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「ろりーたふぁんたじー」 第19話:究極の2択

「うぅ……気持ち悪い」

 今は船の中。風の地は孤島なため、船で行く必要がある。そのため今私は船に乗っているのだが……。

「おいおいサティ大丈夫かよ?」

 カエンが横になっている私に声を掛ける。

「船酔いってやつだねぇ」

 サンネが心配そうに言い、私の頭を撫でてくれる。

「サティさん、酔い止めのキノコはありますが……」

 リンコはそう言って、手に持っているキノコを私に見せる。

「ちょ、リンコそのキノコしまって」
「ご、ごめんなさぁい!」

 危ない。吐くところだった。どうなんだろう。吐き気を抑えるために酔い止めのキノコを食べたらこの気持ち悪さはなくなるのだろうか。

 まあ、吐くのは決定だろう。それって結局、意味がないのでは……?

「サティちゃん、もうちょっとだよ」

 ヒイラが外を眺め、教えてくれる。

「なんかサティってめちゃくちゃつえーけど、弱っちいところあるよな」

 カエンが笑いながら私に言ってくる。

「……よ、弱っちくなんてないもん」
「でも船ってすごいよね。私初めて乗ったよ」

 ヒイラが私に気を遣って小さな声で言う。

 私も乗ったのは初めてだった。船は木造でできており、6,7人が乗れるほどの大きさだ。

 船の中には小さな小屋がある。私はそこにあるベッドで横になっていた。

「そうだねぇ。サンネはちょっと怖いよぉ」

 サンネは耳を折りたたみながら海を眺める。サンネは前に海に行ったときも海を怖がっていた。

 私は全然怖くないのだが、いや、全然怖くないんだけど!

「オレも海の浅いところならともかくこんな深そうなところに入ったらと思うと怖いな。泳げるけど、体温下がるとすぐ動けなくなっちまうし」

 そっか。たしかにカエンは炎の使い手だから水によって体温が下がると身体機能が落ちるのか。

 うん。こうやって冷静に物事を考えられるから大丈夫。うん、大丈……うっ。

「……前にも思ったけど意外だよ。火の地のカエンが泳げるのもそうだけど、ヒイラやリンコが泳げるなんて。私にはできないから羨ましい」

 私は意識を酔いから遠ざけるために話に乗る。

「前の学校でプールの授業があったからね!」

 ヒイラは笑顔で言う。

「わ、私は家の近くに湖があるので」
「湖で泳ぐの?」

 湖で泳ぐことなんてできるのだろうか。湖には主がいて、泳ごうものならその主の怒りを買って食べられてしまうのではないだろうか。

「小さな湖ですけど、お魚とかが泳いでいてとてもきれいなんですよ」
「へえ、そこなら私も泳ぐ練習できるかな」

 せっかくなら私だけじゃなく、サンネと一緒に泳げるようになりたい。

「はい、できると思いますよ。いつか来てみてください」

 リンコは笑顔を私に向ける。

「よかった。今度一緒に泳ぐ練習しようよサンネ」
「うん、いいねぇ。せっかく水着も買ったからねぇ」
「え? 水着で泳ぐんですか?」

 リンコが目をまん丸くしている。

「え? 逆にそれ以外でどうやって泳ぐの?」

 ああ、小さな湖なら服を着たままでも泳げるのだろうか。

「裸、ですけど」

「裸!? なんで!?」

 思わず起き上がった。リンコは何を言っているんだ……?

