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「ろりーたふぁんたじー」 第18話:フウラのお願い

「ようこそぉ、サンネのお家へぇ。あれ、サティ、どうしたの?」

 山を登り、ついにサンネの家へとたどり着いた。サンネの家はレンガ造りの大きな家だ。

「……なんでもないよ。お邪魔します」

 私はふらふらと歩きながら家へと入る。リビングは広く、多くのきらびやかな鉱石が飾られていた。

「おおー! すげー! いっぱい宝石があるぞ!」
「きれいだね!」

 カエンとヒイラが目を輝かせて水色の鉱石を見ている。

「この山で取ったものなんですよね?」

 リンコがサンネに尋ねる。

「そうだよぉ。サンネが取ったんだぁ。きれいでしょぉ?」
「たかが石でしょう? こんなもののなにがすごいのやら」

 フウラは鼻で笑い、目を輝かせ鉱石を見ているカエンとヒイラを見下す。

「なあなあサンネ! ちなみにこれ何ゴールドぐらいするんだ!?」
「それはねぇ。だいたい100万ゴールドぐらいだよ」
「マジか!? すげー! 想像もつかねえ金額だ!」
「この石だけでお家買えるってぐらいだよカエンちゃん!」
「やっぱり山の地はすごいですよね」

 カエンとヒイラとリンコが水色の鉱石を眺めて感心する。
 私はフウラを見やる。

「なるほど。やはり私の目に狂いはなかったわね。さあ、採掘に行くわよ」

 フウラは髪をなびかせ、外に向かう。

「フウラ、キミは現金だね……」

 私は苦笑しながらフウラの後姿を追う。
 こうして、私たちは採掘体験をすることになった。


 みんなで明かりのつくヘルメットをかぶり、ピッケルを持ったまま、山のトンネルに入ってきた。けっこう広いが暗い。

「く、暗いですね。暗いところは少し怖いです……」

 リンコが体を縮こませている。

「暗いなー。この穴ん中にあのすげー宝石が埋まってんのか」
「そうだよぉ。ここはまだまだいっぱい掘れるからダイヤモンドもあるかもしれないねぇ」
「ダイヤモンド! すごそうだねサティちゃん!」
「そうだね。採れたら一攫千金だよ」

 笑顔のヒイラに笑顔を返す。

「サンネ、見つけたらもらっていいのよね」
「うん、もちろんだよぉ」

 フウラは真剣な眼差しでサンネに尋ねる。本気だ。本気で採りにきている。
 みんなはトンネルの中でそれぞれピッケルを振るい、採掘を始めた。

カンッ。

「あ」

 私がひたすら掘っていると、今まで掘っていた土とは違う感触がした。

 私はヘルメットの明かりを感触の違った場所に当てると、青く輝く鉱石があった。

「ねえ、サンネ。これって鉱石?」

 近くにいたサンネに尋ねる。

「どれどれぇ? おぉ、そうだよぉ。すごいねぇ。これなら1000ゴールドぐらいするよぉ」

 サンネがふにゃりと笑みを浮かべる。

「おー」

 感動した。見つけるとこんなにも嬉しいものなのか。

 帰ったらお母様とお父様に自慢しよう。

「ちょっと待ってねぇ」
「うん」

 サンネは私の前に立ち、爪をとがらせ、鉱石の周りの土を掘ってゆく。そして、両手に収まるほどの青い鉱石を掘り出した。

「はいサティ。あげる」

 掘り出した青い鉱石をサンネが私に渡してくれる。

「本当にもらっていいの?」
「うん! もっともっと掘っちゃっていいよぉ」
「ありがとう! はぁー」

 青い鉱石を持ち、感動に浸る。

「おいフウラ! これはオレんだぞ!」
「私が先に見つけたのよ。これは私のもの」

 私が感動に浸っているとそばから騒がしい声が聞こえた。カエンとフウラが何やら言い合いをしているみたいだ。

「どうしたの?」

 私はカエンとフウラに近づき問う。

「フウラのやつがオレの獲物を横取りしようとしてんだ!」
「それはこっちのセリフよ。往生際が悪いわね。あなたは別のところに行ってなさい」

 カエンとフウラがお互いに睨んでいる。

 その間にふたりが見つけた鉱石をサンネが掘り出し、手にする。手に持っているのは赤い鉱石だ。

「まあまあ喧嘩はよしなよ。ふたりで見つけたってことでいいじゃないか」
「それはダメだ! この赤いのはオレが持って帰る! だって赤だぞ! オレの色だ!」
「何よその理屈。いいからあなたは黙って掘り続けなさい!」

