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研究書評:地域間における教育格差について

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STUDYINFO 「Finnish education system」(閲覧日6月29日)


岩竹美加子 (2018)「フィンランドの教育、日本の教育」

南山大学ヨーロッパ研究センター報 第 26 号 pp.1‒23

https://rci.nanzan-u.ac.jp/europe/ja/journal/item/01_%E5%B2%A9%E7%AB%B9%E7%BE%8E%E5%8A%A0%E5%AD%90.pdf


<内容総括・選択理由・内容批判>

 今回は前回同様、制度についての知見を深めるため、フィンランドの学生支援金融である「STUDYINFO」を取り上げた。またフィンランドでの基礎的な知識を身につけるため、岩竹の論文を参考した。フィンランドの教育制度について取り上げた主な理由は日本の奨学金制度との比較を行うためである。OECDが公表している「OECD Better Life Index Education」によるとフィンランドの教育水準は世界1位となっており教育制度が日本よりも充実していると考察した。結果としてフィンランドでは、他のヨーロッパ諸国と同様、義務教育から大学院まで授業料が無料であることや、給食費が無料など金銭的な面で進学を辞退するという例があまりないという特徴があることが分かった。


<内容>

 まずSTUDYINFOの制度についてまとめる前にフィンランドの教育制度についてまとめていく。フィンランドでは「幼児教育」、「プレスクール」、「基礎学校(小・中学)」、「普通/職業高校」、「大学/大学院進学」と区分が分けられている。次にそれぞれの特徴についてまとめていく。幼児教育・プレスクールは日本における保育園であり、幼児教育では保護者の収入に応じて有料となっているが、2018年時のヘルシンキでは高収入であっても290ユーロ(約34,800円)が上限となっていることから比較的安価であることが分かる。次に基礎学校についてまとめていく。大きな特徴として偏差値や学力テストがないことである。これはフィンランドで大事にされている「自分らしい成長」の考えからだと述べられている。また入学式、運動会などの学校行事はなく、部活動も行われていないことが特徴として挙げられるだろう。普通/職業高校では基本的に普通高校に進学する人が多い傾向がある。またフィンランドでは受験(高校入試)がなく、中学の時の成績と生徒の志望によって進学がきまるという特徴がある。また決められた時間割はなく、日本における大学のように時間割は個人で決めていく。大学進学の際は全国的なテストがあるが、試験の科目や科目数は個人が決めることになっている(最低4科目)。職業学校では電気、食、調理など専門的な知識を身に着けることができ、そのまま就職活動を行う人が多いのが特徴である。日本における専門学校とは違い、就職に強いことも特徴である。また教員になる人は修士号が必須となっており、大学だけでなく、大学院に多く進学するのがフィンランドでの教育の特徴であるだろう。

 これらのことを踏まえて奨学金支援制度について説明していく。フィンランドでは給付型支援が主に取りいられており、授業料、給食費(保育園から高校まで)が無償化されている。他にも鉛筆などの文房具や教材も高校生までは無料となっていることから教育に向けたサービスが幅広く行われていることが分かる。公立学校は県ではなく自治体が運営し、私立学校も公的資金で行われているところから、公立・私立による格差はあまり見受けられないことが分かる。

また、フィンランドは留年に関して寛容であり高校卒業後1年間アルバイト経験するなど誰にとっても勉強しやすい環境作りがされていることが分かった。


<総括>

 今回の書評から、フィンランドでは教育において「子供の平等」、「自分らしい成長」という考えが重要視されていることが分かった。加えて日本のように貸与型ではなく、給付型支援が主に取り組まれている背景として「子供の平等」があると捉えることが出来るだろう。しかし競争意識が育たない危険性や平等意識が強いためエリート的存在が生まれづらいなどの側面があるのではないかと考えられる。また部活動がないことなどから運動能力が経済力や家庭環境によって格差が生まれる危険性があると考えられるだろう。次回は中間発表の為、今まで書評を行ってきた内容をまとめつつ今後のスケジュール等を発表できたらと考えている。

