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「ろりーたふぁんたじー」 第23話:飲み会③
「もうすぐ定例会だね」
「そうだなー。定例会っつっても何話しゃいいんだよ。べつに話すことなんてねえよ」
人類の地で祭りが行われている中、平和の地のとある酒場。今日もサタンとヒーロは酒を飲み交わしていた。
「キミはとにかく会議中寝ないでくれよ。キミの奥さんのオーラ怖いんだよ。キミと戦う前に立ち塞がる女帝のオーラ現役さながらなんだから。こっちもつい構えてしまうよ」
ヒーロはそのときを思い出すように背筋を凍らせる。
「お前に言われたくないわ。話聞かないでペン回ししてんじゃねえよ。ペンが床に落ちるたびにお前のかみさん、お前のこと俺と敵対したときの全盛期さながらのオーラ出すじゃねえか」
サタンもつい思い出し、身震いする。
「もう少しで二回転回しができそうなんだよ」
ヒーロは右手でペン回しの動作をする。
「どこで成長してんだ。真面目に仕事しろ」
「キミは書類ジェンガどこまでできるようになったんだい?」
「ああもうそれ俺プロ。天井までできるから。だが崩さないように一枚一枚抜いていくのが難しくてな」
ふんっ、とサタンは得意げに笑みを浮かべる。
「キミも変なところで成長しているじゃないか。そんなところサティちゃんに見つかったらどうするんだい? 威厳を失うよ?」
「すでに見られてかみさんにチクられてる。せっかくサティちゃんと遊ぶためにおもちゃ作ってやってんのによお。かみさんは何もわかっちゃいねえ」
サタンはジョッキを一気に飲み干し、机にがたんと置く。
「たぶんだけどわかっていないのはキミだ。その書類一枚一枚が重要な書類だという意識がない」
「お前こそどうせ真面目に一枚一枚真面目に見てるわけじゃねえだろ?」
「当然だよ」
ヒーロは涼しい笑顔で堂々と言い放つ。
「堂々と言うことじゃねえ。お前あれだろ。分身使えんだからそれで仕事ぱぱっと終わらせちまえばいいじゃねえか」
「分身を作ったってサボる人間が増えるだけだよ」
「なるほどな」
サタンも納得する。いっそのことサティに分身をしてもらい仕事を手伝ってもらおうかとさえ考える。
「でも悪いとは思っているよ。家事も外交も全部、レイラに任せている。僕は書類をチェックするだけなのに、それができない」
「いや俺もやってっからわかるけど普通に無理だろ。いっそのこと戦ってた方が楽だわ」
「本当にその通りだよ。特訓をして、汗を流す。それが本当にどれだけ気持ちの良いことか」
ヒーロは酒を飲んで気持ちよくなったのか、両手を広げて天井を仰ぐ。
「それな! でももうできねえんだよなあ。やる気が起きねえ」
「僕もサティちゃんと訓練したときに思ったよ。もう動きたくない」
「もう俺ら何もできねえじゃねえか」
サタンとヒーロは顔を合わせ、互いに苦笑する。
「はぁ~僕なんで世界救っちゃったんだろう。いっそのこと全部キミの支配下にすればよかった」
「おいおいさすがにそんなこと言うなよ。俺も同じこと思った」
「よかったよ平和条約を結んで」
「よかったぜお前をぶっ潰さないで」
「いっそのことまた戦争をしようか。僕、負けてあげるから」
「いやあ、もう俺戦えないから。降参~。はい。お前が全部政治する」
「これ以上、政治の仕事が増えたらそれこそ僕だけくたばる。なるほど。それもいいかもな。そうすれば必然的にキミがこの国の王だ。サティちゃんに尊敬されるんじゃないかい?」
「そんな形で王になった日にはサティちゃんに呆れられる。結局無理なんだよ。俺たちは一生このまま奴隷だ」
「勇者や魔王は自らの仲間たちを守る。でも、自分を守ってくれる人はいないんだよね」
「まあ、かみさんには支えてもらってるけどな」
「レイラも昔は可愛かったんだけどなー。僕が挫けそうになるたびに笑顔で僕を治癒してくれて笑顔で一緒に戦ってきた」
「俺んところもそうだ。常に俺を敬ってくれて、たまに見せる笑顔は可愛かったなあ」
