「赤い糸を盗る」 第8話:チャンス
夜23時。真っ暗な部屋にひとりの人間。
狐人は自室のベッドで転がる。メッセージアプリに通知が来ていた。
そこら辺にあるスマホを手に取る。メッセージを読み、無言、無表情でメッセージを返す。ついでにスケジュールアプリを開く。
「明日は生徒会がない。サッカー部は部活動がある。そうだな――」
スケジュールアプリを見たところ、ちょうどスマホからメッセージが届いた。
「うん?」
メッセージアプリを開く。
『銀杏です。黒崎さん、例の件本当に協力してくれるの?』
ああ、と小さな声を漏らす。
『もちろんだよ。キミの運命の相手、僕はその正体を知ってる』
『教えて』
単刀直入に竜美は問うてくる。
『協力してと言ったでしょ? 僕の恋路を協力して、叶ったら教えてあげるよ。そして必ず、その運命の恋を実らさせてあげるよ』
『まだ、あなたのことは信用してません』
『ひどいな。僕はキミのことを信用しているよ。だって、キミのことは転校する前から知っていたからね』
『どういう意味?』
『それも僕の恋路を協力してくれたらってことで』
狐人は笑みを浮かべ、スタンプを押す。
『4人で昼食を摂ることが協力になるの』
『うん、そうだよ』
『それだけ?』
『うーん、今度、虎太郎の部活がないときに一緒に出掛けてもらったりはするかな』
『……わかりました』
『それじゃあ、よろしくね』
「そうなんだよなぁ」
狐人は怠い体を起こす。
「チャンスなんだよ……」
狐人は芽衣のことを考えていた。我ながら上手くいったと狐人は笑みを浮かべる。これで朝だけじゃない、昼休みの間も話せる。
今頃、芽衣は何をしているのだろうかと狐人は気になっていた。
スマホのメッセージアプリを開く。そこには芽衣の連絡先があった。連絡先を聞けただけでも収穫だった。しかも明日から一緒にご飯を食べられる。臆してしまい何も話せないのではないかと不安になる。
狐人は思い出す。
芽衣の笑顔、首を傾げる姿、イタズラな笑み、授業中の真面目な表情。
そのどれもが狐人を幸せにするものだった。
もし、その笑顔を毎日、見ることができたらどれだけ幸せだろう。
狐人は芽衣とほぼ毎日話している。
しかし、それが明日からは確実に毎日話せる。
狐人は気分が浮かれたまま、今日一日を終えた。
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