 フウラがサンネから赤い鉱石を奪い取り、走る。それをカエンが追う。

「どうしたんですか?」
「なになに? 石、見つけたの?」

 ふたりの喧嘩に気づいたリンコとヒイラが私に近寄ってきた。

「見つけたみたいなんだけど、どっちが先に見つけたかって言い争ってるんだ」
「そうなんですね。おふたりとも、喧嘩はやめてくださぁい」

 リンコもふたりの後を追い、喧嘩を仲裁しようとしている。

「良い方法が思いついたよサティちゃん」
「良い方法? なに?」

 ヒイラは得意げに笑みを浮かべている。

「ふたりで採ったってことにすればいいんだよ」
「私もそう言ったんだけど、納得してくれなくて」
「そこで! 私の出番だよ! ふたりともー!」

 サティは自信満々に笑みを浮かべたままカエンとフウラに声を掛ける。

「なんだよヒイラ。良い方法って」
「これは私のものよ。良いも悪いもないわ」
「まあまあそう言わないで! せっかく見つけたんだからふたりとも持ち帰りたいでしょ?」

「当たり前だ!」「ええ」

 カエンとフウラは声を合わせて言う。

「だから! 私がこれをふたつにしてあげる!」
「お! もしかして魔法ってやつか!?」
「それができるなら最初からしなさいよ」
「任せて! その石を地面に置いて」

 フウラは地面に赤い鉱石を置く。

「ヒイラ、魔法なんて使えるの?」
「魔法じゃないよ。ここでついに、この子の出番だよ!」

 そう言ってヒイラは背中から剣を取り出す。

「え、もしかして」
「これで真っ二つにする!」
「…………」

 私はなにも言えなかった。

「そんなすげえことできんのか!?」
「まあ、それなら妥協してあげてもいいわ」

 ふたりはそれぞれ納得したみたいだ。

「ふたりとも、そんな期待しないであげて?」
「よし! 行くよ! せいやあああ!」

 ヒイラは赤い鉱石に向かって剣を振るう。

 剣は鉱石に当たる。そして――

「あああああ!」

 剣は跳ね返り、ヒイラが吹っ飛んでゆく。

「なんで!?」

 私はつい大声を上げる。

 あの剣ただのゴムじゃないの!? なんでヒイラまで吹っ飛んでるの!?

