと今の私のように、かけがえのない存在をきっとみんな持っているから。

 私たちならそんな人たちの絆を守ることができる。私たちの絆で、この世の絆を守ることができる。

 そう思うと、自然と力が湧いてきた。私だけじゃないから。私には友だちがいるから。友だちがいるから、きっと楽しい。きっと色んな困難もみんなでなら乗り越えられる。

 私はそう信じている。

 私たちならきっと、平和な世界を作り上げてゆくことができる。


「みんな、ありがとう」


 私は心の底にある気持ちを口にした。

 目を閉じる。暗闇の中でも隣に友だちがいることがわかる。それが幸せだった。


 みんなで、世界を守ろう。

 私はそう心に誓った。


「こうして世界を滅亡に追い込んだ大魔王サタンの娘は成長し、今までの配下の子どもたちや、勇者の子どもとともに世界に平和をもたらし、今日も世界は平和にまわってゆくのであった。お終い」

「なにしてるんだいサタン?」

 お父様と勇者ヒーロが部屋の扉を開けて何か話している。

「いや、こういうのってエピローグが大切だろ? だから代わりに俺が――って、ぶへえ!」

「うるさい! みんな寝てるんだから騒がないで!」

 私は勢いよく枕を放り、お父様を部屋から追い出した。

「僕たちは邪魔みたいだね」
「はぁ、もっと可愛がってやりてえんだが、仕方ねえか」

 お父様とヒーロは私の部屋から去って行った。
 ふたりが部屋から去り、聞こえるのはみんなの寝息だけだ。

 みんな幸せそうに寝ている。それを見たら私も幸せな気分になった。

 私も目をつむる。

 明日も学校楽しみだな。明日も、その明日もずっとずっとみんなと一緒にいられたら嬉しいな。

 私はそう祈り、眠りについた。


 こうして、世界は平和にまわってゆく――。

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