「キミの奥さんは本当に見た目が変わらないよね」
ふたりは昔を思い出し、微笑む。
「ああ、なんかよくわからん魔術使ってるみたいだからな。そういうお前んところも全然見た目変わらないじゃねえか。なにあれ? 魔法?」
「いや、そういうんじゃないと思う」
「すげえな」
ふたりはお互いの妻の見た目の変わらなさとそれを維持するための努力に感服する。
「まあ見た目じゃないけどね」
「そうだな。やっぱり俺たちは見た目じゃなく、中身が好きで今もずっと一緒にいる。ただ仕事をして家事をしてもらっているわけじゃない。過去でもねえ。今好きだから一緒にいる」
サタンは堂々と胸を張って言う。いつも怒られてばかりだけど、愛は伝わってくる。期待してくれているのがわかる。だからいつも頑張れる。いや、頑張っていないな。
「大魔王のくせに人情溢れること言うじゃないか」
「そういう人情があるから俺はかみさんに惚れられてんだよ」
「自分で言うか。でも僕も、そう思ってくれていたらいいな」
「心配すんな。お前は戦闘能力はともかく人格だけは優れている」
「戦闘能力はともかく? やっぱり戦争するかい? こっちにはレイラがいるんだよ?」
「こっちにもかみさんがいるんだぜ? 怒らせたら怖いぞ?」
どちらも自分で戦う気はないようだ。
「戦争はやめよう。キミの奥さんとは戦いたくない」
「俺も同感だ。お前のかみさん目が笑ってないときあって怖いからな。……というかよ、今日は大丈夫だろうな。今こうして飲んでんのばれねえよな?」
サタンは周りを見渡し、怯えながら小声でヒーロに問う。
「大丈夫だよ。今日は人類の地で祭りが行われている。それに合わせてキミの奥さんとレイラもママ会をしている。抜かりはない」
任せて、とヒーロは笑みを浮かべる。
「いやあ、そんじゃ久しぶりに思っきし飲むか! 日々のストレス解消!」
「解消! はい乾杯!」
ふたりは新しいジョッキを用意させ、互いにカンッとジョッキをぶつけあう。
「つーかさあ、もうホント怖えぇよな。もうちょっと優しくしてくれればやる気出んのによお」
「本当だよ。僕たちは褒められて伸びるタイプなんだからその辺りわかってほしいよね」
「まったくよお! 鬼だぜ! サティちゃんがあんな風にならないか不安だぜ!」
「同感だ! あのままじゃヒイラに悪影響を及ぼす! この辺りで一丁、それぞれ言ってやろうじゃないか!」
「だははは! いいなそれ! 今日こそ言ってやるぞ! あの鬼に!」
「言ってやろう! 鬼退治だ!」
「どうも鬼です」
「鬼の登場ですよ~」
「え」「うそ?」
サタンとヒーロは一気に酔いが覚める。
ふたりの前にはサタンの妻サリィ、ヒーロの妻レイラが立っていた。
「サタン様。私に何か言いたいことがあるのでしょうか」
「今日こそは何を言いたいの?」
サリィとレイラはそれぞれサタンとヒーロに問う。
「うーん、話が違うじゃねえかヒーロてめえこの野郎」
「お、おかしいな……。ふたりともママ会はどうしたんだい?」
「ふたりのおかげで中断だよ?」
レイラの目は笑っていない。
「……どうしてばれたんだい?」
「どうやらうちの娘が祭りでお世話になったみたいですね」
「あっ!」
ヒーロは目を見開く。そういえばと思い出す。この酒場に来る前に祭りに来ていたヒイラとサティに屋台をごちそうした。
「ヒイラが言ったのか!」
「ヒイラは本当に良い子だよね。ちゃんと報告してくれて」
「よくわからんがヒーロ、てめえのせいだな。それじゃあ俺は悪くない。よし、奥様。わたくしめは帰って仕事致します」
「奥様? 鬼の間違いでは?」
「ヒーロは今から鬼退治するんでしょ?」
「…………」
「…………」
もうこれはダメだとサタンとヒーロは悟り、目を合わせて頷く。そして床に膝をつける。
「「何でもしますからお許し下さあああああい!」」
こうして土下座をしたまま、サタンとヒーロは引きずられ、酒場を去って行った。
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