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日本学生支援機構「進学後(在学採用)の給付奨学金の申込資格」

https://www.jasso.go.jp/shogakukin/about/kyufu/shikaku/zaigaku.html

日本学生支援機構(2020)「令和元年度奨学事業に関する実態調査報告」

https://www.jasso.go.jp/statistics/shogakukin_jittai/__icsFiles/afieldfile/2021/09/28/result2019_1.pdf

 

<内容総括・選択理由>

 今回は書評とは違い日本学生支援機構による給付型奨学金についての詳細についてまとめていく。今までは論文を扱ってきたが、書評をしていく中で「給付型奨学金」と「貸与型奨学金」の条件の違いや受給方法について勉強をするべきだと思うようになった。また書評を行った結果として条件の厳しさについて理解することが出来た。そして内容を理解することで今後地方から進学する障壁をどのように取り除くことが出来るのか研究していきたい。

<内容要約>

 日本学生支援機構(2020)の令和元年度調査によると、大学、大学院、短大・高専、専修学校において奨学金利用者は120万人超えていることが分かる。この結果は平成28年度時と比べ減少と傾向となっているが、回答率が減少していることから問題が解決してきているとは考えづらいことが現状である。またその内訳として公益団体からの利用者が1番多いことが分かる。そして内訳としては貸与型奨学金に比べ、給付型奨学金を利用する人が増加しているというデータから給付型が全国的に浸透してきているのではないかと考察することが出来るだろう。次に日本学生支援機構による給付型奨学金制度の問題点は何かまとめていく。

 給付型奨学金の問題点として「条件の難しさ」、「利用額の限度」を挙げることが出来る。給付型の利用者数は令和3年度給付型奨学金の新規採用者数は、12万8063人となっており、貸与型の第一種奨学金は約18万人、第二種奨学金は約21万人が採用されていることから募集枠が少ないことが分かる。また年に1度「学業」、「世帯の経済状況」からの適格認定がある。これは学業においてはGPA(平均成績)等が下位4分の1の場合などの成績不振や素行不良があった場合「警告」処分となり、連続して警告処分になると受給が廃止される。また給付型には世帯収入によって金額に違いがあり3区分に分けられているが[1]、最も多く支給されるのが国公立の場合自宅通学で毎月29,200円、自宅外通学では66,700円であり、私立大学においては自宅通学では38,300円、自宅外通学では75,800円になっており、学費を賄えるほど支給されないことが分かる。制度して貸与型との併用が可能となっているが、アルバイトで所得が増えすぎると支給が停止されてしまうことがあることから条件が厳しいことが分かる。加えて収入条件を満たしていても資産基準があり、申し込み日時点の学生本人と生計維持者2人の資産額合計が2000万円未満となっている。

<総括>

 今回の書評から貸与型に比べ、給付型奨学金の制度数、利用者数が多いことが分かった。だが給付型のみでは支援が足りているとは考えづらく貸与型奨学金との併用が最も多いのではないかと考えられる。次回では他国の奨学金制度と比べ、日本の制度との相違点や参考できることがないか模索していきたい。



[1] 第1区分:家族全員の市町村民税所得割が非課税

第2区分:家族全員の支給額算定基準額の合計が100円以上2万5600円未満

第3区分:家族全員の支給額算定基準額の合計が2万5600円以上5万1300円未満

支給額算定基準額: 課税標準額×6%-調整控除額で求めることができ、マイナポータルサイトで確認することが出来る。



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田垣内義浩 「高等教育機会の地域間格差に関する研究動向と展望」

https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/record/2000585/files/edu_60_35.pdf

