#21『ほんとにあった夢十夜②』

 こんな夢を見た。
 ある夏の日の夜のことである。気が付くと私は肝試しの準備をするために、真っ暗な土手の上を歩いていた。この場にいるのは私だけではない。農道と土手を結ぶコンクリートの階段を、帽子を被った幽霊達が昇り降りしている。どうやらこの肝試しのミッションは、この帽子幽霊に触ることらしい。
 私が階段の下見をしていると、いつの間にか本番が始まってしまっていた。早く退かなくでは参加者に迷惑が掛かってしまう。私は急いで階段を降り、田畑の方へと向かった。その最中、すれ違う人々が皆一様に私の肩に触れてきた。私のことを幽霊と勘違いしているのだと察すと同時に、参加者の目が漏れなく虚になっていることにも気が付いた。自分で肝試しを企画しておきながら、参加者に対して恐怖を感じるとは何事か。
 「私は主催者だ!幽霊ではない!」そう叫びたくても声が出ない。私が見る夢はほぼ確実に声が出せない仕様になっている。喉からただ空気が漏れ、口蓋垂を刺激するだけである。口をパクパクさせながら大慌てで階段を駆け降りると、1人のおじさんとすれ違った。今までに会った参加者とは年齢が2回り以上違うのが、火を見るよりも明らかである。もしかすると、間違えて肝試し会場に迷い込んでしまったのではないかと思い、急いでおじさんの元へと戻った。
 「すみません、ここの道今日は通れなくて。」私は出ない声で謝った。しかし、返事がない。不安に思い、下げていた頭をゆっくりと上げておじさんの顔を見ると、その目には黒のマジックペンが刺さっていた。
 「わぁぁぁあああ!!!!!!」私は初めて夢で声を出した。長い階段を降りると街灯のない農道である。その真っ暗なはずの道の先から、赤白黄色の何かがやって来た。『チューリップ』の歌詞と全く同じ配色のそれは、かのドナルド・マクドナルド(Ronald McDonald)であった。
 真っ暗な農道に映えるドナルドは、まさに「恐怖」そのものであり、2人に挟まれた私はもうどうすることもできなかった。ふと土手の方を振り返ると、先程まではなかったはずのマクドナルドがオープンしていた。最初に私の肩を触っていた参加者は、1人も戻ってこなかった。


見た日:大学2年生の夏

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?