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干されるから、美味しい。

 故郷は東北地方・福島県の片田舎、特産は干し柿だ。丹精に皮を剥きビニール紐に吊るされた柿が幾重にも連なるオレンジ色のカーテン。地元では毎年恒例だが、近年メディアや全国ニュースでこの干し柿カーテンが注目され、ちょっとした風物詩になりつつある。

 秋の朝、ご近所さんの庭先で少し酸っぱいような、発酵した香りがしてくると、「あ、作り始めたのだな」とわかる。

 柿の皮を剥いたら、実は吊るし、皮は畑に積んで肥料にする。山盛りになっていた皮の山はだんだん発酵して朽ちて、雪が降る頃にはだいぶ嵩が減り、土に還る。今思えば、こうして循環していくのだな、ということが実体験で理解することができた。

 市場に出回るのは、熟練の作り手が丹精こめて作った、だいだい色が鮮やかで口当たりしっとり柔らかく、美しい干し柿。今でもスーパーに陳列しているのを見かけると「おお、きれいだなあ!」と羨望のため息がでる。

 我が家は自己流干しっぱなし式だからしわしわと固く、色味もくすみがち。美しく仕上げるためにはとにかく手間と工夫とコツが要るのです。

 小さい頃は干し柿があまり好きではなかった、むしろ嫌いだった。ひたすら甘いだけで、あまり美味しくないと感じていた。

 「おやつに干し柿あるよ」と勧めてくれた祖母に「食べなくなーい美味しくなーい」と言っていた自分の幼さよ。

 大人になって地元を離れ、帰省した折に叔母が「干し柿あるよ」と勧めてくれた。

 久しぶりに食べた干し柿は、じんわり優しい甘みで、噛みしめるたびにじゅわじゅわりと香ばしい果汁が滲み出る。生の果物には持ち得ない、天日に干したからこその旨味、滋味。

 おばあちゃんごめん、干し柿すごく美味しいよ。小さい頃はスナックとかトッピングできるチョコとか、刺激的なお菓子が好きだったの(もちろん今でも好きだけど…!)。大人になって色々あって、歳も取って分かったよ、干し柿の味わい深さ…!フレッシュさだけじゃなくて、干されて良くなること、あるよね…!

 色々な思いが去来した私があまりにも美味しい、美味しい、と言うので料理上手の叔母は「もし良かったら」と、クリームチーズと胡桃と和えた、前菜風干し柿も出してくれた。

 なんだお前、素朴な普段着も良いけど、ドレスアップしたらすごくカッコいい&美味しいじゃん…!お酒のアテにもめっちゃ合うじゃん…!

 着色料は使わずに、太陽と風と人の手がじっくり拵えた、ねっちり柔らかで優しい味わいの干し柿。お子様はもちろん、色々な経験を積んで、酸いも甘いも知った大人にこそ、より一層味わい深く感じられる滋味深さなのかもしれません。

まだ食べたことないよ、という方は、よろしければ一度手に取って、ぜひご賞味ください。干されたからこその美味しさが味わえます。

#ふるさとを語ろう   #福島県

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