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「転生したらVの世界に」 第9話:プログラミング世界

 13時過ぎ。スターリースカイの事務所。俺は少し遅れてやってきた。

「遅刻よ」

 事務所の手前、扉の前にヒョウカが腕を組み立っていた。

「悪い。というか、なんでお前はここにいるんだよ。中入ってろよ」

 俺がそう言うと、ヒョウカはふんと鼻で笑う。

「私にひとりで入る度胸があると思う?」
「そんな誇らしげに自分を卑下するな」

 俺は苦笑いを浮かべる。

「それで、何してたのよ」
「プログラミングの勉強してた」
「なにそれ?」

 ヒョウカは聞きなれない単語を聞いて首をかしげる。

「ほら、扉を開くとなんか変な空間があるだろ? プログラミング言語が浮かんでる空間。そこで使われてる言語を知って、まずはその初歩から勉強してたんだ。これが結構、難しくてさ。でも、やりがいはある」

 俺が自慢げに言うと、ヒョウカは眉をしかめる。

「あなた、何を言ってるの?」
「え、いやだから、扉を開けた先にあるやつがさ」
「扉は移動場所を指定しないと開かないでしょう」
「は?」
「私も最初にこの世界に来た時にすぐに出ようと扉を開けようと思った。でも、鍵が閉まって外に出られなかったわ。あなたもそうでしょう?」
「……俺は、扉を開けられるぞ?」

 鍵なんて最初からかかっていなかった。たしかに移動場所を指定せずに扉を開ければエラーの表示が現れる。でも、それはそういう仕様だと思っていた。

「間違いないわ。私もさっき移動場所を指定せずに扉を開けようとしたら鍵がかかって出られなかった」

 ポンコツだなとツッコミたいところだが、俺も大概だし、それよりも気になることがあった。

「……人によって空間が別なのか?」
「あなたの頭の中がおかしいだけじゃない?」

 それは否定できない。そもそも今の俺は自分が何者なのかも分かっていない。バーチャルライフという世界に生きている。でも、ヒョウカもそうだ。バーチャルライフの世界の住人で、変な世界に生きている。

 謎は深まるばかりだ。

 でも、おそらくヒョウカがおかしい訳じゃない。

 俺がおかしいのだ。
 エラーが発生するような場所に簡単に入れる方が不自然だ。

 あのエラーは一体何なんだ。
 どうして俺はプログラミング世界を覗くことができる。

 俺は、何者なんだ。
 俺が熟考していると、スマホから通知音が鳴った。

 代表からの催促の連絡だ。

「ほら、行くぞ」

 今はとにかく活動のことに専念しよう。
 俺にとっての初めての動画がどうなっているか見てみたい。

 俺は一旦、思考を止め、ヒョウカとともに事務所に入って行った。


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