<内容総括・選択理由>
 今回取り上げた論文は、これまでに発表されてきた高等教育機会の地域間格差に関する研究動向を整理したものであり、現在の課題や今後の展望について論じられた内容となっている。これまで地域ごとの大学格差の現状、遠隔型講義の導入意義、貸与型奨学金と大学進学の関係についてまとめられた論文について書評を行ってきた。だがどのような解決策があるのか未だ不透明であり、研究を進めることが出来ていないのが現状である。そこで今回選択した論文では数多くの研究がまとめられていることから、「都道府県間」という
 枠組みに限定して捉えられてきたことなど課題を明確化することにつながったと感じる。


<内容要約>
 戦後日本では高学歴化が急速に進展し、大学進学率は54.7%に至っている。しかしこれは普遍化しているわけではない。実際に京都(65.9%)や東京(65.1%)などの大都市圏に比べ、沖縄(39.6%)や鹿児島(43.3%)など地方県では50%に届かない県も数多く存在していることが分かる。そこで今回の論文では「高等教育機会の地域間格差の趨勢」、「高等教育機会の地域間格差が起こる背景」、「地方分権政策の影響」のそれぞれの視点から多くの研究論文を用いて分析が行われた。

 地域間でみられる進学率格差の水準がこれまでどのように変化してきたかについては地域ブロック別に標準偏差や変動係数を用いて研究された論文が挙げられていた。そこから標準偏差を用いた分析結果は地方分権政策により三大都市圏の収容力・進学率 が下降し地域間格差の縮小につながった(地方で教育機会が拡大したわけではない)と結論が出されている。だが、変動係数を用いた分析結果からは大学進学率が減少、停滞、再上昇がすべての地域ブロックでみられたため、大学進学率の格差は安定して推移していると論じられていた。

 次に高等教育機会の地域間格差の背景についてまとめられた。そこでは人的資本理論の枠組みを援用し大学教育投資の金銭的便益の要因から分析され、相対賃金(大卒賃金/高卒賃金)が小さい県ほど県外進学や大学進学率が高くなっているという結論に至った内容の論文が挙げられていた。これは大都市圏に進学することで選択肢が増えるからだと考察されている。他にも社会経済的要因と大学収容力、高校教育システム、地域の教育文化の視点から分析した内容が挙げられていた。そこで環境の視点で重要となる高校教育システムと地域の教育文化に関する研究の蓄積がされていないという課題点が浮かび上がる結果となった。

 地方分権政策[1]については1970年代後半~1980年代にかけて地域間格差が縮小したことから政策の効果があったと論じられている内容が見受けられた。しかしこの結果は大都市部における進学率の停滞を受けたものであり、大都市部に大学進学時の「意図せざる不平等」が生まれたと分析されている。また「大都市圏への学生集中是正方策」が検討されているが、地方県の進学率が拡大するわけではないとまとめられていた。

 <総括>
 数多くの論文から考察されていたことでデータが良くまとめられていたが、地域間だけでなく、地域内の分析も進めていくべきだと感じた。
 データから「意識」の検討は難しいと最終段落で述べられていたように、教育機会格差を研究していくうえで「意識」の視点はとても大切だと感じる。


[1] 地方分権政策:1976年から適用された『高等教育の計画的整備について』から実質的に開始されたものであり、地域別の収容力や進学率の格差を是正しようとした政策。

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藤村正司「大学進学に及ぼす学力・所得・貸与奨学金の効果」

https://ump.p.u-tokyo.ac.jp/crump/resource/crump_wp_no16.pdf

<内容総括・選択理由>
 今回取り上げた論文は、大学進学において学費負担が深刻となっている中、貸与奨学金が大学進学に対しどのような影響があるのか論じられた内容となっている。前回では地域間での進学格差や大学進学率の現状について論じられた論文を取り上げ、書評を行った。そこで地方間での大学進学に関する格差があることが理解でき、「大学進学」、「奨学金制度」、「教員不足」の三つを軸にして研究を進めていくべきだと感じた。本稿ではデータを用いて「大学進学」、「奨学金制度」について論じられていたが「教員不足」や「大学の質」についてあまりまとめられていないと感じ、今後はこの2点について研究をしていくべきだと感じた。

