エッセイ#36『接続』

 最近買い換えたイヤフォンに対して、私は妙な懐かしさを覚えている。買い換えてから数日が経った今日、その正体にようやく気が付いた。

 私が買ったワイヤレスイヤフォンは左右の耳がコードで繫がった、首に掛けるタイプのものである。ボタンを長押しするとスマホとBluetoothで接続される、至ってシンプルな作りのイヤフォンだ。
 一体これのどこに懐かしさを感じていたのか。その理由は、イヤフォンの接続音に隠されている。ボタンを長押しするとまず初めに起動音が鳴り、その数秒後にスマホとの接続が完了したことを表す「ポッ」という音が鳴る。懐かしさの正体とはずばり、この「ポッ」である。
 絶対にどこかで聞いた音だとは薄々勘付いていたが、何なのかはわからない。そんなモヤモヤが解消されたのは今日の夕方、バスに乗っている時のことだ。暗くなりかけた街中を走るバスの中でイヤフォンを起動し、私の耳に「ポッ」が響いたその時、合点がいく瞬間がやってきた。この音の正体は、「水曜どうでしょう」で場所を移動したり時間が経過したりする時の音だったのだ。
 これでまた楽しみが増えた。散歩の途中で「ポッ」と鳴らしてみたり、早朝から外出しなければならない憂鬱な時に「ポッ」と鳴らしてみたり、などなど。このイヤフォンさえあれば、いつでも自分が「水曜どうでしょう」に出演したような気分が味わえる。

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