「とても気持ちが良いんですよ」

 リンコは何も疑問に思わず、楽しそうに言う。

「そういう問題じゃないと思うんだけど……」

 カエンに連れていってもらったお風呂のときも思ったけど、リンコは意外と大胆だ。肝が据わっている。あの発育の良い体が他の人に見られることに抵抗がないのだろうか。

「気持ちよさそうだねぇサティ」

 サンネもまんざらでもなさそうに言う。

「わ、私は水着を着て泳ぐよ」

 リンコやサンネにも裸を見られるのは恥ずかしい。ましてや他の人に見られたらなんて考えたら……うん、見た人を確実に仕留めるしかなくなる。

 驚きのあまり疲弊した体は余計に酔った。私はゆっくりと横になり、額に手を置く。

「サティちゃんかわいそう。何とかして助けてあげられないかな」

 ヒイラがみんなに声を掛けている。優しい子だ。

「キノコさえ食べてしまえば楽になるんですけど……」
「うーん、みんなでどうにかサティちゃんがキノコを食べられるような作戦を考えよう」
「ふっ、無駄だよヒイラ」

 私は笑みを浮かべる。

「え? どうして?」
「私は何があってもキノコを食べない!」
「ダメだなこりゃ。よし、じゃあまずはオレから! リンコ、キノコをくれ!」
「は、はい。何をするんですか?」

 カエンが意気揚々とリンコからキノコを受け取る。

「食べ物ってのはな、焼けば旨いんだよ。行くぜっ!」

 そう言ってカエンは手に持ったキノコを口から火を出し、燃やす。

 燃えたキノコはより香ばしい匂いを漂わせ――

「おっ、うぅ、えぇ」

 私はえずき、今にも吐き出しそうになった。涙が出てきた。

「ダメか!」
「ダメだよ!」

 私は吐き気を抑え、声を張る。

 私が言うと、カエンはそのまま焼いたキノコを口に入れ、食べた。
 ヒイラが左手に右手の拳をぽんと乗せる。

「わかった! じゃあ次は私だね!」

「お! やってやれヒイラ!」

 カエンが腕を上げ、はしゃいでいる。ヒイラは笑顔で頷く。

「大丈夫。サティちゃん、目つむってて。リンコちゃん、キノコちょうだい?」
「は、はい。どうするんですか?」

 私は言われた通り目をつむる。キノコの匂いに一瞬、吐きそうになったが匂いは少しして消えた。何が起こったんだ?

 私が目を開けると、なぜかヒイラがキノコを食べていた。

「……なにしてるの?」
「これは私が小さい頃、お母さんにやってもらってたらしいんだ!」
「……え?」

 ヒイラがなぜか食べながら私に近づく。

「サティちゃん、口開けて?」

 私が戸惑っているのもお構いなしにヒイラは私に近づき、そして――
 そのままヒイラの食べているキノコを私の口に入れようとしてきた。

「さすがに無理ぃぃぃ! うぅぅぅ!」

 危ない! 本当に吐くところだった!

「あれ? ダメだった?」
「ダメだよ! というか色々問題があるよ!」

 ヒイラは口移しをしようとしてきたのだ。一体、ヒイラは何を考えているんだ。そんなことしたら確実に吐く。というかキスしちゃう!

「うーん、ダメかー」

 ヒイラは肩を落とし、そのままキノコを咀嚼する。

「じゃあ次はサンネの出番だねぇ」

 サンネが楽しそうに言う。

「ねえ、みんな? 楽しんでない? こっちは満身創痍なんだよ?」
「大丈夫だよぉ。これは本当に上手くいくからぁ。リンコ、キノコの形と匂いを変えることできる?」
「あ、はい、できますよ」
「……そんなことができるなら最初からやってよ」
「す、すみません! で、では」

 リンコが魔術を展開させ、手に持っているキノコを光らせる。そしてキノコはりんごへと変わった。匂いもりんごだ。すごい。これなら食べられるかもしれない。

 私はリンコからりんごの形をしたキノコを受け取る。

 ごくりと喉を鳴らす。

「……それじゃあ、いただきます」

 私はりんご(キノコ)を口に入れる。

 おお、触感や香りもそのままりんごだ。これなら――

「うっ、~~~~!」
「サティちゃん!?」

 小屋には綺麗な虹が降った。

「あーあ、吐いちまった。なんで吐いちまったんだ?」
「見た目や香りなどは変えることができても、結局キノコなのは変わらないですからね。味を変えることができませんよ」

 リンコが何となしに言う。

「そうなんだ! それなら吐いちゃっても仕方がないね!」
「仕方ないねぇ」
「感心してないで助けっ、~~~~!」

 結局私は船の上で盛大にやってしまった。

 もう嫌だ。キノコ本当に嫌だ……。
 嫌いというよりもはや、トラウマになった。その日以降、りんごも喉を通らなくなった。


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