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サル日記 その3・鳥肌が立つ

「ギャラリーストーカー 美術業界を蝕む女性差別と性被害(猪谷千香・著)を読んだ。

『なぜ、美術業界において、性暴力やハラスメントが横行してきたのか(中略)美術業界の抱える暗闇に迫る。』(まえがきから引用)というノンフィクション。

丁寧な取材にもとづく力強い筆致に引きずり込まれ、一気に読んだ。
この本によって暴かれた現実のおぞましさや理不尽さに、途中何度も鳥肌が立った。

去年退職するまで、私は化粧品会社で35年間働いた。

よく「女性の多い会社で働きやすいでしょう」と言われた。
そりゃあ女性は多かった。
美容部員がいるからだ。
一方で営業は、男性が多かった。

本社のマーケティング部に異動してからも、やはり女性は多かった。ただ、商品企画や施策立案をするヒラ社員には女性が多かったが、その提案を決裁したり評価する側は、圧倒的に男性が多かった。
その後、だいぶ変わったが、平成の前半くらいまでは、まだまだそんな感じだった。

前出の本と一緒だ。権力勾配で言ったら、圧倒的に男性が上位にいた。

マーケに異動してから、派遣社員の女性と仲良くなった。ある日、一緒にご飯を食べていた時、「今となってはもう笑い話なんだけど…」と言って、衝撃的なことを教えてくれた。

隣のグループのリーダーに、誘われたことがあったと言うのだ。
あちらはもちろん、妻帯者。
小心者で、部下のハシゴもハズすような奴だと言われ、人望が無く嫌われていた。
ある日そいつから

「あなたに憧れています。今度、食事でもいかがですか」

とメールが送られてきたというのだ。

き、き、きもーーーい!
思わずゾワっと寒気が走る。

「そ、それで?どうしたの?」
「…イイですね!『みんなで』ワイワイ行きましょう…って返信したら、その後は何も言ってこなくなったよ」

その時は、彼女の機転と相手の小心さに、なんとか救われたようだ。
でも、もし相手がもっと執念深いヤツだったらどうなっていただろう。
純粋に憧れてたんだ、恋心だ、とでも言うのか?オメーは妻帯者だろうが!しかも彼女は直属ではないが、部下である。さらに非正規社員。
…どす黒くゲスな思惑が感じられてならない。

彼女は笑って話してくれたけど、本当はもっともっと、恐怖と怒りに震えたんじゃないか?そして深く傷ついたのではないだろうか。

私も美容部員の時、大っ嫌いな営業課長がいた。
「オマエは彼氏と週何回や?」
「ブラとかしてんの?まぁその感じじゃAカップだろ?」

高卒で就職した私は、その時、まだハタチになるかならないかだった。
父を早くに亡くし、大人の男性がいない家庭で育った私に、父親に近い年齢の男が、それらのえげつない言葉を浴びせてくる。恐怖と怒りに思考停止して、大人の対応なんてうまくできなかった。

そいつは私以外の女性社員に対しても、だいたいそんな態度だった。そして意外と多くの先輩たちがヤツをうまくあしらい、部下として可愛がられた。

「なんでもかんでもハラスメントだって騒いで、窮屈な世の中だよな」というようなことを言うヤツが、いまだにいる。
男でも、女でも、いる。

じゃあ、聞くけどさ、

オマエはオマエの娘や息子に、

「いいか、この先もし社会に出て、就職先の上司に、初体験の年齢やスリーサイズなんかを聞かれたら、笑ってなんでも答えてやれよ!そして円滑なコミュニケーションをはかって、職場のムードメーカーになれよ!」

…なんて言えるのか?

ふざけんな、
そんなの、
仕事に関係ないじゃない。

私には子供はいない。
子供はおろか、結婚さえしていない。
でも、子供たちに、そして若者たちに、
この社会で生きていくためには、そんな犠牲を払うことが必要だなんて教えたくないし、
そんな社会はいやだ。

あたしゃ嫌だね
やなこった(なんか浅香光代みたいになった)

ところで話しは変わるが、
私は最近、図書館で本を借りることにしている。
「ギャラリーストーカー」も図書館で借りた。人気の新刊は予約が必要だが、これも2〜3ヶ月待ちで借りることができた。

図書館には、書店とはまた違った魅力があるなぁと思う。

子供の頃は近所の図書館に通い詰めていた。だいたい児童書のコーナーに入り浸っていたのだが、一般書エリアに立ち寄って、必ず目を通すものがあった。

それは文庫本のコーナーにあった、角川文庫刊の横溝正史のシリーズだ。
私はこれの「表紙」を眺めるのが大好きだった。

物語の世界観を表現した、妖しく奇怪な絵画による装丁。
これが怖くて怖くて、
でも怖いもの見たさで見たくて見たくて。

ゾワーっと鳥肌を立てながら、見惚れていた。

特に好きだったのは「本陣殺人事件」の女の子の顔の上に猫の目が重なってるやつ。
あと、「病院坂の首縊りの家」の南部風鈴に目玉が浮き出てるやつも、怖くてたまらなかったなぁ…

別に借りるわけでもない。ただ取り出して眺めては、またカタンカタンと書棚に戻して帰っていく、奇妙な子供であった(苦笑)

最近また、横溝の文庫が続々と復刊している。
新刊を図書館で借りながら、こっちの復刊文庫はつい買ってしまうのである。

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