「ヒイラさぁん!」

 吹っ飛んでいったヒイラのもとにリンコが走ってゆき、倒れているヒイラの治癒をしている。

「なんだよダメじゃねえか」
「やっぱりこれは私のものね」
「オレのだ!」
「私のよ!」

 ふたりは再びにらみ合う。

「まあまあ、ここは平等にあっち向いてホイで決めようよ」

 私はふたりに提案する。

「いいじゃねえか! それで決めようぜ!」
「望むところよ。後悔するんじゃないわよ」

 そうしてふたりはあっち向いてホイをした。
 そして、カエンが勝った。

「よっしゃあああ! オレんだああ!」
「くっ」

 カエンが赤い鉱石を天に掲げ、フウラは悔しそうに歯噛みしている。

「うぅん、取り合いになるとは思わなかったよぉ。ごめんねぇ」

 サンネも申し訳なそうにしている。
 私はその様子を見て、いてもたってもいられなかった。

「フウラ」
「なによ」
「これ、あげる」
「え」

 私は手に持っている青い鉱石をフウラに差し出す。

「……でもこれは、あなたが見つけたものでしょう?」
「そうだけど、あげる。友だちだから」
「……友だち」

 私はフウラの手を取り、青い鉱石を手に乗せる。

「本当にいいの?」
「うん、これを売れば少しのお小遣いになると思うよ」

 フウラは手に持っている青い鉱石を見つめる。

「……売らないわ」
「え、売らないの?」

 フウラは少し顔を赤くし、そっぽを向く。

「……友だちからもらったものだから、大切にするわ」
「フウラ」

 フウラから友だちと言ってくれるのは初めてだった。

「……ありがとう」

 フウラはぽそりと呟く。

「どういたしまして」

 鉱石はなくなっちゃったけど、友だちのためになれたならそれでいいやと思った。
 むしろ、友だちに喜んでもらえたことの方が嬉しかった。

 今日、来てよかったな。
 私は笑顔になれた。すると、フウラも笑顔を返してくれた。

「ありがとう」

 今度ははっきりと、笑いながら言ってくれた。

「おー! いいな! オレも欲しい!」

 カエンがその様子を見て言う。

「これは何が何でも絶対に譲らないわ」

 そうフウラは言って、青い鉱石を自分の背中に回す。

「ありがとぉ、サティ」

 サンネが笑顔で礼を言ってきた。

「大したことじゃないよ。友だちのためだから」
「やっぱり友だちっていいものだねぇ」
「そうだね」

 私とサンネは笑いあった。

「あれ、解決したの?」

 倒れていたヒイラは立ち上がり、私のもとへとやってきた。

「うん、解決したよ」
「サティがフウラに鉱石を譲ってあげたんだぁ」
「さすがサティちゃん! やっぱりサティちゃんは優しいね!」

 笑顔でヒイラが言う。

「……そんなことない」
「サティさんは優しいですよ」
「うん、優しいぃ」

 リンコとサンネも笑顔でそう言ってくれた。

「……ん」

 私はなんて言っていいかわからず、ただ顔を赤くするだけしかできなかった。
 でも、嬉しかった。

   ×    ×

 サティたちが帰った後、フウラだけがサンネの家に残っていた。

「フウラどうしたのぉ?」
「あ、いえ」

 フウラは青い鉱石を両手に持ち、それを見つめる。

「よかったねぇ、サティが譲ってくれて。サティは優しい子。サンネ、ますますサティのこと好きになっちゃたぁ」
「そ、そう」

 サンネが笑顔で言うも、フウラはサンネの顔を見ず、ひたすら青い鉱石を見つめている。

「それ売っちゃうのぉ? もし売るならサンネのお家で買い取るけど」
「いえ、売らないわ……でも、その」
「うぅん?」

 サンネは首をかしげる。

「サンネがどうしてもって言うなら協力させてあげてもいいわよ!」
「なんのことぉ?」
「だ、だから! サンネがどうしてもこの鉱石を加工したいならさせてあげてもいいって言ってるのよ!」
「べつにしなくてもいいけどぉ」
「なっ!」
「せっかくもらったんだから大切にしなよぉ。それじゃあ、気を付けて帰ってねぇ」

「ま、待ちなさい!」

「どうしたのぉ?」
「……どうしてもって言うのなら」
「?」

 サンネは再び首をかしげる。さきほどからフウラの言動を理解できないでいた。

 フウラは青い鉱石を大切にしている。しかも友だちからもらったもの。それを売らない。
 青い鉱石がフウラにとってただの鉱石ではなく、大切なものだとサンネも理解していた。

――大切なもの。協力? 加工?

「あ、そっかぁ」

 サンネは耳をピンと立てる。
 天然なサンネもなんとなく察することができた。

「サンネ、どうしてもフウラに協力してあげたいなぁ」
「そ、そう?」

 フウラが頬を染め、サンネを見つめる。

「せっかくだから加工させてよぉ」
「ま、まあ! あなたがどうしてもと言うなら仕方がないわね。それでその、ただ加工するんじゃなくて……えと」
「せっかくサティが譲ってくれたものだもんねぇ。なんとなくわかったよぉ」
「た、頼むわよ」
「うん~、任せてぇ」
「……あ、ありがとう」

 サンネはフウラの考えていることが理解できた。それは今までのサンネではできなかったことかもしれない。

 でも、優しいサティを見て、その優しさに心を動かされたフウラを見たらなんとなく理解できるようになった。

「フウラは素直じゃないねぇ。でも、素敵だよぉ」
「な! なんのことよ! と、とにかくこの青い鉱石は預けるから!」
「はぁい」

 サンネはフウラから青い鉱石を受け取る。

「良いの、作ってあげるからねぇ」

 サンネの心はあたたかいものに包まれた。フウラのために、みんなのために頑張ろうって思った。


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