<内容要約>
 取り上げた論文では全国の高校3年生(4千人)とその保護者からなる個票データを基に高校生の進路選択が親の年収や兄弟、本人の成績、そして地域などの条件によってどの程度影響を与えているのかについてまとめられた内容となっている。藤村によると、「大学全入時代の到来」と呼ばれる誰もが希望すれば進学できるという考えは大学進学の意志決定を個人の選好問題に帰してしまい、公的な問題であることを隠蔽していると述べている。また所得と国立大学の関係性からみる国立大学の役割について、貸与奨学金が大学進学の意志決定においてインセンティブになっているのかどうかについて論じられている。
 分析としては家計所得と学力と大学進学、学力と貸与奨学金、貸与奨学金と大学進学のそれぞれの関係性についてまとめられたデータから基本モデルを作成し論じられている。そこで大学進学が学力だけで決まるのであれば50%の人が進学できるはずだが、18 歳人口の減少による合格率の上昇と家計負担上昇から進学できていないということが説明されている。また国立大学が低所得層の受け皿になっていると考えられているが、これは女子・自宅通学者について言えることであり、サンプル全体では年収のマイナス効果10%水準で支持される程度だと考察されている。また貸与奨学金は「大学志願予測確率対経済的に勉強継続困難確率」と「大学進学予測確率対経済的に勉強継続困難確率」から入学前にあらかじめ財政的な手段によって大学志願・進学確率を上げておけば、入学後も経済的理由で不本意に退学する学生が救われると考えられている。これは奨学金を受け取ることで大学に志願する確率が17%、進学する確率が12%程度増加することからも考察することが出来る。

<総括>
 今回の論文から家計所得による格差が大学進学機会にきわめて大きな影響を与えているという問題や、「大学/それ以外」においての学力格差、貸与奨学金制度が大学進学のインセンティブになっていることなどを学ぶことが出来た。しかし、解決策に対しどのような課題があるのか明記されていないと感じ、今後の研究において解決策を講じる際の課題についても考察するべきだと感じた。


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寺町晋哉「大学進学における「地方」と「性別」の「足枷」」『学術の動向』27巻 76頁~83頁

<内容総括・選択理由>
 今回取り上げた論文は、2021年度における大学進学率に関し、「地方」、「性別」の2つの観点から分析された内容となっている。前回の書評では奨学金制度についてまとめられた論文の書評を行ったが、教育の機会格差を研究するうえで改めて深く格差の現状を調査するべきだと感じ、この論文の書評を行うことにした。またこの論文から進路選択には地方間格差が存在することが理解でき、奨学金制度とはまた違う政策提言を考察する必要があると感じた。

<内容要約>
 2021年度のデータから、高校卒業後4年生大学への進学率は男性で57.4%、女性で51.3%となっており、二人に一人以上の学生が進学していることが分かる。また女性の進学率が男性の進学率を上回っている都道府県は徳島県と沖縄県しかなく、明確な男女格差が存在していることが理解できる。加えて、九州や東北地方に住む男子学生の進学率が大都市圏に住む女子学生の進学率に比べて10%以上低くなっており、地域間格差が存在していることが分かる。そしてこのデータから性別による格差と比べ、地域間格差が深刻な問題であることが挙げられている。地域間格差の問題は他のデータからでも読み取ることが出来る。朴澤(2016)によって作成された「地域別にみた大学進学先の割合」によると、外縁地方と中間地方との間で格差があることが紹介されている。これは外縁地方では大都市圏より県内進学の割合が高くなっているが、中間地方では県内よりも大都市圏進学の割合が高くなっているところから実態が多様化していることが理解できる。さらに大学進学の格差は都道府県内でも起こっている。轡田(2017)によると、広島県の府中町では大卒・大学院卒の割合が41.1%であるのに対し、広島県の三次市は28.1%となっている。これは県内の大学・短大の数の少なさ、高校においては非都市部では若手に偏った構成になっていることや学生全体への指導が困難になっているという複合的な理由があると述べられている。また地方の女性にとって大学進学をあまり望まない保護者が一定数いることが紹介されている。これは地方では学歴による就職格差にあまり違いがないことや、大学進学貸与型奨学金を背負わせたくない、結婚や出産により、大学進学に関わらず生涯正規雇用で働くことが出来る保障がないことが挙げられている。

<総括>
 今回の論文から地方間での大学進学に関する格差があることが理解できた。また、地方に住む女子学生には家庭環境によって他県と比べ進学という選択を取ることが難しくなっていることが分かった。地方における教育の機会格差を研究していくうえで、「大学進学」、「奨学金制度」、「教員不足」の三つを軸として進めていくべきだと感じた。


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大金 正知 「日本の奨学金制度についての研究 : 政策制度と公共政策規範との関係性に関する一考察」『公共政策志林』10巻 155~168頁

 

<内容総括・選択理由>
 今回取り上げた論文は大学や高等教育への就学を支援する政策制度の一つである奨学金について論じられた内容となっている。今までは遠隔型など授業の手法の観点から分析してきたが、今回は経済的理由の深堀として奨学金について研究書評を行った。主な理由としては教育機会を格差には奨学金制度の仕組みが深く関係しているのではないかと考察したからである。また今後は海外の奨学金制度についても調査していく予定である。

<内容要約>
 我が国の大学等高等教育の就学に対し、機会均等を公的に支援する仕組みとして「奨学金」と呼ばれる政策制度がある。これは独立行政法人日本学生支援機構が主に行う貸与型奨学金制度のことであり、2019年度のデータから全就学生の約4割にあたる127万人の学生が一人平均約340万円の奨学金貸与をうけて就学していることが分かる。またこのデータは他のOECD諸国と比べ高い比率で貸与が行われていることを表している。しかし2020年の新型コロナウイルスの影響を受けた学生への支援状況等に関する調査によると、奨学金の返済困難を理由に少なくとも5238人の学生が中退するという報道があった。2017年度から給付型奨学金制度の導入を行っているが、全体で3%ということもこのことから奨学金には正と負の側面があることが理解できる。大金はこのことを深く研究するため政策規範の認識フレームワークについて論じている。そこで我が国では功利主義を重んじることで資金供与効率性や制度継続性を重んじていることが理解できた。しかし、経済的困窮者に対する支援制度という本来の意味が薄れてしまっていると考察されており、両義性について論じられた。またこの分析から教育機会においての支援策であると同時に金融制度である奨学金制度は、双方の考えに偏らず政策規範の認識フレームワークにおいて何が最も重要な価値かを問い続けなければならないと述べられている。そして今後奨学金制度の制度改善をしていくうえで、奨学生や返済を行う奨学金受給対象者の代表を諮問委員としてて政策改善検討委員会に加えることを検討すべきだと論じている。

<総括>
 今回の論文から日本での奨学金制度について深く理解することが出来た。今後は海外との奨学金制度との比較から改善策を考慮していきたい。


5/18

廣森直子・宋美蘭・上山浩次郎・上原慎一(2022)
選択した論文:『青森県における高卒後の進路状況に関する研究 ― 地域間格差,ジェンダー差に着目してー』北海道大学大学院教育学研究院紀要140巻 337~351頁

<内容総括・選択理由・内容批判>
 今回選択した論文は青森県での高校卒業生の進路を地域間格差、ジェンダー格差の観点からまとめられた内容となっている。結果として、男性ほど就職率が高く女性ほど進学率が高いということが明らかになった。また、進学率が高い地域と低い地域があり、「二極分化」の傾向があることも分かり、地域間格差が存在するということが分かった。
 この論文を選択した理由は前回の中間発表で、より先行研究を行うべきだと感じたからである。また秋田県での教育機会格差についてまとめられていた論文を書評していたこともあり、同じ地方での教育機会格差を研究できると考えたからである。
 論文内では多様なデータを用いて調査されているが、数値のみでの研究を行っていることから学生の心境や教育機会格差に対する不安などを感じているのかについて調査するべきだと感じた。

<内容>
 この論文は都道府県間の格差を研究するのではなく、青森県内の状況を明らかにするための研究が行われている。これは青森県において経済状況や雇用状況非常に厳しいと言われており、先行研究での20~30代を対象にした調査では「一家の生計を支えるのはやはり男の役割だ」という項目が約半数肯定されていることからジェンダー格差も存在していることが分かる。
そこでまず青森県内の進学率と就職率を比較した。結果によると1990年代初頭の就職率は50%以上、大学進学率は10%程度であったが、現在の就職率は30%以下、大学進学率は40%以上となった。次に地域ごとの高等教育機会について調査された。大学数は現在11校あり、青森県内の三大主要市である青森市、弘前市、八戸市に10校あることが分かった。また青森県教育委員会「県内大学・短期大学の 学部・学科系統分類表」から国立大学のある中南地域、私立大学が複数ある中南、東青、三八地域で分野の偏りがあることが明らかになり地域間での格差があることが明らかになった。次に高校生の進路状況について調査された。結果としては、進学率が高い地域の高校は偏差値が高く、進学率が低い地域では高校偏差値が低くなっていることから青森県内で「二極分化」が進んでいることが分かる。

<総括>
 今回の論文から秋田県と同様、主要都市と他地域の間で進学率に差があることが理解できた。また、進学率から教育機会格差があることが理解でき、どのような解決策があるのか模索していくだと感じた。


4/27

「秋田県内における教育環境格差と地域交通コスト格差」
秋田大学教育文化学部研究紀要 人文科学・社会科学、78巻、1~8頁
荒井壮一  鈴木拓馬

<内容総括・選択理由・内容批判>
 今回選択した論文は秋田県内での教育格差の観点を世帯ごとの経済的面、交通コストの2つの視点から分析した内容のものである。今まではテレワーク、遠隔授業など授業形態に着目した内容の論文を取り扱ってきた。だが、今回のこの論文を選択したのは教育格差を研究するにあたって問題点を再考したいと考えたからである。
 研究結果として経済的な影響による教育格差よりも交通コストによる進学率格差が進んでいる可能性があるとまとめられていた。少子高齢化による人口減少により経済規模が縮小されていくのは明確なため、地域交通システムを再構築するのは難しいのではないかと感じた。

<内容>
 この論文は秋田県の市町村レベルにおいての進学率格差に着目し、所得格差、交通格差との関係性について研究された内容となっている。
現在秋田県では巡回バス等の地方の交通手段が縮小されている。これは路線バスの利用者の減少から平成 19 年の 571系統から令和元年の 263 系統へと減少された通り、採算性や財政支援の困難から公共交通政策が見直されたことが大きな理由である。荒井と鈴木はこの点に着目し、教育との関係を研究した。研究方法は主に都道府県ごとの大学等進学率と全国学力調査の結果を回帰させた結果からの分析、市町村間によるマクロ的な環境格差の分析が行われた。
1つ目の分析結果は他県の平均的な傾向とは違い、成績と進学が相関関係ではないことが分かった。これは秋田市等中心部への行きやすさ、教育が熱心な世帯などの周りの環境が影響していると考えられる。2つ目の分析結果では、男女の大学進学率は地域の所得水準とは直接な関係がないことが明らかになった。また交通が不便な地域では進学率が低迷していることから、交通による教育格差が拡大する可能性が示唆された。
以上より所得格差よりも交通面による進学率格差が示唆される結果となったことが分かる。また今後はより詳細なデータを得るため、路線バスの待ち時間などより交通コストに着目した研究をしていくと述べられている。

<総括>
今回の論文から地域の教育格差を研究するうえで所得水準の観点だけでなく、交通面などの視点も必要だと感じた。冒頭でも記述した通り少子高齢化が今後も進行していくのは明白なものである。そこで、若者の教育の機会を守るには遠隔型やアプリの利用による教育は有効的ではないだろうか。



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